嵐の奪還
風はもう唸らないーー
空中に磔にされた天狗の体から、まだ風が漏れ出していた。
鎖が軋み、金属音が草原に響く。
迅は鎖を握ったまま動かない。
「まだ動くのか」
天狗は苦しそうに笑う。
「これくらいで終わるほど、風は弱くない」
その瞬間、草原の空気が変わる。
迅の視線が横へ動く。
――気配。
倒れている雷牙や颯、翠霞たちも目だけ動かす。
草原の端、そこに二つの影が立っていた。
黒い外套。
一人は大量の人形を連れて立っている。
もう一人の周囲には、ゆっくりと蝶が舞っていた。
迅が低く言う。
「……仲間か」
人形使いが小さくため息をつく。
「派手にやられたね」
蝶使いが笑う。
「だから言ったじゃない。遊びすぎだって」
迅は鎖を強く握る。
「帰すつもりはない」
次の瞬間、人形使いの指がわずかに動く。
指が動いたのを同時に人形たちが走って迅の所に向かいだした。
迅が鎖で弾き飛ばす。
だがその一瞬、蝶使いが手を振る。
無数の蝶が舞い上がる。
その鱗粉が空気に広がる。
悠雅が叫ぶ。
「迅さん!!!」
しかし遅い。
草原がまるで紫色の霧のような粉で覆われ、
視界が消える。
暴風が吹き、やがて霧が晴れた時、
そこには誰もいなかった。
鎖に繋がれていたはずの天狗の姿も。
人形使いも。
蝶使いも。
ただ草原に静かな風だけが流れていた。
迅は鎖をゆっくり巻き取る。
「……逃げたか」
倒れている颯が呟く。
「なんなんですか……あの人たち…」
迅は空を見る。
「まだ終わってない」
風が遠くで鳴っていたーー




