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いつか大人になるキミへ。

凛視点→パパ視点→凛視点です。

 私はしばらくあいつの胸に顔をうずめていたけれど、やがて自分から体を離した。

 すぐにシャツも脱いで、返す。

 急に恥ずかしくなって、枕を抱いて体を隠した。

「このことは、絶対誰にも言わないで」

「ああ、分かってるよ」

 あいつもあっさりしたもので、最後に私の頭を一撫ですると、シャツを持って部屋を出て行った。




---




 その日一日は、凛も何となく大人しかった。

 少し様子が違うことは、みんなも気付いていたかもしれないが、誰もそのことに触れようとはしなかった。


 そして翌日の日曜日になると、凛はまたいつもの生意気な態度に戻っていた。

 それでも俺は、凛を避けずに、出来るだけ話しかけるほうがいいと思っていた。

 だから、朝食時に凛を見かけたとき、いつものように話しかけた。

「今日も髪、綺麗だね」

 我ながら、ボキャブラリーが少ないとは思う。

 でも、凛を見た時に真っ先に目に付くのが、髪の美しさなんだ。

「……それ、昨日も言われたんだけど」

 睨むようにじっと見つめられる。

 でも大丈夫。凛は本気で嫌がってるわけじゃない。

「毎日言うさ。だって、毎日綺麗だからね」

 照れたのか、凛は言い返しもせずに、しおらしくうつむく。

 ……そこで俺は調子に乗ってしまった。

 昨日したように、頭をくしゃくしゃと撫でる。

「~~~バカッ! セットしたところだったのに!」

 手の甲を思いきり、はたかれてしまった。






 数日後、俺は仕事で出張した。

 結構遠方だったが、早く家族の元に帰りたいという一心で、予定を速やかに消化し、何とか日帰りにすることができた。


 そしてその帰り道。

 沙織と話した通り、家族へのお土産を探していた。

 かなり悩んだが、沙織に電話をせずに決めることが出来そうだ。

 後、決まっていないのは、凛へのお土産だけ。

 あまり、物を欲しがらない凛には、何がいいだろう。

 物をあげるというより、気持ちを伝えるつもりで探したほうがいいかもしれない。


 あの土曜日の一時(ひととき)を思い出す。

 いつの間にか、随分と大人っぽい表情も見せるようになっていた凛。

 そろそろ、お年頃でもあるのだろうか。

 何でも親に頼りきりなのではなく、自分で色々と考えられるようにもなっているようだ。

 たとえ、どれだけ成長しても、パパの手を離れても、パパはいつまでも幸せを願っている……。

 そんな気持ちを伝えられたら、どうだろうか。







「ただいま」

「おかえりなさい」

 我が家にたどり着いた俺を真っ先に出迎えてくれたのは、理沙だった。

 どやどやと、妹たちと沙織も玄関へ集まってくる。

 遅くなったのに、みんな起きて待っていてくれたようだ。

 俺は、急いで帰ってきた甲斐があったと、胸が熱くなった。


「みんな待っててくれたのか。ありがとう。

 今日は、お土産があるんだ」


「「わーい!」」「さすがとーちゃん!」「愛の贈り物ね」

 愛と優結、翔子、美貴から歓声が上がる。

 他のみんなも笑顔だ。まあ、凛だけは無表情に見えるけれど。


 リビングに場所を移して、お土産を配り始める。

「まずは、みんなに」

 そう言って、お菓子の入った箱を差し出す。

「たべる!」

 一番前に進み出ていた優結が受け取るが、箱が大きくて落としそうになる。

 すぐに沙織が引き取った。


「それから、あ、これはママのだな」

 土産物屋の大きな袋をまさぐっていると、次に出てきたのはキッチンミトンだった。

 出張先の地方の、名産品の一つらしい。

 どういう名産品なのかよく分からないが、確かに珍しくも上品な柄ではあった。

「この前、焦がしちゃったって聞いてたから」

 沙織に手渡す。

「まあ。……私の分は、気にしなくていいって、言ったのに。

 でも、ありがとう」

 喜んでくれたようだ。掴みは上々。


「次は……、理沙、どうぞ」

 理沙には詩集を手渡した。

 小学6年生には渋いお土産だとも思ったけれど、理沙はこういうものが好きな気がした。

「向こう出身の作家の詩とか、向こうの名所を元にしたような詩を、集めたものだそうだ。

 名所とかの写真も載ってるらしい。景色もいい所だったから、今度はみんなで行きたいな」

「わあ、可愛い本。ありがとうございます」

 理沙は上品な装丁を気に入ってくれたらしい。

「そうそう、恋の詩なんかも載ってるそうだぞ」

「恋の詩……!」

 付け足すと、理沙は顔を赤くしてうつむいた。


「これは、美貴と、華弥のだ」

 続いて取り出したのは、2種類の髪飾りだ。

 どちらも地方名産のものらしい。

 美貴用のは派手めで、華弥用のは可愛らしくも落ち着いたものを選んだ。

 華弥のは、近々ある幼稚園のお遊戯会にも、着けて行けると思う。

 それぞれを美貴と華弥に手渡す。

「ありがとう、パパ! パパとの結婚式に、必ず付けるわ!」

「ありがとうございます。私も、おしゅうげんに着けていきます」

 2人とも、可愛いことを言ってくれる。

 美貴はさっそく髪に付け、「似合う?」とポーズを取り始めている。


「で、翔子にはこれだ」

 翔子には、ご当地ヒーローのフィギュアを手渡した。

 一見するとかっこいいが、よく見るとご当地の名産品が全身にくっ付いていて、愛嬌がある。

 なかなか奥が深いデザインだ。

 本来女の子向けのお土産ではないが、翔子は好きだろう。

「おー、かっこいい!

