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ピピピピ、なんて小鳥がさえずる爽やかな朝。






うん。今年もバレンタインが、始まった。気合いを入れなくては…




寝起きで ぼんやりした頭を ぽりぽりかきながら、私は朝の支度に取りかかった。












だらだらと歩いて、学校に着くや否や。男子からの視線が刺さって痛い。これは別に私に思いを寄せている訳でもなく、女子だからである。ただ私が女子だから、チョコをくれくれプリーズビームを奴等は無差別に送ってきているのだ。

廊下ですれ違った、先輩や後輩、顔すら覚えていない不特定多数の男子どもが、期待の眼差しを向けてくるのが、地味にうざい。

俺は君のこと知らないけど、実は前からあなたを好きでした…っていう展開になっても、全然OKだよ!受け入れ準備はいつでもOK!ウェルカム女の子!ドゥフフ。っていう雰囲気が駄々漏れだしー。


「面倒くさい…」


奴等を刺激しないように、スタスタといつもの倍速で歩いて、教室に着いて。ガラッ、と教室の戸を開けた途端。



「おはよう。今日は一段と可愛いな」


「おっ、髪がいつにもましてサラサラですなあ」


「輝いてる!オーラが眩しいぞ紗菜ちゃん!だから俺にチョコをちょうだい!」


ああもう、今日休めばよかった。ここにもいたな、無差別ビームの面倒男子どもが。特に最後の台詞の猿渡、意味がわからないから。前後の繋がりが全くないから。



奴等を無視して、どかっ、と自分の机に鞄を投げ出し、椅子に座る。


「…おはよう」


ああ、君がいたね犬飼君。いつもと変わらず爽やかな挨拶。その変わらない普通さに とても癒されてるよ私は。


「おはよう」


地獄で仏。やっぱりモテる人は がっついた感じがなくていいわー。余裕が感じられる。思わず、いつもより2割増しの笑顔で挨拶しちゃったし。

そしたら犬飼君、またしても硬直しちゃった。おいおい君、いくらなんでも乙女の笑顔で固まるなよなー。

あ、犬飼君といえば。


「はい、チョコあげる」


鞄からラッピングされた小さな箱を取り出して、犬飼君に渡す。犬飼君は、ビックリした顔で、恐る恐る受け取った。


「なーんてね。チョコと見せかけて、実はブレスレットだよ。こないだ、お気に入りのブレスレットなくしたって言ってたでしょ。似たようなの見つけたから、どうかなって。犬飼君には いつもお菓子もらってばっかりだったから、感謝の気持ちだよ」


いつもお菓子ありがとう。また私にお菓子をちょうだいね。ついでにホワイトデーも期待してるからね。待ってるよ。そんな気持ちを込めて、私は笑顔を振り撒いた。


「感謝の、気持ち…」


犬飼君は、ブレスレットを じっと見つめた後。


「ありがとう。…すごく、嬉しい」


柔らかい笑顔で、笑った。うわあ、初めて見たし そんな笑顔。さすがはイケメン。キラキラオーラが半端ないっす…。



よかった、と私がホッとしたのもつかの間。犬飼君が、さっきの笑顔を引っ込めて、今度は すっと目を細めて 私を見つめてきた。

…ん?なになに?やっぱりただのクラスメイトから いきなりアクセサリーもらって引くわーってか?



「他の奴にも、あげるの?…猿渡、とか」


なぜか迫力ある低ーい声で、ワケわからんことを聞いてきた。


「え?あげないよ。他にあげる人なんていないし。あ、深雪ちゃんには もちろんあげるけど。…ていうかね、猿渡なんかにチョコあげるくらいなら、私が食べるし」


そうだよ。なぜ私が猿渡にチョコをあげなきゃならないのさ。摩訶不思議な思考回路だね、犬飼君。イケメン過ぎてボケちゃった?


ハハハハ。おかしくて つい吹き出しちゃった私を見て、犬飼君もハニカミながら笑っちゃってるし。




…本当は、他の人にっていう言葉を聞いて、鞄の奥に押し込んである小さなチョコを思い出した。昨日、神社の帰りに コンビニでコインチョコを買ったんだった。だって、チョコ持ってきますって神様に約束したし。

危ない、危ない。忘れるとこだった。ぐっじょぶ犬飼君。




そして、男子の嫉妬にまみれた視線を軽くシカトしながら、犬飼君と私は談笑をして、そこに登校してきた深雪ちゃんが加わって。深雪ちゃんからいただきました。ハート型のチョコレート。ピンクの可愛いボックスに入ったそれは、本当に可愛らしくて。食べるのがもったいないくらい。対して、私が深雪ちゃんに渡したチョコの、洒落っ気のなさは異常かもしれない。シンプル過ぎた。なぜこの包装にしたんだ、自分。2つのチョコの対比がヤバい。


「ごめんね深雪ちゃん、こんなチョコで…」


朝からジーザス。でも深雪ちゃん、中身はちょっとお高いチョコだから!(手作りはあきらめた)味は保証するから!


