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オリオンの渓谷

サイとミーナが帰ってきた!大ヒット作「カレは草食男子!」のオルタネートバージョン、読者のリクエストに応えて堂々爆誕!!みんなきゅんきゅんしてってね!!

「14歳にもなって彼氏いない歴=年齢なんて恥ずかしくない?」

そんなことを言われても・・

16歳になる頃にはクラスでいない歴=年齢はミーナだけになってしまった

「ミーナさ?ビアンなの?」

「ち・・違うよ・・私・・」

「だったらなんでカレシ作ろうとしないの?」

答えに窮した

「AKBはピュアでないと入れないから・・」

「ばっかじゃないの!バレなきゃ恋愛してもいいのよ、

秋元康先生も『恋愛禁止なんて無い』って言ってるじゃん」

「そ・・そんな気持ちで務まるほどアイドルの世界は甘くないよ!

大金のかかった厳しいプロの世界なんだよ?」


ミーナの視線の先には及川サイがいる


ユッコとカオリは顔を見合わせる

(わかりやすい子だなぁ・・)


「及川ァー!これ持って、あ、これもあれも、全部持ってけ!」

「う・・うん・・」

「早くしろよ!」

「ご・・ごめん、イテッ・・!」


命令され殴られ蹴られひたすら謝っている及川サイ

いつもの光景だ


ユッコとカオリは声を強めていう


「キモいよねーあの草食サイ」

「あんな勉強ばっかりしてる厚底メガネサイなんて一生彼女ナシだよ!」

「肉食じゃないと絶対将来ヤバイよね」


「ねっ、ミーナ?」

「どうしたのミーナ?」

「う・・うん・・」


及川クン!


サイは『太宰治全集』を読みながら下校していた

ふっと顔を上げると待ち伏せていた安原ミーナが目を潤ませている


「及川クンてさ・・女の子と付き合ったことないってマヂ?」

「そうだよ」

「1回も?」

「ああ」

「ピュアなの?」

「ああ、完全ピュアネスさ」

「女のコに興味ないの?」

「ビッチに興味がないんだ」

「及川君、あのね!私も・・、完全ピュアなの!」

「か・・完全・・なの?」

サイの顔がぱっと明るくなったがすぐにソッポを向いてしまう

「だから何?僕は勉強のほうが大事だ、ますます日本経済は厳しくなるのに・・」

「愛しあうのはいいことだって・・新聞にも書いてるじゃん?ひとつになろうって」

「メディアはカネをもらって書くのが仕事だ、それで得する人たちのためにね!」

「誰が得するの?」

「ラブホテル作ったり、AV売ってるヤクザとか半グレの人たちだよ」

「でも自由な恋愛で人間の自由や尊厳が・・」

「自由恋愛は自由恋愛で得する人たちが広めてる新興宗教さ」

取り憑く島がないようだ

「もういいよッ!!」

ミーナは情けなさと恥ずかしさで涙ぐみながら走り去った

及川君のばか!!だいきらい!!


ミーナ!


朝からユッコとカオリに取り囲まれた

「サイはやめときな!」

「あわわ・・私、全然あんな人、興味ない、キモいし!完全ピュアだし」

「見れば分かるの!あんたすぐにサイのところに借りに行ったり、

チラチラ見たり、周りをウロチョロしたり、ピュアピュア天使しすぎなの!

向こうもとっくに感づいてる!」

「で・・でもいつもすごい無視されるよ?」

「それが草食男なの!」

「ミーナも寂しいし、なにより悔しいでしょ?」

「いっぱい楽しい思い出作ってくれるカレシがいいよ!

だいたい一緒に歩いててカッコ悪いじゃんあんなシャバ僧」


そういうとユッコとカオリはカレシ達と撮った写メやBBQ、

リア充パーティーの画像や動画を見せてきた


他校の生徒もいっぱいいる、みんなキラキラしてる

すごく幸せそうに欧米コンプを解消している


「でしょ!ミーナもジョインしようよ!

ミーナの写メ見せたらすごい可愛いってみんな言ってたよ!」

「でも私・・」

「かー、シャバい!シャバいよミーナ!」

「だから私達、ミーナのために最高のプレゼント用意した!」


そういって画像を見せる


あっ、キララくん!