 これ、今度映画もやるんだよねー。

 とーちゃん、一緒に行こうよー」

 翔子も喜んでくれた。


「これは、巴に」

 そう言って取り出したのは、何とも不気味な人形だった。

 はっきり言って、普通の女の子にこんなものをプレゼントすることは、間違いなく嫌がらせだ。

 だが巴へのお土産は、これしか考えられなかった。

「こ、これは……!」

 巴は目を見開いて、人形をまじまじと見つめ、震える手で受け取った。

「向こうに伝わる人形らしいよ。詳しいことは、これに書いてるらしい」

 ご丁寧にも付録として付いてた冊子を、手渡す。

「……すごいわパパ。さすが私が見込んだ男ね。とんでもない堀り出し物よ。

 でも、こんなものが実在していたとすると、あの古代文明の真相に関わる……」

 巴は独り言を言いながら自分の世界に入ってしまった。

 何だかよく分からないが、喜んでくれたのは確かなようだ。


「それから、愛にはこれ」

 愛に渡したものは、ご当地のゆるキャラをデザインした、フード付きパーカーだ。

 フードには大きな耳が付いている。

「ポケットがたくさんついてるから、最近よくおもちゃを持ってうろうろしてる愛にいいと思って、選んだんだ」

 もっとも、このパーカーを着た、愛の可愛い姿を見たかったからって理由も大きいのだが。

「パパ、ありがとー! これ、ねるとき、きる!」

 うーん、パジャマ用ではないんだが。

 喜んでくれたのならいいだろう。


「それから優結、はい」

 優結へのお土産は、大きなぬいぐるみで、愛のパーカーと同じゆるキャラのものだ。

 ちょっと大きすぎるので、他の子へのお土産と比べると不公平感があるかもしれないと思ったけれど、せっかくだからと買ってしまった。

 値段としては、全員、それほど違いはないのだが。

「すごい、おおきい!」

 手を叩いて喜ぶ優結に、丸っこい形のぬいぐるみを抱えさせる。

 小さな優結には、抱えるのもやっとだ。

 はしゃぎながら、ぬいぐるみを振り回している。

 ゆるキャラは悲鳴を上げてそうだが、優結が喜んでくれたのなら何よりだ。

 周りのみんなも、微笑ましそうに見ていた。


 ……今のところは大成功と言っていいだろう。

 残るは凛へのお土産だ。一番緊張してしまう。

「そして凛には、これ」

 凛に手渡したのは、赤い糸でつながった、2つの赤いお守りだ。

 お守りにしては変わったデザインだが、ファンシーで可愛いらしい作りだ。

 どちらのお守りにも、『良縁祈願』と刺繍されている。

「これ、結構有名で人気らしくて。ほとんど残っていなかったんだ」


 それは、縁結びのお守りだった。

 凛が大人になっても、ずっとパパは凛の幸せを願っている。

 そんな気持ちが、伝わるだろうか。

「詳しい使い方の説明は、この紙に書いてるよ。

 自分と、好きな人の写真を一緒に入れておけば、両想いになれるってご利益(りやく)もあるんだって」

 小学生にはまだ早い気もするけれど、大人びた凛にはふさわしいかもしれない。


 凛に好きな人が出来たら。

 そんなことを考えると寂しさも感じるが、本当に子どもの幸せを願うなら、いつまでも親が縛り付けていてはいけないものだ。

 凛の反応を待つが、リビングが妙に静まり返ってしまった。

