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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
惨禍と参加の章
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序章 狂乱


「……は?」

御主人様。ってまさかあれか。医務室の女王様を思い浮かべる。まさかあの奥の小部屋で何度も叩かれていた人物は。

思い至ってしまった黄炬が身の内に百万語を渦巻かせ思考する。まさかとは思うが。それしかないだろう。

そんな黄炬の心中を知ってか知らずか、少女ふたりはどんどん話を進めていく。

「じゃぁ絖さんは今、梠宵さんのところなんだ。困ったなぁ」

「うん、すれ違いどんまい! まぁでも明日会うっしょ?」

「そうなんだけど…まぁでも仕方ないかぁ」

どうやら両者の間で話がまとまったらしい。忸王が黄炬を見る。

想定していた順序とは違ってしまったが、同じく一級の人間である少女を新入りに紹介しなくては。

「紹介するね。ヴァイスの情報管理総長の玖天ちゃん」

「どーも! 情報操作とか色々やってます! 玖天ちゃんです! 14歳の可愛い女の子だよ!」

砕けた敬語で茶化した自己紹介をふざけた敬礼とともに添える。

陽気で能天気で騒がしい。年頃の少女らしくていいのだが、それより。

「…14歳で一級?」

一級というのは選ばれた精鋭だ。というのが黄炬の理解だった。魔力という才能で前後するが、それでも年上ばかりだと思っていた。

それが自分よりも5歳も下な少女だとは。というより忸王も同じく一級。選ばれた精鋭という地位に少女がふたりいるのが妙にそぐわない気がする。

「まー、あたしは魔力持ちっていうのもあるけど」

話しながら、玖天はポケットから棒付きの飴を取り出した。外装を破いて口に放り込む。

曰く、彼女の親はあの安全な壁の中に住む人間らしい。

「裏のお仕事とかもしてるからねー。要人の暗殺依頼とかさ。んで、そういうのの標的にしないでくださいって」

単純に言えば人身御供だ。生まれたばかりの娘をヴァイスに引き渡して取引した。

そうして玖天はヴァイスのもとで育てられたのだ。

「んで、ある日、あたしが数学的天才だって判明して」

まだ言葉もおぼつかないような幼い頃。数字のタイルを並べて遊ばせていた時のことだった。

並べたそれが非常に複雑な、それ専門の教育を受けても理解できるかどうかの数式だった。

彼女は天才だった。どんな複雑な計算でも一瞬で暗算できる。難度にもよるが複数の数式を同時に計算できる。

そうして情報管理の役目に就いたのだが、当時の上司である人々を次々と才能で追い抜いてトップに登りつめた。

魔力はないがこの才覚は無視できない。特例として一級に、という気運が高まる中、魔力持ちが判明した。

皆無と思われていた魔力は覚醒し、そして花開いた。

「ま、そーゆー感じで一級だよん」

ふふん、と得意気な顔で笑う。その時、ぴぴ、と玖天の首元で小さな機械が鳴る。

「おやまぁ通信が。ちょっちごめんね」

どうやら首元のそれは通信端末らしい。離れた場所に声を届けるための機械だ。

なぁに、と元気な声で応じる。

「はいはーい。……うん…いやそれは霜ちゃんに…えぇ捌ちゃんが? …やだぁ……」

いやだって、でも、といくつかのやり取りを交わしたあとで通信を切る。用事は終わったようだ。

「にのちゃんごめん! 用事ができた!」

お先に、と返事を待たずに彼女は走り出した。騒がしくやってきて騒がしく帰っていった。まるで嵐のようだ。

あの元気さに振り回されて消耗しそうだ。なんというか、破天荒だ。

加虐趣味の女医師に被虐趣味の倉庫番、危険な香りのする薬師に破天荒な情報管理総長。本当に濃い面々だ。そうでもなければ一級など務まらないのか。

ここまで付き合ってみての感想だが、なんと忸王のまともなことか。切実に思う。

いやしかしまともに見えて実は、ということもありえる。不安そうな目で黄炬は忸王を見た。

「…なんか変なこと考えていません?」

「いえ別に」

「そういうこと考えるとご飯抜きだよ」

もうそろそろ飯時だ。色々あって疲れただろう。魔力の目覚めから今まで、凝縮された1日だった。この日で黄炬の運命は大きく変わってしまった。

荒れ果てた街でただの孤児の青年として暮らしていた黄炬は、今やこんなところにいる。

一生関わりはしないであろう組織で、しかもその隠された目的をなすための一員として。

「そういえば飯って…」

「ご飯はね、22階。ここのひとつ下」

壁を抜いて、階を丸々ひとつ食堂にしている。そこで食事を摂る。

恐らく黄炬が想像しているだろう光景がそのまま広がっている。まさに食堂と言われて思い浮かべるようなそのものだ。

「で、その食堂も当然一級の人が管轄しているわけでね」

ヴァイスの食糧事情を担うという重要な位置なので、一級の人間が責任をもって管理しているのだ。

ここが立ち行かなくなればこの拠点はあっという間に飢える。だからそうならないよう、しっかりと管理するのだ。目立たないが重要な位置である。

「その管轄が私。忸王です」

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