「キララくんがミーナとならデートしてもいいって!」

「えっ、でもキララくんは彼女いっぱいいるんでしょ?」

「うわわわわ・・出たよピュアネス思考!イマドキ古い!重い!めんどくさい!」

「そうだよ、いろんな男の子と付き合ってみることでコミュ力が高まるの!」

「そうやってさ、自分で選ぶ力を身につけてくの!」

「自分で動いて、自分で決める!世界が広がるよ!

経験豊富で超絶人気のキララくんの・・となれば一躍社交界のスター!」


口々に説得されてそんな気になってきた

親友たちの思いやりも無視できない


「わかった、私、ちゃんとした普通の女の子に、なる!」


うわー、やったー!おめでとうミーナ!!

女子達が大盛り上がりだ


及川サイが『ノヴァーリス詩集』を読みながら帰っていると

またしても安原ミーナが待ち伏せている


「私、今度の金曜の夜、キララくんとアステロイド・パークで花火を見るの・・」


「吉川君と!?」


「それだけ!」


言い捨てるようにミーナは走り去った

サイは追ってこなかった


金曜の夜、待ち合わせ場所にキララがいた

「キララ君よろしくね、ミーナ!頑張って!」

ユッコとカオリは帰ってしまった


キララが優しくミーナの手をとった

初めて触れる男子の手

やっぱり女子より厚くてたくましい


「依頼された時はびっくりしたよ、ミーナちゃんが彼氏いない歴=年齢なんて!

一緒にアステの花火を見れるなんて夢みたいだ!」


えっ、それって・・


キララが言うには、ミーナは学園トップ美少女として男子の憧れの的であるという

だけどとっくにカレシがいるのが当たり前だと、

恥をかきたくない男子はみんな遠慮していたというのだ


私って・・そんなに・・


「付き合ったことがなかったから、人の気持がわからなかったんだよ、

今夜、本当の自分に生まれ変わろう!」


アステロイド・パークに到着し、クレープを食べたり、乗り物に乗ったり、

隣のキララは常に笑顔でエスコートしてくれる


アステロイド・パークは㈱オリオンランドが経営する

全天候型アミューズメント・パークでありカップルの聖地だ


「そろそろ時間だね」

「うん」


予約時間が迫ってきた

2人は「オリオンの渓谷」と名付けられたアトラクションに向かう

キララが手を引いていく


「どうしたのキララくん」

少し痛い

「あ、いやいや、ついつい・・・、ごめんごめん」

「うん」


しかしミーナからは何かしら芽生えた不安が消えない


それは隣に男子がいることへの不安とはまた別種の不安だ


「オリオンの渓谷」はカップルに一番人気のあるアトラクションだ

蒸気船オリオン号に乗って峡谷に見立てたセットを巡っていく


闘いあり、財宝あり、ロマンスあり、

クライマックスでのスリリングな川下りの終着点で豪華な花火があがるのだ


それに彩られながらキスをするのがカップルのお約束・・・


二人一組で次々に乗り込む蒸気船、身体は自然と密着する

ミーナは恥ずかしくてぎこちない

「大丈夫、すぐに慣れるよ」

キララは優しく微笑む

ちょっと危険なイケメンの香りにミーナはのぼせてしまった


「わぁ・・・」


プロジェクションマッピングが色とりどりの星空を映しだし、

ナレーションが冒険の旅を盛り上げる


財宝を巡って争っていた海賊たちもやがて自由讃歌を歌い上げる

大事なものはマネーじゃない、ハートだ

愛さえあれば何もいらない


全てを差し出してしまおう、世界は一つ、ボクたちみんな世界市民

ボクは君で君はボク、君のものはボクのもの、ボクのものはボクのもの!


ロマンチックな情景の中で愛と自由の讃歌が大音量で繰り返される


天の上に天はなく、人の下に人はいない

平等、公平、友愛、パーフェクトな自由

それが全て、それが全て、国境もいらない、財産もいらない

大事なものはみんなのもの、みんなはひとりのために、ひとりはみんなのために


ララ~ララララ~

愛さえあればオカネなんていらない~

名前なんていらない、顔なんていらない、だってみんなはひとつだから

ひとつになろう~、ひとつになることは素晴らしい~

ああ~民主主義~、話し合い~、みんなで決めたことは正しいから~

人類の理想~♪

信じよう~!信じよう~!信じよ~~~う~~~!!

