Reflection
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未曾有の大災害――空墜ちから一週間が経とうとしていた頃のことだった。
崩れた建物の破片が突き刺さり、荒廃した大地。息が詰まるような黒い雲が重く垂れ込め、時折弱い雨を落としてゆく、そんな鬱々とした天気が連日続いている。
辺りに充満した有毒物質から身を守るための防護服を纏い、青年――織口依恋はかつて街だった足元の瓦礫を踏みしめ踏みしめ、ゆっくりと歩いていた。
防護服のせいで、その歩みはぎこちなく、遅い。別段どこを目指すでもなく、織口は無心に歩を進める。
空墜ち。
それが、極小の島国の全土から一切の建造物を消し飛ばした大災害に与えられた名である。
簡単に言うならば、能力戦争の果てに引き起こされた事故だ。
現時点では詳しい原因は特定されていないが、国家の人口の九割以上がなす術もなく灰となったことは言うまでもない。
生き延びたのは、地下のシェルターに匿われた各界の要人及びその関係者のみだ。
織口はいわゆる《要人関係者》としてシェルターに匿われたクチなので、少なからず後ろめたさというか、罪悪感のようなものを感じていた。
自分より生き延びるべき人間は、掃いて捨てるほどいた。
それなのに、要人関係者というだけで匿われ、生き延びた自分。
何の能力も持たず、生き延びたところですることもしたいこともない自分。
そして、大切なものひとつ、満足に守れなかった自分。
そんな情けない自分に存在価値を問うこと自体、果てしなく無駄なことのように思えた。
生きている。
生かされている。
今はそれだけで――それだけだ。意味などない、どこにも。
鬱屈した感情を防護服の下で噛み殺し、織口は行き場を失った亡霊のように街をさまよう。
その時どこからか――物悲しい旋律が聞こえてきた。
か細く繊細な、澄んだ音色。
「笛……か?」
織口は耳を澄ませ、音のする方を探る。
と、随分離れた場所で積み重なった瓦礫の上に、小さな人影が揺らめいた。
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