沈黙の訓練場
薄い雲の隙間から、月の光がわずかに地面を照らしていた。
郊外にある使われなくなった訓練場。ひび割れたコンクリート、錆びた鉄柵、風に揺れる金属の音が静かな夜に響いている。
その中央に、一人の男が立っていた。
鳳条迅。
肩に巻かれた鎖が、風に揺れて小さく音を立てる。
迅は空を見上げ、小さく呟いた。
「……遅いな」
その時、背後から砂利を踏む音が近づく。
ザッ……ザッ……
振り向く迅。
暗闇の中から三つの影が歩いてくる。
月明かりが照らした。
天城蒼真、鬼堂灯真、そして重村優雅。
優雅は手をポケットに入れたまま言う。
「ここか」
蒼真は軽く肩を回す。
「思ったより広いな」
灯真は周囲を見渡す。
「修行には丁度いい場所だね」
迅は三人を見る。
「怪我はもういいのか」
蒼真と灯真が同時に言う。
「問題ない」
優雅は少し笑う。
「重力はいつでも使えるからな」
その時、屋上から声が落ちてくる。
「三人とも思ったより早かったね」
三人が見上げる。
壊れた建物の屋上に座っていたのは霧島翠霞。
翠霞はそのまま飛び降りる。
トンッ
軽く着地すると言った。
「弐番隊集合って聞いたけど、まだ全員じゃないわよね?」
その直後、建物の影から一人の男が歩いて出てきた。神崎雷牙。
雷牙は腕を鳴らす。
「よお、みんな!こんな時間に呼び出してどうしたんだ?」
その時、入口の鉄扉が開く。
ギィ……
そこから二人が入ってくる。
神崎颯、そして轟崎響。
響は肩を回しながら言う。
「悪い、少し遅れたね」
颯は笑う。
「走ってきたら意外と遠かった」
その時だった、空間が歪む。
バシュッ
突然現れたのは空城玲司。
玲司は言う。
「遠そうだったから飛んできたのは正解だったな!」
雷牙が羨ましそうに言う。
「それズルいだろ!」
翠霞が笑う。
「ほんと便利ね」
その後ろからさらに二人が歩いてくる。
鴉羽蓮と一ノ瀬奏。
蓮は周囲を見る。
「……揃ってきたな」
奏は少し緊張した顔で立っている。
その時、上空から声が落ちてくる。
「まだ一人いる」
全員が見上げる。
壊れた給水塔の上。
そこに立っていたのは黒鐘時夜。
長いコートが風で揺れている。
時夜は静かに飛び降りた。
ドンッ
重い着地音が響く。
ゆっくり顔を上げる。
「これで全員だ」
弐番隊の十二人が、夜の訓練場に集まった。
風が吹くが、誰も喋らない。
蒼真が口を開く。
「で、どうしたんですか?迅さん」
迅は全員を見渡す。
「修行だ」
雷牙が眉をひそめる。
「急だな」
迅は空を見上げる。
「時間がない」
そして一言。
「天狗」
その名前が出た瞬間、空気が変わった。
翠霞は腕を組み直す。
灯真は目を細める。
優雅は静かに目を閉じる。
迅は言う。
「このまま戦えば俺と時夜以外全員死ぬ」
沈黙。
その時、蒼真が前に出る。
「なら」
蒼真は拳を握る。
「強くなればいい」
迅は少し笑う。
「そうだ」
迅は全員を見る。
「今から二日間、全員の技能を徹底的に鍛える。弐番隊の修行だ」
雷牙が笑う。
「面白ぇ」
響が拳を鳴らす。
「久しぶりに暴れられるね」
優雅が言う。
「俺の技能も試したいところだ」
翠霞は肩をすくめる。
「それって相手を傷つけるのありなんですか?」
玲司が言う。
「俺は手加減しねぇぜ」
灯真も同調する。
「本気でやっていいんじゃない?」
颯も決意を固める。
「やるしかないな」
蓮や奏も覚悟を決めた。
「……俺もやる」
「……頑張ります」
時夜は無言で立っている。
迅は最後に言った。
「これが、最後の準備だ。天狗を倒すためのな」
夜の訓練場、弐番隊の修行が、今始まるーー