し~~あ~~わ~~せ~~~~~!!


愛と自由の讃歌が繰り返し流され、

いつしかミーナもうっとりと聞き惚れていた

「信じよう、私、幸せになりたい」


気がつけばキララがミーナの肩を抱いていた

「えっ・・」


いつの間に?


戸惑うミーナにキララが笑顔を向ける


その何かを宿したかのような純粋な瞳を見ると

ミーナは何も言えなくなってしまった


キララに体を預ける


星たちは尚も毒々しいまでに輝き、愛と自由の讃歌の音量が更に高まる

ふわりと体が浮く

「きゃーーーっ!」

一斉に女子達の歓声があがった


オリオン号が渓谷の頂上に到達し、急流川下りを開始したのだ

ぐんぐんとスピードをあげてスラローム

男子たちが肩を抱き、女子達がしがみつく


キララもミーナを更に強く抱き寄せようとする

しかしミーナはしがみつくことができない

懸命に体を寄せるのだが、そこから先に動けない


そんなミーナの様子にキララが少し表情をこわばらせたように見えた

(このままじゃ嫌われちゃう!)

頑張ってキララにしがみつこうとするのだが、

やっぱりダメだ


終着点についてしまった

キララも無言だ、少し唇を噛んでいる


「キララくん・・あの・・、なんていうか、私、男子と付き合ったことがないから」


キララは微笑んだ

「可愛いよ・・」


キララがミーナを再び抱き寄せた

さっきよりもきつく肩を抱く、まるでもう逃さないと言わんばかりに・・


終着点は既に屋外、アトラクションの外である

実にうまく設計されたロケーション


照明が落ち、暗がりが支配者

カップル達のボルテージが高まり、鼓動が連鎖してビートが聞こえるようだ

さあ、いよいよだ


オリオンの渓谷、

めくるめく大冒険を経て脱出したヒーローとヒロインのために

満を持して100発の花火が打ちあがる!!


パン!パン!パン!パ―ン!!


花火に照らされたカップルたちの重なりあう姿が映しだされ

発せられる悦びの囁きが小波のように連なる


胸の鼓動で何も聞こえなくなりそうだ

キララがミーナを引き寄せて向かい合う

ミーナは身体をよじった

「ごめん、キララくん、私やっぱり・・」

しかし身体の自由がきかない

キララが人間とは思えない強い力でミーナを抱きすくめるのだ

「ちょっ、キララくん!」

有無を言わせず身体を密着させてくる

「待って、キララくん、いやっ・・!」

キララの固く冷たい手が震えているミーナのちいさな顎を持ち上げ、

自らの唇を近づける

「いやっ、いやっ、離してっ・・」

「ダメダネ」

キララの冷たい声に息が止まりそうになるミーナ

直撃した真空の視線に射られるように意識が遠のく

涙が溢れだす

「たすけて・・サイ・・くん」


その時―――!!


サイが猛然と飛び込んでくるとキララに体当たり!

ミーナから引き剥がしたのだ!!


キララは口から熱線レーザーを放射したが

サイは素早くかわす、

そして左腕のサイコガンでキララを撃ちぬいた!


眉間を撃ちぬかれ横たわるキララ

呆然とするミーナ


周囲のカップルたちが一斉に襲いかかってきた!

その目はどれも鈍く邪悪なトロけた光を放っている


「きゃあああーーっ!」

「安原さん!下がって!だリャーっ!!」


サイはミーナを庇うとカップルたちをちぎっては投げ飛ばす!


やがて花火が打ち尽くされ、辺りは暗闇と硝煙の薫り

そして四方から迫りくる気配


サイは取り出した照明弾を地面に叩きつけた!


カッ――!!

周辺は昼間のような明るさを得る


カップルたちに取り囲まれている!!

