星に願ったら、ママが子供になりました
「ママ!」
「ちょっと待って。」
「ママ!」
「聞こえたわよ、葵。」
「一緒に遊ぼうか?」
返事は少し間を置いてからだった。
「今日は無理。」
葵は台所のドアの前に立ち、プラスチックの王冠を二つ持っていた。
一つはピンク色で、真ん中に赤い石がついていた。もう一つは黄色だったが、石の一つはとっくに取れてしまっていた。
葵は黄色の王冠を掲げた。
「ママが女王様になれるよ。」
母親は振り返りもしなかった。
彼女は仕事着のまま、台所のテーブルに立っていた。目の前には数枚のレシートと電卓、そして数字を書き留めた小さなノートが置いてあった。
「また別の日にね。」
「昨日も同じこと言ってたじゃない。」
「わかってるわ。」
「一昨日も。」
母親はため息をついた。
「あおい…」
「ちょっとだけ。」
「これを終わらせて、制服を用意して、洗濯して、夕食を作らなきゃいけないの。」
「いつも何かすることがあるのね!」
母親は目を閉じた。
疲れているように見えた。
最近はいつも疲れているように見えた。
「だって、物事は勝手に終わらないんだもの。」
「でも、私もいつも一人で遊んでいるわけにはいかないわ!」
その言葉で、ようやく母親は顔を上げた。
「あおい、お願い。今日は本当に長い一日だったのよ。」
「私もよ!」
「もう、やめてよ。」
「ママは私と遊んでくれないじゃない!」
「だって、この家を支えるために働いているんだもの!」
キッチンに静寂が訪れた。
あおいは二つの王冠を胸に抱きしめた。
母親は声を荒げたことをすぐに後悔したようだった。
「あおい…」
しかし、少女は顔を背けた。
「もうあなたとは遊びたくない!」
彼女は自分の部屋に駆け込み、ドアを閉めた。
母親は彼女の後を追わなかった。
追いたくなかったわけではない。
洗濯機がちょうど終わったところだった。
夕食はまだできていなかった。
そしてテーブルの上には、翌日支払期限の電気料金の請求書が置いてあった。
葵は10歳だった。
彼女は母親と二人暮らしを始めて3年近くになる。
父親は家を出て行った。
最初は、葵は父親がいつ帰ってくるのかと尋ねた。
それから、彼女は尋ねなくなった。
母親の笑顔を消してしまう質問があることを、彼女は知っていたのだ。
母親はほとんど一日中働いていた。早く帰ってくることもあれば、空がすっかり暗くなってから帰ってくることもあった。
週末も本当の意味での週末ではなかった。
掃除をしなければならなかった。
食料品を買いに行かなければならなかった。
洗濯をしなければならなかった。
学校に行く準備をしなければならなかった。
お金の残高を確認しなければならなかった。
葵は、お母さんが一生懸命頑張ってくれていることを知っていた。
でも、それを知っていても、孤独感は少しも和らがなかった。
学校にも友達はあまりいなかった。
彼女は内気だった。
他の女の子に誘われても、ほとんどいつも断らなければならなかった。
お母さんは働いていた。
連れて行ってくれる人もいなかった。
迎えに来てくれる人もいなかった。
やがて、誰も彼女を誘わなくなった。
だから、お母さんが帰ってくると、葵は何でも話したかった。
一緒に遊びたかった。
自分の絵を見せたかった。
一緒に床に座って、お人形を王国を救うお姫様に見立てて遊んでほしかった。
でも、お母さんはいつも疲れていた。
その夜、葵は黙って夕食を食べた。
お母さんは話しかけようとした。
「あなたの好きなカレーを作ったわよ。」
「ありがとう。」
「おいしい?」
「うん。」
以上です。
それから葵は自分の部屋へ行きました。
パジャマに着替えて、二つの王冠を机の上に置きました。
寝る前に、窓の外を見ました。
空は澄み渡っていました。
すると、空を横切る光の筋が見えました。
流れ星です。
葵は目を見開きました。
学校で聞いたことを思い出しました。
消える前に願い事をすれば…
叶うかもしれない、と。
葵は慌てて両手を合わせました。
「ママが女の子だったらいいな。」
流れ星は消えました。
葵は目を開けました。
「そしたらママも私と遊べる…」
ベッドに入りました。
何も起こりませんでした。
「嘘だったんだ…」
葵は目を閉じました。
翌朝、ドアをノックする音がしました。
「葵。」
少女は目を開けました。
「ママ?」
「あおい。」
また声が聞こえた。
でも、どこか違和感があった。
あおいはドアを開けた。
そこに母親がいた。
30代の頃と全く同じ姿だった。
