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 ゆっくりと進み出た試合会場は私たち選手が登場した瞬間に一際高い歓声が上がった。


 観客席にはたくさんの人がひしめくようにいて、その声の圧には数回試合を重ねたにも関わらず相変わらず慣れない。


 観客席に視線を巡らせて、王族の観覧席が視界に飛び込む。


 中央に国王陛下と王妃殿下。その右隣が王太子となった第二王子とその妻となった公爵令嬢ーー王太子妃が座る。

 反対側の左側がソフィア様だ。彼女の側には近衛騎士としてバーナード様も控えている。


 王族の観覧席を見上げた私がソフィア様と視線が合えば、彼女は信頼のこもった微笑みで私に頷いた。

 私も頷き返す。身が引き締まる思いだ。


 次いで目の前の試合相手を見る。


 相変わらず覆面のままの身軽な長槍使い。

 それでもしっかり筋肉がついて、身軽なだけでなくパワーもあると見受けられた。

 槍の形は木造の柄と小さめの鉄の穂先というシンプルで細いもの。この国ものではなく、隣国でよく見られるタイプのものだ。

 足の運びは油断なく一歩引き、半身を開いて油断なく私を見据えている。


 初撃はどこに飛んでくるのか。私も油断なく、彼の攻撃の予測を立てながら剣を構える。


「ようやくお前とやり合う機会を得た」


 試合開始直前、審判の掛け声が飛ぶより前に目の前の試合相手が口を開いた。


 その言葉に私は怪訝に眉をひそめる。


 私を知っている人なのだろうか? だが心当たりがない。


 それ以上彼は無駄口を叩くことなく、私が問いを返す前に審判が声を張り上げた。


「試合、開始!」


 瞬間、弾かれた矢のような勢いで試合相手が飛び込んでくる。


 その勢いはやはり目で追うことはできない。

 けれども真っ直ぐと顎を狙う一撃に予測をしていた私は、彼の一撃を弾き返す。


 歓声が遅れて上がる。


 試合相手が舌打ちをして槍を引く。

 その瞬間を逃さず、私は一歩を踏み込んで槍の間合いを殺しつつ剣を振り下ろした。


 鈍い手応え。私が振り下ろした剣は引きつつも彼が跳ね上げた槍でもって弾き返されたのだ。

 器用な真似に私は感心しつつ、跳ね上がった槍の柄が落ちてくるのを手甲で受け流しつつ再度剣を斬り下ろした。


 試合相手が大きく跳躍する。

 私の一撃をかわして、真上から狙う槍の穂先を最小の動きでかわすと地面に槍を突き立てた彼へ剣を振るった。


 が、ふと狭い視界の外から腹に向かって何かが飛び込んでくるのを察して、私は咄嗟に体を折る。


 足だ。


 フルプレートアーマーに包まれた私の体をいともあっさりと蹴り飛ばした男は地面から槍を引き抜いて、二度、三度確かめるように軽々と槍を回すとまだ油断なく私に向かって構えた。


 鳩尾を蹴られて吹っ飛ばされたが、咄嗟に衝撃を散らした私もまた倒れることなく踏みとどまって剣を構え直す。


 フルプレートアーマーで良かった。そうじゃなかったら今の蹴りは確実に吐くぐらいのダメージがあった。


 ……本当、彼は強い。


 私よりも実力が間違いなく上の相手だ。とはいえ父ほどではない。

 父が相手だったのならもっと理不尽に、今の間に三度か四度は転がされていた。


 まだ彼には手が届く。それなら負けるわけにはいかない。


 再度、彼が槍を構えて目に見えないスピードで突撃してきた。

 私も今度は地面を蹴って迎え撃つ。


 刹那、甲高い金属の音がして私たちは立ち位置をを入れ替えるように降り立った。


 フルプレートアーマーの肩口が砕けて地面に落ちる。


 その一方で私が向こうに与えられたダメージは多少のもの。覆面の一部を裂いたくらいで皮一枚で避けられた。


 浅黒の肌が覗く覆面の切れ目を確かめるように触れ、彼は鼻を鳴らして私に向き直った。

 正体を判明させるに至らない程度のダメージを嘲笑うような声だった。


 槍を構えた彼がまた私に攻撃を浴びせる。

 今度の攻撃は目にも止まらぬ突きだ。

 何十、何百かと錯覚させるほどの目にも止まらぬ百烈突きに私は防戦を強いられる。


 致命的な一撃は避けられているが、それでも槍が鎧を突き薄皮を一枚一枚剥ぐようなダメージを蓄積させて私を追い詰める。

 何とか隙を見つけて反撃に転じなければ。


「カノン!」


 と、歯噛みする私の耳に観客の歓声を割って、真っ直ぐと声が届く。


 その声にハッとすれば観客席の最前列にソルの姿を見た。


 それと同時に彼を捉えた視界の端に不審者も。

 ボウガンを手にした不審者が王族の観覧席を狙っていると、いち早く察した私は捨て身で百烈突きに飛び込んだ。


 甲高い音。

 広くなる視界。

 大きくざわめく観客たち。


 強烈な一撃にこめかみがズキズキと痛んで意識が遠のきそうになるが必死に堪えて私は構わず走る。


 眼中にもされなかった試合相手が怪訝に顔をしかめた後に、私が走る先に気がついた気配がした。


 私はそれでも構わずに走って剣を振りかぶって投げる。

 私が投げた剣は寸分違わず狙った試合会場の壁に突き立って、私は大きく跳躍してその剣を踏み台にしてさらに飛び上がった。

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