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バレンタイン当日に投稿するはずが、遅れに遅れてバレンタイン後日になりました…
世間は、バレンタインで賑わってる。町を歩けば、チョコレートの広告。店に行けば、チョコレートの販売コーナー。とどめに、家に帰ってテレビをつければチョコレートのCMときた。
チョコレートチョコレート、うるさいんだよっ。
私だってチョコレート食べるのは好き。でも、なんでわざわざお金出して買ったチョコを、他人にあげなきゃいけないわけ?もったいないでしょ。
ってことを、お昼休みにお弁当をつつきながら、友達の深雪ちゃんに力説してみる。深雪ちゃんは、ふふふと笑って、さらさらの髪を かきあげながら、おかしそうに口を開いた。
「紗菜ちゃん らしい、ケチさに溢れたセリフだね」
一見クールビューティーな見た目と違って、柔らかい口調の深雪ちゃんは、とてもとても可愛い女の子。見た目が綺麗で、中身が可愛い。そんなギャップ、誰が見ても たまらないでしょ。…そこの男子、ヨダレが垂れたの今見ちゃったからね!
こんな美少女と仲良しになった切っ掛けは、単純に同じクラスになったから。しかも女子は二人だけ。あとは全部男子。なぜかって言うと、工業系の高校だから。右見ても、左見ても男子。
いいんだ、覚悟はしてたし。むさいのは慣れたから。それに、私がサバサバした性格だからか、女子だからって特別扱いされることもなく、うまく溶け込めてるみたいだし。
それに、この学校に来たから、深雪ちゃんと友達になれたんだしね。
でも、女子が少なくて、面倒だなって思うことは、たまにある。例えば そう、今まさにその時季なんだよね。
「み、深雪さん!」
食べ終わったお弁当をしまっていた私達に声をかけてきたのは、このクラスのリーダー(○ャイアン)的存在の、郷田君。
なあに?なんて深雪ちゃんに ぽわんぽわんした笑顔を向けられた郷田君は、いかつい顔を真っ赤に染めてから、意を決したように声を張り上げた。
「明日、その、深雪さんは誰にあげるんだ…?」
明日、あげる、そのキーワードに、教室にいた男子の空気が変わった。皆何でもないように装っているけど、こっちに意識が集中してるのがまるわかり。お耳ダンボ。器用だねー。
そんな男子どもには欠片も気づくことなく、深雪ちゃんは にこっと笑って、
「あげる人は決まってるんだけど、それは秘密なのー」
と、若干照れながら言った。少し赤くなった頬も可愛いよ、深雪ちゃん。ほら見てよ。クラスの男子が深雪ちゃんの可愛さに当てられて、ぽわんぽわんしてるよ。明日、自分がチョコをもらう姿を妄想してるんだろうね。あはは、気持ち悪いなあ。
こんな感じで、深雪ちゃんはクラスの、いや学園のマドンナみたいな感じ。女子も他のクラスに何人かいるし、可愛い子も いるけど。深雪ちゃんは、中でもずば抜けて綺麗。だから男子に大人気。
ちなみに明日は、バレンタイン。
もうわかるよね、郷田君は深雪ちゃんのチョコが欲しいんだね。郷田君だけじゃなくて、この学校のほとんどの男子が深雪ちゃんのチョコが欲しいんだろうね。
深雪ちゃんは天然だから気づいてないけど、私は気づいてたよ。2月に入ったあたりから。男子がやたらとソワソワしてモジモジしていたのをね。
このクラスだけじゃなくて、学校全体が浮き足立ってる感じ。廊下にはバレンタインを意識したポスターが点々と貼ってあるし、2月に入ったらなぜか手作り感満載のカレンダーが教室に設置してあったし(1日から14日までの日めくりカレンダー、初めて見たよ)。