髪型も、顔も、体型も、何も変わっていなかった。
毎朝着ているエプロンまで同じだった。
でも、口を尖らせていた。
「お腹すいた。」
あおいは瞬きをした。
「え?」
「お腹すいた。」
「じゃあ…朝ごはん作って。」
母親は眉をひそめた。
「いらない。」
「え?」
「シリアルがいい。」
「いつもちゃんと朝食を食べなさいって言うじゃない。」
「でも今日はシリアルがいいの。」
あおいは母親を見つめた。
母親はノックもせずに部屋に入ってきた。
彼女は机の上のリースを見つけた。
彼女の目は輝いた。
「なんて綺麗なの!」
彼女はすぐにバラを掴んだ。
「これは私のものよ!」
「もう私のものよ!」
「ママ!」
母親は走り去った。
「捕まえて!」
葵は凍りついた。
星。
彼女の願い。
「そんなはずはない…」
彼女は母親の後を追った。
「ママ!」
「捕まえられないわよ!」
「私のティアラを返して!」
葵が母親のそんな笑い声を聞いたのは何年もぶりのことだった。
朝食はシリアルになった。
母親はチョコレートを入れたがった。
葵は止めなければならなかった。
「朝から砂糖をたくさん摂るのは体に悪いって言うじゃない。」
「大人ってつまらないことばっかり言うよね。」
「でもママだって大人でしょ!」
母親は自分の手を見つめた。
それから自分の顔に触れた。
「変ね。」
「何が?」
「私、大きくなったの。」
葵はゾクッとした。
「ママ…何歳なの?」
お母さんは少し考えた。
両手を上げて指で数え始めた。
「10歳。」
葵はスプーンを落とした。
「10歳?」
「たぶん。」
葵も10歳だった。
少女は窓の外を見た。
本当にそうなったのだ。
「じゃあ…」
彼女の顔に満面の笑みが広がった。
「遊べるね!」
部屋は城に変わった。
枕は壁になった。
椅子と椅子の間に張られた毛布は秘密の入り口になった。
人形たちは宮廷の女官たちになった。
テディベアは衛兵隊長になった。
そしてママは…
お姫様になった。
「だめ!」
「何?」
「私が女王様になりたい!」
「でも昨日、私が女王様だって言ったじゃない。」
「気が変わったのよ!」
「ずるい!」
二人は言い争いを始めた。
それから顔を見合わせた。
そして笑い出した。
葵は母親とこんな風に遊んだことは一度もなかった。
5分間も遊んだことはなかった。
お母さんが料理をしている間も遊んだことはなかった。
お母さんがしょっちゅう時計を見ている間も遊んだことはなかった。
二人は本当に遊んでいた。
何時間も経った。
お母さんがクローゼットの上に箱を見つけた。
「何が入っているの?」
「わからない。」
二人は箱を下ろした。
中には古い服が入っていた。
葵がほとんど見たことのないドレスもあった。
お母さんは一枚取り出した。
薄い青色だった。
「きれい!」
「あなたのよ。」
「私の?」
「そうよ。」
「どうして私はこれを着ないんだろう?」
葵は肩をすくめた。
「ママはいつも仕事着を着てるじゃない。」
母親はドレスをじっと見つめた。
「これ着たい。」
「いいわよ!」
その後すぐに、寝室はまるで爆発したかのように散らかった。
ベッドの上にドレス。
床に靴。
アクセサリー。
帽子。
バッグ。
葵は化粧道具を見つけた。
「ママ…」
二人は顔を見合わせた。
二人は微笑んだ。
「お姫様?」
「お姫様。」
葵は母親の化粧をしてみた。
結果はひどいものだった。
口紅をつけすぎ。
アイシャドウがムラ。
チークが少しつけすぎ。
「怪物みたい!」
「やったわね!」
「じっとしてて!」
今度は母親の番だった。
「ママ、それはまつげにつけるのよ!」
「わかってるわ!」
「それは眉毛用よ!」
「ほとんど同じじゃない!」
「違うわ!」
メイクが終わると、二人は鏡に映った自分たちを見た。
沈黙。
葵が笑い出した。
お母さんも笑った。
お腹が痛くなるほど笑った。
するとお母さんがスマホを取り出した。
「写真!」
「だめ!」
「いいわよ!」
二人は抱き合った。
カシャッ。
写真には、お姫様の格好をした大人の女性と娘が写っていた。化粧はひどく、まるで何もかもどうでもいいかのように微笑んでいた。
二人はそのまま外出した。
葵はまだ少し恥ずかしがっていたので、プラスチックのティアラはつけなかった。
お母さんは青いドレスを着ていた。
二人は手をつないで歩いた。
誰も驚かなかった。
通りすがりの人々にとって、二人はただ楽しんでいる母娘に見えただけだった。
二人はお店に入ったけれど、何も買わなかった。