その目はすべからく真空だ


「イマドキ~」「アタリマエ~」「クウキヨメ~」「コミュリョク~」

カップルたちは既に人間の言葉さえも忘れたかのように

意味不明のタワゴトを繰り返しながら一斉に突進してきた

そこにあるのは殺気だけだ!


「伏せてろッ!」


サイはミーナにそう言うと、

サイコガンの出力を全開にして応戦する!


激しい闘争の響き、そしてやがて訪れる静寂


「ふぅ・・一段落か」


震えながら伏せていたミーナをサイが助け起こす

ミーナはしかしへたり込んでしまった


「ああ、なんてこと・・!」


周囲はいわば死屍累々、

キララをはじめカップルたちが息もなく横たわる


「これって・・、大虐殺?」

「違うよ」


サイはキララの身体を裏返しにした


撃ちぬかれた場所からバチバチと火花を発している


「ああ、こんなことって・・!」


なんと!キララはサイボーグだったのだ!!


「カップルの人たちもみんな・・」


「そうだ、少子化の本当の原因はこれだ」


及川君、あなたは一体!?


僕は・・


サイは懐から保安官手帳を出した

銀河系地球支部、宇宙保安官・及川サイ(P/sye)


「宇宙保安官!!」


「安原さん、地球は悪い宇宙人メガゾックに狙われている、

吉川キララのようなマシーンを送り込み、女子を独占してしまう


女子という資源の適正配分がなされない、

この偏頗によって人口政策が破壊され、経済発展が阻害される


そして自分を大事にしようとする女子たちは、ピュアだチェリーだと笑いものにされ、

時には大掛かりな芝居がしかけられることさえある」


サイのサイコガンと横たわるサイボーグ達を見れば納得するしかない


「ユッコとカオリ、あの二人もメガゾッグのサイボーグだ、

地獄への道が善意で敷き詰められているように、

悪魔はトモダチの顔で『君のために』と言いながら寄ってくる」


サイによると、草食のキモいチェリー男子の中にはサイのように

正体を隠して密かに地球や女子を守っている

アンダーカバー・エージェントが大勢いるという


「伏せろっ!!」


キュンキュンキューン!!

閃光と熱を発してキララ、そしてカップルたちのボディが激しく発散し、

異次元空間へと吸い込まれていった


「もう大丈夫、だけどすぐに追手が来る・・ん?」


サイに覆いかぶさられたミーナが顔を真赤にして固まっている


「ご・・ごめんっ!」


サイも顔を真っ赤にした


この日初めてサイとミーナは手を繋いだ


今日は色んな事がありすぎて、

1人で歩けなくなっているミーナをサイが支える

自立って難しいね


「あの可愛いマスコットたちも・・?」

「自由と平等のお花畑ランド・・、寂しいけれど、虚構のネバーランドさ」


いまやアステロイド・パークはマスターブレインを破壊され、

死に絶えた廃墟のように二人の背後に暗く広がっている


「私、抱きしめられちゃった・・」

ミーナがうつむく

「好きでもない人に」


サイが言った

「内科検診で器具が当たったようなものだよ

安原さんはまだ完全ピュアネスさ!!」


「及川君あのね、私及川君のこと・・」


「・・知ってるよ、僕だって安原さんのこと」


サイは悲しげに言った

「だけど僕は身体を改造されている、

そして危険と隣り合わせの宇宙保安官だ」


今は義手で隠されている左腕に埋め込まれたサイコガンは

サイの最大の武器であり、孤独と哀しみでもあった


ミーナは言った

「及川君、私が及川君の・・!」

サイは遮って言う

「おっと、話は後で聞くよ!本隊が来たようだ!」


巨大な宇宙母艦が二人を猛スピードで追ってくる


「チェイスの始まりだ!しっかりつかまってろよミーナ!!」

「うん、サイ君!」


サイはミーナをお姫抱っこするとジェットメカを発動させ、

空中へ舞い上がった

ミーナはサイにぎゅーっとしがみついた

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― 新着の感想 ―
[良い点]  かっこいい、かわいい人に彼氏、彼女がいないという話をたまに訊きます。 [一言]  ロボットと恋愛できるのでしょうか?
2016/06/25 09:28 退会済み
管理
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