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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
惨禍と参加の章
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断章 回顧

夜。さしあたって宛てがわれた部屋のベッドで、黄炬は今までのことを整理することにした。


一級統括の捌尽、二級統括の瑶燐。三級は霜弑で四級は無名。五級は水葉が統括する。医療施設は梠宵が牛耳る。その下僕でもあり倉庫番を担当するのが絖という人物らしい。そして薬を扱うのがリグラヴェーダ。情報管理を担うのが玖天という少女で、組織の胃袋を支配する唯一の良心が忸王。

一級の面々。一癖も二癖もある連中だが、少なくとも根からの悪人ではなさそうだ。良識は欠けているが邪道外道には堕ちていない。肝が冷える場面は何度かあったが、害意があったわけではない。彼らなりのやり方でからかって遊ぼうとしただけだ。と思う。そうであってほしい。


などということを考えながら黄炬はベッドで寝返りを打つ。枕の側に置かれたバンクルが目に入った。

結局最後まで取り上げられなかった。理由を訊ねたところ、目覚めたての雛が暴れたところで簡単に制圧できるからと答えられた。

それにあの大事故は黄炬の怒りをきっかけにした魔力の目覚めの暴発によるもので、普段なら多少激高したところで暴発が起きることはない。明確にそうしようと思い、武具に魔力を込めなければ魔法は発動しない。黄炬がそうしようと思わなければ武具はただの古物の装飾品だ。だから取り上げる必要が無いのだと言っていた。


武具。"大崩壊"以降失われてしまったもの。魔法のための装置。

"大崩壊"というものは黄炬も知っている。文字が読める程度の教養があれば誰でも知っていることだ。はるか昔、まだ豊かだった世界を引き裂いた大災害だ。どういう風に破壊があったのかは知らない。ただ、昔にそういうことがあって世界は荒れ果てたのだとしか知らない。原因も過程も知らない。

その"大崩壊"によって魔法というものが消滅した、とは忸王の弁だ。往古、世界には魔法がありふれていた。誰もがそれを扱えていた。仕組みは今と変わらない。装置である武具に動力である魔力を注ぐ。

それが"大崩壊"によって失われた。武具を起動するための魔力を持つ者が生まれなくなった。武具はもはや使えない武器となりただの装飾品に成り下がり、そして魔法は忘れられていった。そうして遺物となった。

その遺物の存在を思い出させるように、魔力を持つ者が生まれるのだ。見目は何も変わらない。それがある日、色んなきっかけによって目覚める。眠っていた力が目覚めるのだ。その瞬間に武具があれば。


それが自分だ。理不尽さへの怒りによって目覚めた力。たまたまそこにあった武具が反応した。そうして消し飛んだのが、362-5区。

よくあることだと瑶燐は言っていた。彼女もまた目覚めの瞬間に惨劇を起こした。人死にの大小はあれ、魔力持ちの目覚めにはそれが伴う場合が多い。最も目覚めやすいきっかけが武具との接触だからだ。

中には平和的な目覚め方をする場合もあるという。どういうわけか、リグラヴェーダは目で見るだけで相手の魔力の有無がわかる。それによってあると判定された場合だ。彼女の持つ力につられて目覚めるのだ。

そうであればよかった。もっと平和な覚醒の仕方をしていれば。黄炬が生まれ育った場所は今でも在ったのに。そこで生活する人々は生きていたのに。

もはや取り返しが付かない。取り返しようがない。引き起こした事態の責任を取るために、と言われたし言った。だからここに来た。

だが、もう責任の取りようはないのではないか。諸手を挙げて首を吊らなければ償えない。否。自死でも償えない。

灰になった362-5区は黄炬の目覚めのための犠牲だ。犠牲を無駄にするなと言われた。


だがこの犠牲を積み上げた先に、何がある。


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