毎日誰かしらが「おや、君チョコっと髪切ったかね?」「まあね、チョコっと男前になっただろ?」「ははは、甘いマスクとはこの事だな」「甘さだけじゃないぞ、ビターな俺もマイルドな俺も、彼女が望めば七変化さ」「俺も、髪を若干ミルクな色合いにしてみたんだ、マイルドだろう」とか言って、チョコをにおわせる漫才もどきの会話を聞かされたら、うざいなあって思う。男子、チョコ欲しさに必死だな、って うんざりする。この時季になると、男子が女子に優しくなる。普段は絶対やらないくせに、重い荷物をさりげなく持とうとしたりとか、無駄に接触しようと張り切ってる。いつもサバサバ系で男子に紛れている私でさえ、女の子扱いをしてくる。…あわよくば、義理チョコでももらえたら、っていう算段なんでしょうね。
そんな慌ただしいバレンタインも2度目なら、またやってるよ、こいつら。って目でスルーするから問題なし。
話題の中心の深雪ちゃんは、ぽわんとしてて男子の期待の眼差しに気付いてないし。…哀れ男子。
ソワソワしながら意味もなく教室でふらふらしている男子を横目で見ていると、昼休み終了のチャイムが響いて、私たちは自分の机に戻った。郷田君は、まだぽわんぽわんしてるみたいで、ボーッとしながら自分の机に歩いていって、机にぶつかって中身をぶちまけてた。安心して、郷田君。君が深雪ちゃんにチョコをもらえる確率は、の○太が出来○君にテストで勝っちゃう事くらいに、有り得ない事だから。だから そんなに夢見ると、後で悲壮感が半端ないと思うよ。ぶちまけた中身を拾いながらも、まだぽわんぽわんしている郷田君を見て、私はぽつり、と呟いた。
「現実、見ろよ」
「あ?」
かなり小さい声で言ったはずなのに、隣の席の犬飼君(金髪不良)が反応した。
「ああ、何でもないよ。今日も爪が綺麗だなって思って」
ごまかすために、とっさに目に入った犬飼君の綺麗に手入れされた爪を誉めてみた。犬飼君はバンドを組んでいて、ギターかベースをやっているらしい。素人の私には、どっちがギターでどっちがベースか見分けがつかない…。彼のバンドは、美形揃いでその上歌も良くて、女子に大人気。他校にファンクラブもある人気っぷりらしい。
そんな人気者だけど、犬飼君は意外と良い人。金髪でアクセサリーじゃらじゃらの不良ルックだけど、ゆすりも たかりもしないし、ちょくちょくお菓子をくれる。おまけ付きお菓子のおまけが欲しいんだけど、お菓子はいらないらしい。じゃあ買うな。って思ってたんだけど、どうしても欲しいらしい。じゃあお菓子くれ。って言ってみたら、喜んでお菓子を渡してくれた。今では2日に1回は、お菓子をもらっている。実にいい人だ。見た目は不良の一匹狼なんだけどね。はははは。
「…爪は、大事だからな」
嬉しそうに少しはにかみながら、ちょっと遅れて返事が来るのも、もう慣れた。こうして犬飼君と話していると、なかなか なつかない野良犬を手なずけた様な気分になるんだよね。不思議。
犬耳が似合いそうだな、なんて思って犬飼君を見ていたら、先生が来て授業が始まった。
日直の起立、の号令で一人だけ立たなかった郷田君に、私はまたボソッと呟いた。
「そろそろ戻ってきたらいいのに…(現実に)」
「あ?」
またしても呟きを聞きとった犬飼君。彼の耳は地獄耳?すごいなあと感心しちゃった。
放課後、ガヤガヤ騒がしい教室で。
明日のチョコを作るから早く帰るね、と鞄を持って駆け出した深雪ちゃんにバイバイしてから、私も帰ろう、と鞄を手に取った。
すると隣の席に座っていた犬飼君が、私に手を突き出した。そんなさ、いきなりグーを突き出されても、反応に困っちゃうよー?
