天狗
草原の風が静かに揺れていた。
蒼真たちの戦いから少し離れた丘の上。
雷牙、颯、翠霞、悠雅の四人が警戒しながら周囲を見渡している。
その時だった。
空の上に――
黒い影が浮かんでいる。
「……飛んでる?」
翠霞が目を細める。
影はゆっくりと降りてくる。
まるで風に乗るように、音もなく。
地面に着地した男は、周囲を見回して小さく笑った。
「へえ……なかなか面白そうな連中だ」
普通に喋った。
雷牙が拳に雷を纏わせる。
「……魔獣じゃねえな」
颯が風をまといながら言う。
「でも人間にしては動きがおかしい」
男は肩をすくめた。
「四人か。いいね、退屈しなさそうだ」
次の瞬間――
消えた。
「っ!」
雷牙の背後に衝撃。
振り返る前に男はもう別の場所にいる。
ドンッ!!
颯が地面に叩きつけられる。
「速い……!」
悠雅が重力を操作し、男の動きを鈍らせようとする。
だが男は空中で体をひねり、その重力の範囲から抜け出す。
翠霞が腕を振る。
紫色の霧が広がる。
「毒霧――」
毒が男の身体に触れる。
「……へえ」
男は少し驚いたように腕を見る。
皮膚が一瞬だけ黒く変色する。
だが――
数秒後、元に戻る。
翠霞が目を見開く。
「……回復してる?」
男は笑った。
「今のは効いたよ」
そう言いながら肩を回す。
再び跳躍。
その動きは――
まるで風。
空中を蹴り、草原を一瞬で横切る。
雷牙が雷をまとい突撃する。
バチッ!!
拳が男の顔に直撃する。
確かな手応え。
男は数メートル吹き飛ぶ。
だが――
ゆっくり立ち上がる。
頬の裂けた傷がみるみる塞がっていく。
悠雅が低く言う。
「……再生している」
颯が空を見上げる。
男は空中に立っていた。
風の上に立つように。
雷牙が歯を食いしばる。
「……この動き」
翠霞が小さく呟く。
「まさか……」
悠雅が言う。
「天狗……?」
男は楽しそうに笑う。
「お、正解」
風が渦を巻く。
「俺の技能は――」
「天狗だ」
突風が草原を走り抜ける。
そして四人は理解する。
この敵は――
今までの敵とは格が違う。
総力戦が、始まった。




