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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
初めと始めの章
19/112

起章 発動

「やってる?」

新人研修の様子はどうだろうと、やたら機嫌の良さそうな捌尽が様子を見に来た。その隣には一睡もできていないのか顔色の悪い霜弑がいた。恋人の悋気は相当だったらしい、ご苦労様、と水葉はほんの少し同情した。

「姫ちゃんは何処の扉に入ったの?」

「……ウェポンタイプの、扉、です…」

その性質によって大まかに4つに別れる。まさに魔法のように炎を起こし氷を作り出すもの。忸王が見せたように単純な武器に変じるもの。この空間を作り出した絖の武具のように時空に干渉するもの。そして異形のものを召喚し使役するもの。その性質に従って分類された4つの保管庫のうち、黄炬が入ったのは武器に変じるものが保管されている扉だった。

「どうなるかな。まぁ僕はどうでもいいけど」

恋人さえいれば。捌尽が霜弑を抱きしめる。今にも倒れそうな顔色の霜弑はされるがままになっている。捌尽がここに来たのは事の成り行きを見届けてこいという指令のためだ。黄炬は魔力持ちであるのだから少なくとも四級以上。なら直接の上司になるのは四級の総括以上だ。五級を担当する水葉の管理ではない。だから四級以上の総括である者たちにそう指示が与えられたのだが、実際に来たのは捌尽とそれに引っ張られた霜弑だけである。瑶燐は捌尽がいるというならと拒否し、無名は無回答のまま結局現れていない。

「姫ちゃん、何級になるかな」

目覚めの事故の規模からだいたいの魔力の総量がわかる。つまり動力の容量だ。その動力でもって何の装置をどう動かすのか、つまりどの武具でどんな能力を発言させるかはまだ知らないが、だいたい予想はつく。

「リグラヴェーダは三級相当って言ってたかな」

四級にするには魔力が豊富で、二級にするには未熟すぎる。まずは三級に置いて経験を積ませていずれは昇級が妥当ではないか。そうあの薬師は所見を述べていた。彼女の見立ては正確なので間違いはないだろう。

三級に振り分けられるということは、霜弑の部下になる。しっかりと釘を差しておかねば。霜弑に手を出したらどうなるかということを。ほの暗い執着をもって捌尽は笑う。


「あ、姫ちゃんおかえり」

戻ってきた黄炬は、手にふたつ揃いの腕輪を持っていた。それを見て捌尽が、あぁ、と声を上げた。

「僕がいつかの任務で持って帰ったやつだ。懐かしいな」

ヴァイスに相反する勢力の拠点を潰すついでに奪ったものだ。奴らはその価値を知っていた。それを発動できる魔力持ちを探して人さらいを繰り返していた。そんな輩の集まりだったので潰した。そして戦利品として没収したものだ。

「とりあえず、これかな、って」

石の扉の中を見回り、やたら目を引くのがこれだった。無視するには気になりすぎて持ってきてしまった。だがこれが本当に説明で受けたように適合する武具なのかはわからない。

「……なら、ここで…発動して、ください…」

適合しているなら発動できるはずだ。歯車は噛み合うのだからあとは動力を注ぐだけ。魔力に反応して武具は能力を発揮するはずだ。

暴発とはいえ、一度黄炬は武具を発動させた。なら出来るはずだ。手を挙げるのに教示はいらない。歩くのに指導はいらない。往古、人々は魔力を持ち、それらを当たり前に発動できた。だからその人々と同じ素質を持つ黄炬もまた出来るはずだ。

「ここで出来なきゃ才能なしだよ」

魔力は持つが適合するものがないという扱いで四級に振り分けられる。どうなるかは黄炬次第。ある意味運命を決める。四級の総括はあの無名だ。あれが上司になって振り回されるよりかはまだ放任主義の霜弑が上司のほうがいくらかましだろう。

「さぁ、出してご覧よ」


発動しろと言われても。困ったように黄炬は眉を下げる。とりあえず冷静に暴発させたときのことを思い出すことにした。

荷車からあのバンクルが落ちた。それを拾って渡そうとして、殴られた。その理不尽さに怒り、爆発。あの時に何があっただろうか。その時、爆炎の瞬間。何を思ったのだろうか。

腹が立った。理不尽に殴りつけた御者に殴り返したかった。だが、相手は黄炬よりもずっと大柄な男性で。殴りつけたところで返り討ちにされるだけだろう。

そう、臆したのだ。怒りの裏で確かに臆した。恐怖を感じ、そしてこう思った。力が欲しいと。反撃を受けないように、理不尽に痛めつけられないように。

力が欲しい。弱い自分を脱却するための力が。自分よりも大きなものに対抗する力が。


「…あ、発動するよ」


捌尽の呟きと同時、ふたつ揃いの腕輪は巨大な爪へと形を変えた。

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