ハテナを飛ばす私。でもすぐに、ああもしかして、と思って犬飼君の手に私の手を コツン、と当てた。もちろん私もグー。
「新しいバイバイの仕方?さすが犬飼君だね」
何がさすがなのか何て、気にしない気にしない。にかっ、と犬飼君に笑いかけると、なぜか硬直していた犬飼君が、ち、違っ…違うっ。と噛みながら必死の否定。ありゃ、間違っちゃったかな私?
とか思って首をかしげたら、犬飼君がグーの手を上向きにパーにして、その手のひらにあった何かを押し付けてきた。
「あ、お菓子だったんだ。ありがとう、犬飼く…」
ん。まで聞かずに、犬飼君は自分の鞄をひっつかんで、教室から飛び出ていった。
「犬飼君…」
彼が走り去った後には、思いっきり開けた反動で、跳ね返った教室の戸がカラカラカラ…と自動ドアのように閉まろうとしていた。
「急ぎの用事があったのかな…」
すごい慌てぶりだった。うん。
「なあ、今の犬飼?どうしたの?こえーよあいつー」
おにぎりに似た坊主頭に冷や汗を浮かべて、クラスメイトの猿渡が上目遣いに私に話しかけてくる。猿渡よ、おにぎりの上目遣いなんて、誰も得をしないから止めて。
「わかんないけど、なんか急いでたんじゃない?あ、今犬飼君にお菓子もらったんだけど、猿渡も食べるー?」
さっき渡された小さな包装を開けると、中から丸いチョコが出てきた。それの1つをつまんで口に入れながら、猿渡に包装を差し出す。うん、おまけながら、美味しい。
「ひいっ、いっ、いいよ。俺、前にお前の おまけのお菓子分けてもらってから、犬飼が怖いんだよ」
差し出された包装を見て、さあっ、と顔を青ざめさせた猿渡。
「なんで怖いの?いい人じゃん、犬飼君。どうせ猿渡が何かしたんじゃないの?上目遣いが気持ち悪かったとか」
「犬飼は背が180あって、俺は見上げる姿勢だから仕方ないんだよ!上目遣いなんてしてないよ!それに皆言ってるぞ、犬飼怖いって!」
両手で顔を覆いながら、ガクガクブルブル震える猿渡。名字は猿なのに、チキンハートだなんて…なんて面倒くさいやつ。犬飼君がうざいって思う気持ち、分かるんだけどなあ。
「その冷たい眼差し止めてよ!お前くらいだよ、犬飼と対等に話してるやつ!」
「あらら、その発言、犬飼君と私に失礼だわー。もんのすごく腹立ったから、ジュース買ってきて」
「人は それをパシリと言う…」
「違うよ、お使いだよ。太っ腹な私は おつりをあげるし。お駄賃として納めなさい」
鞄から150円を取り出して、猿渡に渡す。
「ココアでよろしく」
びしっ!と なんちゃってな敬礼をすると、猿渡もぴしっ。と気の抜けた敬礼を返してきた。
文句を言いながらも、大人しくパシられる猿渡は、クラスのいじられキャラです。
猿渡を待つ間、椅子に座って携帯をいじって待っていると。
「なあなあ、チョコくれよ」
「俺たちに愛をくれよ」
クラスメイトその1とその2が物欲しそうな目で見ながら、私に手を出してきた。
「嫌だし」
「頼むよ、義理チョコでもいいからさ」
「嫌だし」
「俺、母ちゃんのチョコしかもらったことないんだよ」
「知らないし」
「深雪さんは高嶺の花過ぎるから、雑草…じゃなくて鈴蘭みたいに可愛らしい紗菜ちゃんからもらえたらなって…」
「鈴蘭って根っこに毒あるんだって。例えが破滅的にひどいし」
「なあ頼むよー」
「バレンタイン、明日だし」
「今日催促しないと明日持ってきてくれないだろ」
「催促されても持ってこないし」
「まじ頼むよー」
「ほんと頼むよー」
あああ、うるさい。そんなんだからチョコの1つももらえないんだよ!教室の隅で チョコなんて興味ありませんって体を装いながらも やっぱり気になって無駄にソワソワしている地味系男子を見習いなさい!
