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アクアマリンの空

作者: 伊藤 昏
掲載日:2026/04/26

ボクの目の前には青空が広がっていた。どこまでも伸びるこの薄青い空は、地上の事などつゆ知らず。人と人が争い、憎しみ合っている事など関係無しに、ただそこには美しい青天の空があった。所々で雲が白波を立て、流れている。

何故、ボクはこんなところにいるのだろう?

一度自ら命を絶って、神に望んで来た異世界。漫画やアニメのように特別な力を持って、異世界の住民をあっと驚かせ、前世では得られなかった人望や友情、愛しい恋人を得て幸せに暮らす。

そんな筈だった。そんな筈だったんだ。

けど、今、ボクは。

血を吐き、血を流し、地面に倒れている。死を待っている。死を待ちながら空を見上げている。

辺りには舞い上がった土煙と、痛みに呻く兵士の声、死して魂を手放した肉の塊が転がっている。

一体何人の兵が死んだのだろう。何人の兵が助かり、死んでいくのだろう。そしてボクは、ボクはきっと助からないのだろう。

脇腹が抉られ、血が流れ出ている。もはや痛みも感じない。ただ意識がぼんやりと宙に昇っていく。指の一本も動きはしない。

ここで死ぬ。

それを理解しても、涙は出なかった。どこかで分かっていたのかもしれない。例え異世界に転生出来たとして、魔法が使えたとして、人より特別な力があったとしても、ボクはボクのままだ。

戦争の経験など無いし、当然人を殺した事など無い。獣を殺めた事すら無い。そんな人間が特別な力を得たとして、それを十全に扱えるわけはないのだ。

ボクは戦争の道具として、この異世界に転生し、酷使され、死んでいく。惜しむ人はいても、悲しむ人はいない。国王も王女も騎士団長も、皆、ボクという人間ではなく、転生者という道具としてボクを見ていたのだ。

空には鳥が滑るように飛んでいる。おそらく死肉を啄みに来たのだろう。相変わらず雲は流れていて、少し冷たい風が吹いている。

ボクは微笑んだ。馬鹿馬鹿しくなった、下らなくなった、情けなくなったから。

自分はどこに行っても何も変わらない。生まれ変わっても、小さな羽虫のように死んでいく。ボクがボクという意識を持つ限り、希望は無いのだと理解した。

(今度生まれ変われるなら何が良いだろうか)

そんな事を考えていると、空から鳥の羽ばたきに合わせ、羽根が落ちてきた。羽根は揺りかごのように揺れながら静かに、不規則に落ちてくる。

(そうだ、今度生まれ変われるならボクは羽根になりたい)

羽根のように風に身を任せ、幸も不幸もなく、空を漂い流れてゆく。そんな存在になりたいと思った。

次第に瞼が重くなりはじめる。ボクは瞼が閉じるその前に、静かに広がるアクアマリンの空を見つめた。

次に生まれ変わったその時に、もう迷うことがないようにと。

普通になろう系が書きたかったけど、気付いたら死んでた。おかしいな…

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