帽子を試着したり、
ドレスを見たり、
アイスクリームを分け合ったりした。
お母さんがショーウィンドウの前に立った。
「あおい。」
「何?」
お母さんはハンドバッグを指さした。
「あれが欲しい。」
あおいは値段を見た。
目を丸くした。
「あれは買えないよ!」
「どうして?」
「すごく高い!」
「でも、可愛いじゃない。」
「お母さんはいつも、まず大切なものを買わなきゃって言うの。」
お母さんは口を尖らせた。
「つまんないわね。」
「え?」
「大人になるって、つまらなそう。」
あおいは笑った。
しかし、お母さんはショーウィンドウを見つめ続けた。
「欲しいものを買えるわけじゃないのよ。」
お母さんの笑顔はゆっくりと消えていった。
「好きな時に遊べるわけじゃないのよ。」
葵は笑うのをやめた。
「泣きたい時に泣いちゃダメよ…」
母親はうつむいた。
「大人になりたくないの。」
夕暮れ時、二人は家路についた。
葵はまだ幸せだった。
今までで一番幸せな一日だった。
しかし、片付けをしていると、物音が聞こえた。
すすり泣き。
母親が寝室の床に座り込んでいるのを見つけた。
母親はまだ青いワンピースを着ていた。
「お母さん?」
母親は膝に顔をうずめた。
「なりたくないの。」
葵は近づいた。
「どうしたの?」
「戻りたくないの。」
「どこに?」
母親は顔を上げた。
頬には涙が流れていた。
「自分に戻りたくないの。」
「自分?」
「大人の自分。」
葵は言葉が出てこなかった。
母親は泣き始めた。
隠そうともしなかった。
「疲れているのよ。」
「誰が?」
「お母さん。」
葵は胸に奇妙な痛みを感じた。
「いつも疲れているの。まだ寝たいのに起きて、行きたくないのに仕事に行く。時々、人にひどいことを言われるけど、黙っていなきゃいけないの。」
葵はそんなことを聞いたことがなかった。
「それから家に帰ってきても、料理をしなくちゃいけないの。」
涙は止まらなかった。
「掃除もするし、洗濯もする。あなたの持ち物も整理しなきゃいけない。何でもかんでも払わなきゃいけないのよ。」
「お母さん…」
「お金が全然足りないの。」
葵はテーブルの上のレシートを思い出した。
「時々、怖がっているの。」
「怖い?」
母親はうなずいた。
「すごく。」
「でも、あなたは全然怖がってないじゃない。」
「ううん、怖いよ。」
答えは即座に返ってきた。
「家を取られるのが怖い。病気になって働けなくなるのが怖い。何か必要なものがあったら、買ってあげられないかもしれない。」
葵は自分の目が熱くなるのを感じた。
すると、母親はさらに辛いことを言った。
「そして、彼は行ってしまった。」
葵は誰のことを言っているのかすぐに分かった。
「お父さん…」
「一緒にいてくれるって言ってたのに。」
彼女の声は震えた。
「約束してくれたのに!」
彼女は床を弱々しく足でトントンと叩いた。
「そして、彼は私を一人にしたの!」
葵は、母親が父親のことをそんな風に話すのを一度も聞いたことがなかった。
一度も。
「私が全部やらなきゃいけなかったの。」
何年も封印されていた言葉が、堰を切ったように溢れ出した。
「私もどうしたらいいのか分からなかった。誰かに『大丈夫だよ』って言ってほしかった。」
彼女は膝を抱え込んだ。
彼女はもう大人の女性には見えなかった。
葵にはそれが分かった。
目で見るのではなく。
心で。
目の前には、怯えた子供が立っていた。
「いつも強くありたくない。」
葵は泣き出した。
「ママ…」
「あんな大人になりたくない。」
「どうして?」
母親は彼女を見た。
「だって、間違ったことをするのが怖いから。」
「何を?」
答えはかろうじて聞き取れるほどの小さな声だった。
「あなたのママでいること。」
葵はもう我慢できなかった。
駆け寄って、
抱きしめた。
母親は娘にしがみついた。
数分間、二人は一言も話さなかった。
ただ泣いていた。
その時、葵は何かを悟った。
自分が孤独を感じていたから、あの願いを抱いたのだ。
でも、母親もまた孤独だった。
おそらく長い間。
「ママ。」
「どうしたの?」
「今日は大人ぶらなくてもいいのよ。」
母親は顔を上げた。
「本当に?」
葵はうなずいた。
「今日は私がママの面倒を見るわ。」
母親はまた泣き出した。
でも今度は微笑んだ。
二人は毛布のお城を再び作った。
二人は王冠をかぶった。
中でクッキーを食べた。
葵は物語を語った。
お母さんは他にもいろいろと想像を膨らませた。
