起章 格付
現れたのは断罪の巨爪。がしゃん、と重い音を立てて巨爪は黄炬の手から転がり落ちた。
重そうだな、と黄炬は思った。すぐに取り落としてしまったのでその重さを感じていない。落とした時の音と、腕とほぼ同じ長さの金属という見た目から重量を予測して黄炬は呟いた。
しかし拾い上げてみるとそれほど重くはない。これなら片手で持てそうだ。腕全体を覆う盾のような手甲のような護拳部分と相手を殴打するための尖った爪の部分が一体になっているようだ。爪の内部は空洞になっていて、そこに腕を入れられるようになっている。試しに腕を差し入れてみると、掌にロープが当たった。成程、これを握り込み、腕全体を使って殴るように叩きつけるようだ。
「…どうなってるんだ…」
戻れ、と呟けば腕輪に戻るそれを見つめて不思議そうに呟く。腕輪と明らかに質量が違う。あの小さな銀の腕輪がこんな大きな巨爪になる。不思議だ。炎を起こしたり氷を作り出すようなわかりやすい魔法とは違うが、これも確かに魔法だ。質量を大きく変えて武器になる。
「さて、それならもう一つの方ですよね」
トラウマかもしれませんけどがんばってくださいね。水葉が指したのはすべての発端となったあの腕輪だ。
「きっと爆発を起こすようなものだよね」
それで362-5区を吹き飛ばしたのだから。爆発を起こすか、炎で焼く。そんなような能力だろう。どちらだろうかと楽しみにする捌尽の横を火球がかすめた。捌尽がやや驚きの表情で黄炬を見る。扱い損ねて意図せず火球を放り込んでしまった黄炬は焦った顔で捌尽に謝った。
「違うんです、あの」
「いや、向けたことは怒ってないよ。僕の霜弑が焼けたら怒るけど」
驚いたのはその速度だ。さっきあれだけじっくり時間をかけて巨爪を出現させた。だからこちらも時間がかかると思ったのだ。だが実際には、黄炬がそう思っただけで火球は創生された。明後日の方向に飛んだのはどうやら誤算だったらしいが。
まだ知識も経験も足りない。それでこれか。いずれ成長すればどれだけの速さになるだろう。瞬きひとつであたりは灰燼に帰することができるかもしれない。そうなった時が楽しみだ、と捌尽は霜弑を抱き寄せる。扱い損ねたことに関しては、この愛しい恋人に向かわなかったので咎めることはしないでおこう。
「…それを…思いっきり……あの壁に向かって」
できたはいいがどうしたものか困っていた黄炬に絖が壁を指す。壁への攻撃による損傷具合で階級を計測する。
行け、と黄炬が火球に叫ぶ。その指示通り火球は意思を持つかのように壁へ当たって砕け散る。焦げ跡さえ残らなかった。
「さて絖、階級は?」
「……損傷率…極小…誤差も含めると……三級が妥当なところだと…思います」
「やっぱり。さすがリグラヴェーダの見立てだね」
予想通り、と捌尽が口笛を吹く。ということは霜弑が上司になるわけだ。改めてよろしく、と霜弑と黄炬が手を握り合う。捌尽が一瞬ものすごい形相をしたがあえて触れないでおく。どうやら今夜も恋人の悋気は激しいようだ。抱き潰されることを覚悟して霜弑は覚悟を決めた。どうせいつものことだ。
「さて早速だが、ついてきてくれ」
新入りに必要な案内は済んだ。階級も決まった。ならばあとは他のメンバーと扱いは何も変わらない。
「行くって何処に…」
「初任務、だ」