「いいの。紗菜ちゃんからもらえるだけで十分嬉しいから、いいの。」


「め、女神がいる…!眩しい!眩しいよ深雪ちゃんっ!」


友情を深め合い、ひしっ、と抱き締めあう私たち。女子でよかった。寒い時には、こんなアホみたいなノリが身にしみる。女子は柔らかくて素敵だしー。


周りが羨ましそうにガン見してるけど、天然な深雪ちゃんは 気づいてない。そして私も、全く気にしてませーん。今だけ、私も天然になります。オホホホ。














そして、またしても放課後。ついに、絶好のチョコレートタイムがきたか?!とソワソワする男子をスルーして、帰り支度をする。深雪ちゃんと犬飼君は、委員会で呼ばれているらしく、ホームルーム終了と同時に、2人で一緒に教室を出ていった。


そういえば、美男美女でお似合いだと思うな、あの2人。付き合っちゃえばいいのに。あ、でも深雪ちゃん好きな人いるのかな。あんまり自分の恋話したがらないからなあ。




うむむ、と深雪ちゃんの恋について、お節介な考え事をしていると。


「なあなあ、チョコちょうだいよー…」


「…また猿渡か」


ソワソワし過ぎてチワワみたいに震えている猿渡が、近寄ってきた。


「チョコなんてないし。他をあたって」


スッパリ切り捨てて、帰ろうとすると。


「他の人からもらえないから、お前に 言ってるんだよー」


と、涙目で訴えてくる猿渡。


「他からもらえないのに、なんで私からもらえると思うの?」


「えー、だって、友達でしょ」


「残念。他人です」


猿渡、上目遣いやめろって いつも言ってるでしょうが。


「えー、なんでだよー?チョコちょうだいよー」


「ええい、お前は人のバッグをぶんどる どこぞの観光地の猿か!人間ならその手を離せ! 」


私の鞄をひっつかみ、うだうだとする猿渡の足を踏んづけようとするけれど。猿渡も慣れているのか、素早い足さばきで 軽くかわされてしまう。


「分かった!チョコあげるから、手を離して!」


いい加減疲れた私の言葉に、猿渡は目を輝かせ、パッと手を離した。


「マジで?マジでくれるの?」


「うん。あげるから、ちょっと後ろ向いてて」


うわあ、楽しみだなあー。とか言いながら、猿渡は大人しく後ろを向く。



よし、今だ。



「郷田くーん!猿渡が郷田君のこと、豚ゴリラに似てるって言ってたよー!」


廊下をのしのし歩いて来ていた郷田君は、みるみるうちに顔を真っ赤にさせて。

「なんだとーっ?!」と猿渡を捕獲しようと猛ダッシュで駆けてきた。

それに顔を青くした猿渡は、「違うよーっ!違うよ郷田君、違うってーっ!」と叫びながら、郷田君から逃げて行った。うん、違うよね猿渡。郷田君はジャイア○だよね。


騒がしい2人が走り去った教室は、とても静かで良い感じ。にんまり、笑顔がこぼれますなあ。





「猿渡、バカだなあ。これからだってのに」


教室の隅で、机に紙を広げてごそごそやっていたクラスメイト1が、猿渡の消えた廊下を覗きながら、困った様にため息をついた。


「何かやってたの?」


ちら、と紙面を見てみれば。五十音のひらがなと、「はい」「いいえ」の書かれた紙。その真ん中には社のマーク。げ…。


高校生になってまで、なんで こっくりさんなんてやろうとしてるの…



「俺達にチョコをくれる女子はいますか、って聞くんだよ」


「猿渡が言い出したんだぜ。30円で何かやろうって」


それもしかして、私が昨日あげた30円か…。もっとマシな事に使ってくれよ。


「もういいか。猿渡来ねえし。先にやろうぜ。お前もやる?」


「遠慮しとく」


クラスメイト1と2が10円に指をのせて、ワクワクしているのを横目に、私はさっさと教室を出た。
















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