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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
惨禍と参加の章
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序章 撃滅

「僕の霜弑に何してるの?」

絶対零度が降り立った。と思ったら、黄炬の首筋にひやりとした感触がした。声に気圧されて後ろを振り返ることが出来ない。振り返る余裕が黄炬にはない。動いたら殺される。そんな予感がした。

「僕の霜弑とふたりでご飯? なら刀のおかわりはどう?」

黄炬の首に押し付けられたものがわずかに食い込む。

「…捌尽(はちつき)、やめてやれ」

「へぇ、庇うんだ?」

霜弑が溜息を吐いて刀を持つ男をたしなめる。食後に一服していたら質問されたので答えていただけだ。刀を取り出して激高するような事態は起きていない。そう黄炬を庇うとますます周囲の温度が下がった。

僕の霜弑が僕以外を庇うなんて。そんなことを言いながら男は黄炬の首にあるものを更に食い込ませる。血が滲んだ気がした。いよいよ斬られるかもしれない。

「……なんて、ね」

死を覚悟した黄炬からぱっと手を離す。冗談めかした笑いを浮かべる男が持っていたのはただのスプーンだ。斬れるわけがない。

少し凄んでみただけだ。新人に釘を差しておきたかっただけだ。刀を刺すのはその後で。さり気なく物騒なことを口にしながら捌尽という男は穏やかに笑う。

おっとりとした平和主義者といった温厚そうな顔つきをしている。その腰には黒塗りの鞘に収められた刀が一振り。桜の意匠が美しい。

「はじめまして。霜弑の恋人の捌尽だよ。階級は一級。よろしくね」

(さば)き尽くすと書いて捌尽だ。刀を携える容姿に似合う名前だった。いや、字面はいい。問題は恋人のくだりだった。声や体格からして霜弑は華奢な方だがれっきとした男だ。そして目の前の捌尽もまた男。同性の恋人ということになるのだろうか。

別にそういうことに黄炬は偏見を持たない。今まで見たことがないので偏見の持ちようがなかっただけだが。しかし目の前にされるとどう反応していいかわからない。

狼狽する黄炬の様子を見て霜弑は助け舟を出すことにした。

「…いい加減にしろ」

俺がいたたまれない。座る霜弑の背中に抱きつくようにして見せつけようとする捌尽の額を軽く小突く。この恋人は独占欲を丸出しにして些細なことで嫉妬して激高する。それを宥めるのももう慣れたものだが。これのせいで誰も霜弑に近付こうとしない。口頭の業務連絡ですら忌避される。食堂で食事をしようものなら、席についた瞬間に周囲の人間が立ち上がる。

「だって僕の可愛い霜弑を独り占めしたいんだもの」

「…何を言い出すんだお前は…」

そう言いつつ満更でもない顔をしている。もう勝手にしてくれ。黄炬は目の前の光景に一種の諦めを抱く。早く帰ってきてくれと忸王の帰還を願うが、夕飯時で混み合っているのですぐには帰ってこないだろう。つまりこの雰囲気にひとりで耐えないといけないわけである。

「あら。黄炬じゃない」

割り込んできた声に振り返る。夕食のトレーを手にした瑶燐がいた。

ようやく見知った顔が来たことに安堵する。これで割り込んできたのが加虐趣味の女医やら何だったら逃げ出しているところだった。そこまで梠宵のことを危険人物と分類している。

だがしかし黄炬は知らない。瑶燐もまたそれなりに危険人物だということを。普段は出さないだけで。

慣れそうかという瑶燐の問いに頷く。慣れるも慣れないも慣れるしかない。ここで生活していかなければならないのだから。いずれは自分も危険人物たちの爆弾発言をさらりと流せるようになるのだろう。なりたくはないが。

「そう、頑張ってね」

この様子では先々で相当遊ばれたな。かわいそうにと同情しながら瑶燐が黄炬に微笑む。

和やかな空気が流れたのも一瞬。

「話し終わったら帰ってくれる?」

捌尽の不機嫌そうな声で場が凍りついた。

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