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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
堪えきれない答えに応える章
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戦章 歩者

"大崩壊"の前。"灰色の賢者"は世界を救った。

もちろん一人でではない。何人もの仲間と共に、世界を背負って戦った。

当時の仲間は戦いの後に別れ、それぞれの道を歩んだ。夫婦として結婚した者、独身を貫いた者、周りが外堀を埋めてようやく結ばれた者。"灰色の賢者"に武具を預けていなくなった者。他にも様々な進路に別れ、時に交わり時に離れ、そして、"大崩壊"ですべては断たれた。

その時に、失われたと思っていたのに。


「……ヴィト?」

何をやたら驚いているのか。リグラヴェーダやら何やらに絡む複雑な因縁とやらだろうか。そうだったら踏み込むべき話ではないのだろうなと思いつつも梠宵は隣の"灰色の賢者"に声をかけた。

目を見張って画面を注視していた"灰色の賢者"は、梠宵の声で我に返る。どうしたのかと問いたげな視線に、ナンデモナイ、と答えた。

「昔、預かってて……壊れてなくなったと思ってた武具があったカラ……ビックリしたノ、ゴメンネ」

梠宵の心配する複雑で面倒な因縁だとかではない。なくなったと思っていたものが目の前に現れたので驚いただけだ。

「アレ、元はボクの預りモノなんだヨネ……ボクに返してほしいナァ…」

あの、伯珂とかいうやつが持っている銀のプレートだ。あれは1000年ほど前に"灰色の賢者"がとある恩人から預かったものだ。預りものを保管していた場所は"大崩壊"の起点の直下にあり、"大崩壊"以後見当たらなかったので、"大崩壊"で失われたと思っていた。

そんなものが目の前に出てきたのなら是非とも回収したい。あれは"灰色の賢者"に預けられたものだ。ならば正当な持ち主は"灰色の賢者"でなければならない。

「……だ、そうよ。犬」

武具の回収と保管に関しては絖の管轄だ。梠宵は椅子もとい忠犬もとい絖を見下ろした。絖は梠宵の椅子となるべく四つん這いの姿勢のまま、首だけを持ち上げた。

ヴァイスが武具を集め、保管しているのは"灰色の賢者"の指示である。その倉庫番が絖だ。絖がいなくなれば絖の"ドアーズ"で保管されている何百もの武具は取り出し口がなくなり失われる。それほど重要な位置にいるのに現在では梠宵の忠実な犬である。

「……そう…ですね……回収できるなら……保管は構いません…」

征服者(ヴィクター)を殺して反ヴァイスの勢力を潰すための戦いだが、もちろんその過程で征服者(ヴィクター)の持つ武具が回収できれば保管役としてはありがたい。次点で武具の破壊。これは武具を無きものにするという"灰色の賢者"の志である。最悪なのが現存したまま行方知れずになることだ。

破壊ならば"灰色の賢者"の志を理解している一級たちが指示せずともやってくれるだろう。だが保管するとなれば、壊さずに回収しろと指示する必要がある。

「それなら連絡しないとですね。ヴィトさん、その武具は……えっと、伯珂さんのでいいですか?」

裏切り者の名前を呼ぶのにやや躊躇しつつ、忸王が確認を取る。うん、と"灰色の賢者"の肯定を認め、忸王はそのまま通信武具に呼びかけた。

「もしもし、皆さん。お願いがあるんですが……」


必ず回収しろ、まかり間違っても破壊するな。これは"灰色の賢者"の意向だ。忸王からの通信を聞いて瑶燐は肩を竦めた。

よりによって伯珂の武具か。伯珂は武具も何も気にせずに滅茶苦茶に切り刻んでやりたかったのだが、こんな指示がきてしまった。

「"犠牲者による防衛"!」

伯珂がプレートを読み上げる。手の平ほどのプレートには文字とレリーフが彫ってあり、その文面を読むことで能力が発動する。読み上げる文言により効果が違い、その効果は持ち主の解釈に委ねられる。伯珂の創造力により形を変える武具の名を"歩み始める者"という。

そして、伯珂が読み上げた文言に従い、能力は発動する。伯珂が"犠牲者による防衛"という文言から解釈した能力が。

「……っと!」

犠牲者による防衛。その能力は周囲のものや人を盾にする。何かしら盾になる犠牲者を目の前に呼び出し、それによって攻撃から身を守る。伯珂の盾となる異形(モノ)は十分にあった。

「だぁめ。身を守るだけじゃ意味ないでしょぉ?」

時間稼ぎも必要だが、それ一辺倒ではだめなのだ。影から上半身だけを現してフードの人物がついと指を指す。

「"放浪者"。砕羽を飛ばして。一番槍はあの子からでしょう?」

指された隻眼の女はほんの少しだけ目をすがめた。そう、作戦を決めた時、順番も決めた。殺される順番だ。伯珂の能力で強制的に、あるいは自然の流れで、それぞれ離脱して死ぬ。

「ったく……"放浪者による騎行"」

じゃあな。呟いて伯珂はプレートの文章を読んだ。途端、隻眼の女の姿がその場から消えた。

「転移ですか? 何処に逃げたって……」

逃げ場なんかないのに。言い切るより前に水葉の姿もまた消えた。



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