任務 初戦
ヴァイスには、その体制を疎み対抗しようとする組織がある。この街だか国だかを支配するヴァイスは勢力の増加とともに元々いた自警団や自治組織を追い出すかたちとなった。ほとんどは平和的に併合合併吸収したのだがやはり反発する物はいるということだ。
それらは何処からか武具と魔力持ちの遺物を発掘し、ヴァイスと同じように運用している。縄張りを奪ったヴァイスに仕返しするために。秩序を支配するヴァイスを蹴落とすために。
今回の任務の標的もそれだ、と霜弑は道中で噛み砕いて説明した。黄炬はぼんやりとした理解できなかったようだが。
「今回の任務は389-1区の倉庫街に潜む対抗組織の全滅だ。…質問は」
「ひとつ質問してもいいですか」
「なんだ」
今にも倒れそうな顔色をしているが大丈夫だろうか。おそらく殴り合いだとかそういう次元ではない戦闘になるだろうに、その体調で挑んで平気なのか。途中で倒れたりはしないのだろうか。そればかりが心配である。仮に霜弑が倒れてしまったら、あの不穏な微笑みを浮かべた捌尽に細切れにされてしまうだろう。
「俺の顔色が悪いのはいつものことだ」
素っ気なく霜弑が答える。その顔が鮮やかに色づくのは捌尽の腕の中だけ、という惚気は胸の中にしまっておこう。とりあえず戦闘中に倒れるような醜態は晒さないはずだ。そこまで体調が悪いわけでもない。
「…とにかく、そいつらを相手にしてそれを使いこなせ」
霜弑はぎりぎりまで見守るつもりだ。本来ならこの程度の相手、一級が出るまでもない。黄炬の新人研修ということで駆り出されたにすぎない。
「安心しろ、骨くらいは拾ってやる」
同刻。
「おい、見張りから連絡だ!」
「あいつら来やがった!」
色めき立つ者、怯えるもの、怖がるもの。征服者の巣は一気に落ち着きをなくす。
「しかも"凍天"がいやがる!」
「なんだって!」
彼らの本拠地はここではない。こんな小さな倉庫は支部の支部、ほんの小さな溜まり場だ。こんな末端には魔力持ちもいないし武具もない。そして今からやってくる相手はあのヴァイスの一級。"凍天"と呼び称される男。
絶望しかない。否。
「…大丈夫だ、俺たちには"これ"がある」
対抗する手段がある。魔力持ちがなんだ。武具がなんだ。魔法がなんだ。過去の遺物ごときに踏み散らされるような我々ではない。
「これが現代の力だよ…!」
過去の遺物に縋る愚か者どもなんかに負けはしない。