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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
堪えきれない答えに応える章
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戦章 死策

戦いが始まった。だが、突っ込んでいくのは馬鹿のやることだ。

まずは敵を調べることから。征服者(ヴィクター)の偵察部隊の1人であった少年は額にずり上げていたゴーグルを下げた。

「"観測"開始っと……」

偵察武具"シレア"。ストラップのついたゴーグルであるそれは周囲を観測することに特化した武具である。ゴーグルのレンズを通せば、見たいものが見える。まわりを取り囲む瓦礫を見透かし、はるか遠くにいるヴァイスの姿を正確に捉える。

更夜(こうや)、どうだ?」

「視えてるよ。……やっぱり先頭は"呪禁"、後ろに……知らない顔だなぁ、鍵の人かな。もう少し遅れて"凍天"、"撃滅"、"幻惑"……"形無"と"応召"はいないね」

「そうか。予想通りだな」

やはり"呪禁"の瑶燐が先陣を切るか。予想通りだ。彼女は敵対者であり裏切り者の伯珂を許すことはないだろう。必ずこの手で殺そうとするはずだ。

「後ろにぞろぞろついてくるとはな」

ヴァイス側は黄炬が死んだら終わりだ。その瞬間、この闘技場のオーナーの配下の私兵が割り込んで彼らを拘束し処刑する。

あのヴァイス一級相手にどうやってそれをするのか伯珂には予想がつかなかったが、必ずやれるとオーナーは言っていたので"そう"なのだと曖昧に理解しておく。

話が逸れた。つまりはヴァイス側としては黄炬の身を守ることが何よりも優先される。黄炬の安全を確保してからでなければ迎撃にも出られないのだ。だから誰かが護衛につくのは予想していたが、まさか一級のほぼ全員が護衛となるとは。

これはまたとない好機だ。"撃滅"の名を冠する捌尽がその名を示し闘争本能のまま刀を振るうという、抵抗の余地もない死に方をこれで封じることができた。あれは一人でなければ恋人を巻き添えにすることを気にして闘争本能を抑える。

そんな捌尽相手に"零域"で変異した異形でどの程度攻撃が通じるかはテスト済みだ。結果、あれは物量による時間稼ぎにしか使えないことが判明している。

時間稼ぎができるなら結構。そこから反撃の一手を考えればいい。

そして、作戦の立案に特化した仲間がここにいる。伯珂はゴーグルをつけた少年を信頼の目で見やった。

更夜。彼は征服者(ヴィクター)の参謀だ。頭が回り機転が効く。不可能に可能を見出だし、まるで針に糸を通すかのように物事を見通す。それができるのがこのゴーグル型の武具だ。"シレア"と名付けられたそれは誇張ではなく万物を見通す。

「分散させないで、囲んで、叩く。基本はこれしかないね」

個別に引き離して戦闘をさせた場合、どうなるかはこの前の襲撃でよくわかっただろう。だからあえて固めていく。

一級どもは個々の実力は抜きん出ているが連携だとか連帯だとかがまったく取れない。強すぎる個は主張しあってぶつかり合う。お互いがお互いを邪魔に感じてしまう。

それを突くことができれば、あるいは逆転の目があるだろう。

「黄炬を殺せば一気に逆転はできるだろう、なんで殺りにいかない?」

「あえてそれは狙わない。見えている餌は罠に決まってるから」

これは対ヴァイスというより、万姉とかいうオーナーへの警戒だ。これ以上ないほどわかりやすく逆転の鍵が置いてある。まるで狙えというように。そういうものはたいていが罠なのだ。

ここはお互いがお互いに足を引っ張りあう形になっている一級どもを狙う。殺せるとは思っていない。多少鈍らせればいい。そうすれば焦れて誰かが飛び出すはずだ。

「それを?」

「潰す」

そうか。伯珂は心の中で呟いた。お前はまだ、抗う気でいるのかと。こうして逆転の盤面を探してそれを手配しようとする。圧倒的な実力差を埋めようと条件を整えようとする。

誰も彼も、そんなことは望んでいないというのに。

どう足掻いても勝てない。進退はすでに仕組まれたレールの上。弄ばれるしかない運命。ならばまだ選択の余地があるうちに、自由意思が許されるうちに"いま"を刻み付けて死んでやる。そのほの暗い思いで征服者(ヴィクター)は戦いに臨んでいるというのに。

「まぁ、勝つための作戦を立てるならこんなところ」

つい癖で勝つための作戦など考えてしまった。では、それを踏まえて自分たちの本懐を遂げる方法を考えてみよう。

彼もまた後ろ暗い覚悟でここにいる。死ぬために戦いに挑む少年は自分たちが死ぬための作戦を諳じた。各個玉砕、と。

「勝つための手がこうなんだから、逆をやったら死ねる。そう、襲撃でよくわかったでしょ」

つまりは各個撃破を狙って一級どもを分離させる。あとは一対一で死んでいく。一対一になる前に全員が一気に殺されないよう、連携できない一級どもを固めたまま保持しておいて、その集団から1人ずつ引き離してから1人ずつ死ぬ。

ちょうど魔力持ちの何人かは一級の面子と少なからず因縁があったりなかったりする仲だ。といっても大層なものではなく、ほとんどが仲間を殺された恨みだが。

「後ろ暗いな」

「まぁね」

まずは一級どもを固める。一級どもはお互いに足を引っ張るから固めたままならこの戦力でも拮抗状態でしばらくはもつ。

そこから順番に1人ずつ抜く。こちらの1人が一級ひとりを釣り出して離す。戦う、死ぬ。死んだのが確認できたらまた1人を釣り出す。

「それで終わり。簡単でしょ?」

と、作戦を伝えている間に時間の猶予が減ってきた。"呪禁"の瑶燐を先頭にした集団が真っ直ぐ突き進んできている。自分たちがたむろしているここに到達するまであと少し。

「はい、固めるために異形どもを使うよ」

スターとの合図と同時、魔力持ちでない仲間たちには全員"零域"を服用させた。理性を失った異形はこのフィールドを闇雲に駆け回っている。

一級どもをこの場にまとめ、戦況を保持し、それぞれ死ぬまでの時間稼ぎをするには異形どもが必要になってくる。

「伯珂、頼んだ」

「おう。……"歩み始める者"、発動」

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