寝る時間になっても、二人とも自分のベッドに戻りたくなかった。
それで、二人はお城の中に残った。
「あおい。」
「何?」
「大きくなったら…」
あおいは息を呑んだ。
「いいお母さんになりたい。」
また目に涙が浮かんだ。
「もうすでにいいお母さんよ。」
「でも、私はまだ子供。」
あおいは微笑んだ。
「じゃあ、大きくなったら…」
お母さんは目を閉じた。
「娘とたくさん遊びたいの。」
あおいはお母さんを抱きしめた。
「きっと、お母さんもすごく喜ぶと思う。」
窓から光が差し込んだ。
また流れ星だ。
あおいはそれを見た。
すぐに理解した。
これはチャンスだ。
お母さんに、このままここにいてほしいと頼める。
毎日一緒に遊べる。もう二度と「忙しい」なんて言わなくて済む。
もう二度と孤独を感じることもない。
葵は両手を合わせた。
目を閉じた。
「私は…」
言葉を止めた。
眠っている母親を見つめた。
そして、レシートのことを思い出した。
食べ物のこと。
清潔な制服のこと。
朝食のこと。
疲れて帰ってきても、一日どうだったかと尋ねてくれた母の夜のこと。
今まで理解できなかったことが、ようやく分かった。
母が遊びをやめたのは、愛していないからではない。
母が遊びをやめたのは、母を守ろうとしていたからだ。
葵は目を閉じた。
「お母さんに、もう一度お母さんでいてほしい。」
星は消えた。
朝が来た。
母は目を開けた。
頭には歪んだプラスチックの王冠が乗っていた。
周りを見回した。
毛布にくるまっていた。娘は彼女に抱きついて眠っていた。
彼女はじっと動かなかった。
彼女はすべてを思い出していた。
シリアル。
遊び。
ドレス。
化粧。
散歩。
そして…
自分が言ったことすべて。
彼女は口元を手で覆った。
涙が溢れ出した。
葵が目を開けた。
「ママ…」
母親は急いで顔を拭った。
「おはよう。」
彼女は微笑もうとした。
「朝ごはんを作らなきゃ。」
彼女は起き上がろうとした。
葵は彼女の袖をつかんだ。
「ママ、泣いてもいいんだよ。」
女性は立ち止まった。
何年も、彼女は娘に泣いているところを見せないようにしてきた。
母親だから。
強くならなきゃいけないから。
誰かが強くならなきゃいけないから。
でも、その朝は…
彼女は泣くことを自分に許した。
葵は母を抱きしめた。
そして母も葵を抱きしめ返した。
問題は消えなかった。
電気代の請求書は相変わらずテーブルの上にあった。
母は相変わらず仕事に行かなければならなかった。
父は帰ってこなかった。
葵は相変わらず内気だった。
辛い日々が続いた。
そして、母が夜、疲れ果てて目を開けていられないほど疲れて帰ってくる日もあった。
しかし、少しずつ変化が訪れた。
ある日の午後、葵は学校から帰ってきた。
台所で母を見つけた。
テーブルの上にはレシートが置いてあった。
電卓。
洗濯機に入れるのを待っている服。
葵は手に持っていた二つのプラスチックの王冠を見つめた。
自分の部屋に戻ろうとした。
「葵。」
葵は振り返った。
母は時計を見た。
それからレシートを見た。
そして王冠を見た。
ため息をついた。
「20分だけ時間をあげるわ。」
葵は目を見開いた。
「何のために?」
母親は立ち上がった。
黄色いティアラを手に取り、頭にかぶった。
――もう一度子供に戻るためよ。
葵は微笑んだ。
母親のもとへ駆け寄った。
そして20分間…
お金のことは後回しにできる。
服のことも後回しにできる。
悩み事も後回しにできる。
なぜなら、お母さんは時々大人になる必要があったから。
そして時々…
お母さんは、まだ心の中に生きている子供を思い出させてくれる誰かを必要としていたから。
おしまい
読んでいただきありがとうございます。
これは、深く愛し合っているにもかかわらず、どちらも打ち明けられずに抱えていた孤独を描いた、母と娘の短い物語です。
この物語を読んで、笑顔になったり、涙を流したり、何か特別な感情を抱いた方は、ぜひ感想をお聞かせください。
読んでいる間、どんな気持ちになりましたか?一番心に残った場面は?感動したシーンはありましたか?
もしお時間があれば、コメントや評価を残していただけると嬉しいです。「泣けた」「良かった」「このシーンに感動した」といった短い感想でも、私にとって大きな励みになり、物語がどんな感情を伝えたのかを理解する上で大変参考になります。
葵と彼女のお母さんの物語を最後まで読んでくださり、心から感謝申し上げます。




