眼鏡
過去に書いていた小説のクライマックスです。もともと連載作品のラストにしようか迷っていたのを思い出して、今日投稿します。楽しんでいただけたら幸いです。
―――千春、もう会えなくなるかも。
あの日、かすみさんにそう告げられた時、僕は何も言葉が出なかった。
“どうして、そんな大事なこと言ってくれなかったんだ”
そういう怒りとか、悲しみよりも先に浮かんだのは、漠然とした非現実感だった。
「嘘だって、言ってくれよ。」
当たり前みたいに傍にあった彼女の笑顔。
それが見られなくなるって事実に、いまいち実感が湧かなかった。
……だけど、いくら彼女に電話をかけても繋がらない。
そのことが、話の真実味に一層拍車をかけていた。
「陽人……」
政宗の言葉が、何一つ耳に入ってこない。
時間差で届いたいろんな感情に、耐えきれず胃の中がせり上がりそうだった。
《どうして彼女は……、あのとき、もし……、最後の言葉の意味は……、
ぼくは、僕は彼女のことを――――?!》
パシンッ!!
両頬に鋭い痛みが走った。
意識が引き戻されて、気づいたら政宗の顔が目の前にあった。
「……陽人、お前はどうしたいんだよ?彼女の事をどう思ってるんだよ?」
「それは―――」
胸ぐらを掴まれ、グイッと引き寄せられる。
「いい加減ッ!!自分の気持ちに正直になれよこのオタク野郎!!」
「っ?!」
首元に彼の指が深く食い込んだ。
「自分の好きに一直線な ”ガチオタク” それがお前なんだろうッ!!」
政宗の、こんなに鬼気迫った表情は初めてだった。
息を荒げつつ、それでも必死に伝えようとする彼の姿は、
冷え切った僕の心を確かに溶かした。
《もう僕に、迷いはない。》
彼の右腕を掴み返した。
その手がゆっくりと解かれていく。
「……目、覚めたか?」
「あぁ。僕にはやらなきゃいけないことがあるって気づけたよ。」
キッと、彼を見つめた。
「だから、協力してくれ―――政宗。」
「それでこそ、俺の相棒だ。準備は良いか?」
「―――おうよっ!!いつでも準備OKよ。」
眼鏡を上げて、涙を拭った。
「「さぁ行こうか、彼女の元へ!!」」
二人そろって駆けだした。




