崩れた戦線
草原はすでに戦場になっていた。
踏み荒らされた草。
深く抉れた地面。
戦いの衝撃で舞い上がった砂が、まだ空中を漂っている。
その中心に――
天狗の男が立っていた。
いや、浮かんでいた。
風に乗るように空中に足を置き、四人を見下ろしている。
「どうした?」
退屈そうに首を傾ける。
「さっきの勢いはどこ行った?」
雷牙が歯を食いしばる。
「まだ終わってねぇ!」
拳に雷が集まり、バチバチと青白い電流が走る。
雷牙が地面を蹴る。
ドン!!
草が弾け、雷牙が一気に距離を詰める。
「紫電撃!!」
雷光が一直線に走る。
だが――
ヒュン。
天狗はその場から消えた。
拳は空を切る。
「上だ」
天狗の声、次の瞬間。
ドゴッ!!
雷牙の背中に蹴りが叩き込まれる。
雷牙の体が地面を滑り、草原を大きく削る。
「雷牙!」
颯が飛び出す。
足に風を纏い、空中で回転する。
「嵐脚!!」
風の蹴りが天狗へ向かう。
だが天狗はその蹴りを――
片手で止めた。
「悪くない。でもワンパターン」
軽く腕を振る。
ドン!!
颯が吹き飛ぶ。
地面を転がり、ようやく止まる。
翠霞が指を振る。
紫色の毒が弾丸のように飛ぶ。
「ーー毒針!」
だが天狗はそれを指で弾く。
パチン。
毒が草原に散る。
「それももう見た」
次の瞬間、天狗が翠霞の前に現れる。
ドゴッ!!
腹を蹴り上げられ、翠霞の体が宙に浮く。
さらに――
回し蹴り。
ドォン!!
翠霞が地面に叩きつけられる。
悠雅が手を上げる。
「止まれ」
重力が落ち、空気が沈む。
天狗の体も一瞬だけ沈む。
だが男は笑う。
「重いね」
次の瞬間、風が爆発する。
ドォン!!
重力を押し返し、悠雅の体が吹き飛ぶ。
四人がそれぞれ地面に倒れる。
草原を風が強く揺らす。
天狗はゆっくり歩く。
まるで散歩でもしているように。
「もう終わり?」
雷牙が震える腕で立ち上がる。
颯も膝をつく。
翠霞は呼吸を整えようとしている。
悠雅も体を起こす。
四人はまだ立っていた。
天狗はそれを見て、少し驚いた顔をする。
「へぇ」
そして笑う。
「まだ立つんだ」
風がさらに強くなる。
草原が波のように揺れる。
「じゃあ」
手を広げる。
空気が集まる。
「まとめて倒そうか」
風が一点に収束する。
「ーー天嵐」
次の瞬間――
ドォォォン!!!
巨大な衝撃波が草原を薙ぎ払い、地面が裂け、草が宙を舞い、四人の体が同時に吹き飛ぶ。
そして――
動かない。
もう動かない。
草原に静寂が戻る。
天狗はその様子を見て肩をすくめる。
「……弱いな」
その時、
背後で声がした。
「随分」
天狗が振り向く。
そこには一人の男が立っていた。
鎖を肩に担ぎ、静かな目で戦場を見ている。
「派手にやってるじゃん」
雷牙がかすれた声で呟く。
「……迅さん…」
迅がゆっくり前に出る。
風が止まる。
「ここからはーー」
鎖を下ろす。
「俺が相手だ」
天狗の口元が吊り上がる。
「へぇ」
戦場の空気が変わる。
次の戦いが始まるーー