いい加減しつこさにイライラしてきた。
すると、そこにちょうどよく、ココアを買ってきた猿渡が帰ってきた。
「買ってきたよ、ココア!120円だったから、30円お釣りでちょうだいねー」
猿渡、やっぱり君は憎めないチキン野郎だね。良いタイミングで来てくれたよ。
「じゃあ、もう私帰るから。さよなら皆の衆」
猿渡の手からココアを受け取り、そそくさと早足で教室を出る。
そして、下駄箱に来てから ほうっと一息をつく。やっぱりこの季節、男子がうざい。
面倒くさ…と呟きながら、靴を履き替えるために手に持ったままだったココアを鞄に入れようとして、あ。と声が出た。
「今の時季、ココアって言ったらホットじゃないのかな…」
猿渡が買ってきたのは、つめた~いココア。急いで 貰ってきたから、今頃気付いた。まあ、ちゃんとホットでって言わなかった私も悪いけど…こんな寒い時に、アイスココアはちょっとな…うん、寒いよね…
「猿渡の、馬鹿野郎…」
徒歩だから、暖かいココアで手を暖めながら帰ろうと思ったのに…
やっぱり猿渡は、うざいやつでした。
んで、帰る途中。通り道に、神社がある。そこは私の密かなお気に入りスポットになってるんだよね。
そんなに大きくはないけど、ちゃんと管理されていて、いつも綺麗。何より、その神社の鳥居をくぐると、空気が変わる気がする。なんて言うか、神聖な感じ?清らかな空気を感じるんだよね。私霊感0だし、気のせいなのかも知れないけど。でも ここに来ると、気持ちがスッとするから不思議。ムカムカした時とか、気が向いた時にふらっと立ち寄ったりしてる。
鳥居をくぐって、並んだ一対の狐の真ん中を通る。稲荷神社なんだって、ここ。
石畳をローファーで歩いて、社を見上げる。宮大工さんって、すごいよね。こんな綺麗な建物作っちゃうんだし。
お賽銭箱を見て、しまった、と気づく。いつも ここに来るときには10円を入れるんだけど、さっきココアを買ったから小銭がない。しかもお釣りは猿渡にあげちゃったし。
「ああ、しまった」
くそう、猿渡め…。
自分でお釣りをあげた事は棚に上げて、猿渡の好感度がぐんぐん下がっていく。もはやクラスメイトからただの顔見知りレベルまで下降している。
まあいいや。猿渡なんて、と 鞄に小銭が入っていないかと、ジッパーを開けてみると。
「あ、ココア…」
つめた~いココアが、1つ。
「お金じゃないけど、許してね。お狐様。これ冷たいけど、美味しいし」
私はココアを 神社の賽銭箱の上に、そっと置いて、手を合わせて目をつむった。
(120円分の私の気持ちです。なんつって。お神酒じゃなくてすみません。後で片付ける人、すみません。ココア業者の方、すみません。これは捨てた訳ではありません。美味しいから、神様にも飲んでいただきたくて、捧げているのです。何なら、明日はチョコもお供えします。許して下さい
)
うむむ、と力の入ったお祈り(ざんげ)になってしまった。
でも、なぜかお祈りする前よりも心が落ち着いている気がする。しつこいクラスメイトへの怒りとか、猿渡へのモヤモヤがなくなっている。…やっぱり、不思議。
「あー、すっきりした、さすがはお狐様」
るんるん気分でスキップをしながら、来たときと同じように 一対の狐の真ん中を通る。
その時、急に突風が吹き、神社を囲む木々がざわめいた。
――――…………。
「えっ?」
名前を呼ばれた気がして、神社を振り向いた。
でも、何もないし、誰もいない。
「気のせい、か…」
神社だから、不思議なこともあるのかも。あれか、稲荷神社なだけに、狐につままれたってやつかな。ははは。
なんて考えながら、鳥居をくぐって、私は家路を急いだ。




