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旦那様は水売り?

19番目の夫と暮らすセアラはどうしているのでしょうかね。



   美しい貢物だな・・・・


 その箱の中の青白い顔色の女性を初めて見た時、そう思った。



 飾り立てられた箱が『砂漠の水の神』への供物として手荒くオアシスに置き去りにされた日。

 これまで私に供えられた供物の中で、これほど私の心を捉えたものはなかったかもしれない。

 意識もなく、弱り切った彼女の様子は『無理に箱詰めにされて』砂漠を越えて来たのだと、ひと目で判った。


   もしかすると助からないかもしれない


 そう思うと切なくなったが、それは人のする事の流れの中の事だから私は手を出してはいけない事だと理解はしていた。

 それでも、助かって欲しいと思った。

 望む事はあっても、願う事をした事が無かった。

 誰に願っていいのかも知らなかったけれど。


◇◇◇◇


 木陰で景色を眺めながらぼぅっと座っているマナは、ふと、セアラと初めて出会った時の事を思い出していた。

 目の前の景色の中、人通りのある往来で商人風の旅装束をした厳つい男達と何かやり取りしているセアラの姿がある。

 今やこのオアシスの采配は彼女が取り仕切っているので、くるくると立ち回って働いているセアラは珍しい事ではない。

 寂れた貧乏オアシスの頃とは違う。

 砂漠のど真ん中にありながら、しっかりと経済が回る栄えたオアシスになっていた。

 旅人にとっては旅の重要な要所。

 砂漠を越えてオアシスへ辿り着いた貿易キャラバンの補給や宿などについての交渉は彼女が仕切っている。

 セアラによると、『人を間に立てると要望と回答が何往復もしてしまうからモノが決まらない、直接聞いてその場で答えた方が話が早い』のだそうだ。

 それに、『人もラクダも疲弊しているの。さっさとどこかへ落ち着かせないとその辺に座り込んでしまってみんなの邪魔だもの。』とも言う。

 なので、キャラバンがオアシスへ辿り着いた早々に、セアラは彼らと道端の交渉を始めるのだ。

 今回も結構な数のラクダと荷が入って来たらしい。

 マナが視線を向けると、隊の後方にいる大量の荷を背負うラクダが疲れ果てて座り込もうとしていた。

 商隊の小間使いも気が付いていないらしく、ラクダが前脚を折ろうとしている。

 一度座ってしまえば立つまでに時間がかかる。

 それどころか、1頭が座れば他のラクダたちも一斉に座ってしまう。


   しょうがないな


 と、マナは傍らにあった干しイチジクの入った大きめの器を手に、ゆっくりとその座りそうなラクダの元へ向かった。

 イチジクの入った器をラクダの前へ差出し、

「これでもう少しだけ頑張っておいで。もうじきおまえ達の主が今日の寝床へ連れて行ってくれるよ。」

 と、マナはそこへ水瓶を満たすいつもの要領で水を注いでやる。

 どこからともなく器には満々と水が湧き、溢れた水は足元の砂を濡らしていく。

 水入れを差し出されたラクダは当然勢いよくその水を飲み、マナはラクダが座ることを阻止する事には成功するのだが、周囲のラクダがその様子に黙っているわけは無く。

 あっという間にマナはラクダに取り囲まれてしまった。

「困ったね。水はいくらでもあるのだけど、みんなが一度に飲む器が無いんだ。少し待ってもらえるかな。」

 マナはそう言いながら、本気で困っていない困った顔でラクダたちを諭す。

 ラクダの異変に気付いて慌てた商隊の小間使いがラクダを押さえると、ラクダの集団からマナの腕をひっ掴んで引っ張り出したセアラがいつも通りに叫んだ。

「バカじゃないの!どうして水をタダ売りするのよ!ここは砂漠のど真ん中よ!水の価値が下がるわ!」

 そう言われ、マナは困っていない顔で困ったように、

「ごめんよ、しかし、ラクダが座ってしまうとみんなが困るだろう?」

「水の価値が下がるってことは、水を大切に扱わなくなるのよ!分かる!?」

 食い気味でセアラが言い放ち、マナは呆気にとられて言葉を失った。

 が、セアラの顔を見ながらくすりと笑った。


   また怒られてしまったな


 と、セアラの鬼の形相が面白くもあり、可愛くもあり。

 穏やかに笑う美形のマナの顔を見た途端、ぐっと言葉に詰まったセアラの顔は耳たぶまで赤くなり、目を泳がせながらギッと歯を食い縛った後、

「ニヤニヤしないでちょうだい!」

 また怒った。



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