 ふと沙織を見ると、『やってしまった』とでも言いたげな顔で、遠くを見つめている。

 改めて凛を見ると、呆然と目を見開いていた。

 顔がどんどん赤く染まっていく。

「……ッ! パパのバカーーーーーッ!!」

 思いっきり、怒鳴られてしまった。




---




 その後。

 私が洗面所で歯を磨いていると、弱り切った顔のあいつがやって来て、尋ねた。

「凛、ごめんな。でも、何が悪かったのか、分からなくて……。

 これから気を付けるから、教えてくれないかな」


 しばらく口を聞かないでおこうかとも思っていたけれど、せっかくなので言ってやった。

「あんたは、私が早く結婚して、家を出て行ったほうが嬉しいの?」

「そ、それは。ちょっと、いや、かなり、寂しいけど……」

 何かに気付いたような顔になり、もごもごと言う姿を見て、少しだけ気が晴れた。

 だから、ひとまず許してあげることにした。







 翌朝。

 目覚めた私は、あいつからもらったお守りを、ランドセルの内側に、隠すように結び付けた。

 このお土産には頭に来たが、せっかくだからと、昨日のうちに説明を読んでおいた。

 このお守りは、出会いのない人に出会いを授ける効果の他に、想い人と結ばれるという、おまじないのような効果もあるようだ。

 赤い糸で結ばれた2つのお守りの、その片方に自分の写真、もう片方に好きな人の写真を入れておく。

 そして絶対に糸が切れないようにして、大事に身に付けておけば、いつか想いが叶うという。

 さらに、結ばれた後は、糸を切って、相手の写真が入ったお守りを自分で持ち、自分の写真が入ったお守りを相手に渡す。

 そうやってお互いに大事に持ち続けていれば、いつまでも仲良く暮らせる、ということだった。


 全く、よりにもよって、こんなものをお土産にするなんて。

 あいつのデリカシーになさには呆れるばかりだ。

 あの土曜日に、少しだけ気持ちが通じ合った気がしたのに、全然だった。


 でもこのお守りには、きっとあいつも知らない効果が隠されていた。

 説明書きによると、お守りが一番効くのは、叶わない恋。

 近くにいるのに、全然想いに気付いてくれない。そんな人を相手にするのがいいそうだ。


 だから私は、お守りの片方には自分の写真、もう片方には、巴にもらったあいつの写真を入れてみた。

 もちろんこんな迷信、信じてなんかはいないけれど。

 あいつへの、せめてもの仕返しのつもりだった。


 まだ自分の気持ちを、素直に出すことなんて出来ない。

 そもそも自分が本当に望んでいることが、どんなことかもよく分かっていない。

 素直になることが、正しいことなのかも分からない。


 でももう、あいつに遠慮するのはやめようと思った。

 あんな鈍感な男に、気を使うだけバカバカしい。

 もし私が本当に、近い将来、家を出ることになったとしても、それまであと数年はある。

 その間に、何か変わるものもあるだろう。

 それまでに、あいつに、自分のしてきたことを思い知らせてやるんだ。

 そして、もし、その時が来れば、このお守りを突き返してやるんだ。


 だから、覚悟しててよね。

 私がパパのことをどう思ってるか、いつかたっぷり教えてあげる。

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