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 あの後、ロデオバーグ男爵とはまた今度改めて交流する時間を取ろうと約束をして別れた。

 多分、あと二、三回ほど会った後にお互いに問題がなければ、私は彼と結婚を決めるのだと思う。


 そうなったら……きっとソルとは疎遠になるのだろう。

 彼は私にとって色んなことを教えてくれて、怪我をした私のことを本気で心配してくれるような大切な友人だ。


 けれども彼は男で、私は女だ。


 今まではお互いに未婚で婚約者もいなかったから二人で会うことも目溢しされていたけれど、ロデオバーグ男爵と婚約するならばこれまで通りとはいかない。


 ましてやロデオバーグ男爵は前妻が不貞の末に離婚することになった人。

 その時の傷も癒えていないのにアズーロ様のお願いを聞き、私のために結婚を考えてくれている人だ。


 だからこそ彼との結婚を考えるなら、私は疑われるような真似を見せてはいけないと思う。

 そう考えていることを一度ソルとはきちんと話しておきたいと思うのだけれど、それでも疎遠にすると話し合うことすらも何だか胸が塞ぐ気がするのは、あの時私とロデオバーグ男爵とのディナーに突然として現れたソルの態度だろう。


 あの時のソルは本当におかしかった。

 いつもの彼ではなく、とにかく余裕がなくて不安定だった。


 そも私は彼がなぜあの場に現れたのかすらわからない。

 とにかくロデオバーグ男爵と婚約をする前に一度ソルとは話さなければ。


 そう思うのに、そういう時に限って二人して忙しくて会う時間が取れないでいる。


「ーーっ!」


 甲高い剣戟の音金属が打ち合って震える感触に顔をしかめる。

 弾かれた。やはり男女差は大きい。


「隙あり!」


 私の剣を弾いたバーナード様の剣が続け様に振るわれて、私は最小の動きで振り下ろされた剣を避けるとそのまま剣を彼に向かって突き出した。

 喉元を狙う剣をバーナード様がいなし、剣を薙ぐように振るう。

 それには私も退く他なく、大きく後ろに飛んで距離を取った。


 そこでパチパチパチパチと手を叩く音が聞こえて、私たちは大きく息をついてそちらを振り返る。


「すごい、すごいわ、カノン。やっぱりあなたって素敵」

「お褒めに預かり光栄です」

「ちょっと姫様、俺は?」

「あらバーナード、あの程度で褒められたいの? 志が低いのね」

「贔屓だ……!」


 ソフィア様の言葉に試合相手のバーナード様がショックに震える。

 二人のいつものやり取りに、私は苦笑しつつ被った兜を脱いだ。

 途端に視界が広くなる。フルフェイスメットは思った以上に窮屈だ。


「それでカノン、フルプレートアーマーの着心地はどうかしら? ちゃんと戦えそう?」

「多少動きは阻害されますが、特注の軽銀で作っていただいたために重さの方は問題なさそうです。視界が狭まるのが厄介ですが……こればかりは訓練を重ねて慣れていくしかなさそうですね」

「いくら軽銀で軽めって言っても、フルプレートアーマー着て戦うって相当訓練積んだ重歩兵でないと滑らかに動けないんだよ……それであれだけ動けるヒューベルト子爵令嬢って……」


 言外に女子がしていい動きじゃない、と滲ませながらバーナード様がげんなりと言う。


 彼の言葉に少し複雑な気持ちになる。


 私がしていることって、そこまで特別なことなの、か……?

 確かに女が剣を振り回すのは特異なことだろうが、フィジカルはどうしても男性に劣ると思うし、そこまで特別なことをしているつもりはないんだけれど……


「ふふふ、カノンが逞しくってアタクシ嬉しいわ。見せびらかす甲斐があるというもの」

「ソフィア様、見せびらかすって……」

「あら、違うかしら? アタクシの護衛がこれほどに優秀だって知らしめるのよ。見せびらかすで合っているのでなくて?」

「姫様、当初の目的はそうじゃないでしょう……」


 ご機嫌なソフィア様にバーナード様がツッコむ。


 そう、私がフルプレートアーマーを着て訓練しているのは理由がある。

 今から半月後に将来有望な若手を騎士として召し上げるための武闘大会があるのだ。


 私はそこで女とバレないように顔を隠して参加をする。


 目的はこの国で初めて女として騎士爵を得るためだ。


 いまだこの国には女が戦うことは忌避されている。それどころか一部の職を除いて、手に職をつけることすらもみっともないと見られてしまう。

 平民はその辺り少し緩いようだが、貴族子女はほとんど結婚することしか道がない。そして夫に付き従い、一生を終えなければならない。


 そんな現状を、ソフィア様は打開したいのだ。


 特に今は少し前に元王太子が婚約破棄騒動をやらかして、その波及を受けてたくさんの貴族子女が振り回される事件があり、そんな彼女たちに新たな道を示すには十分な好機と言える。


 私がするのは騎士という男社会への殴り込み。

 女であろうと男と同等に渡り合い、勝つこと。女であってもこれだけできるのだ、と武闘大会に優勝して示すのだ。


 それで果たして本当に女性の社会進出の一助になるのかとは思うのだけれど、ソフィア様はその蟻のひと穴のような実績が大事だと言う。


 ちなみに顔を隠して参加するのは、優勝時にフルフェイスメットを外してインパクトを与えるためであり、参加者に「女だから手加減してやった」と言い訳をさせないためである。


「とはいえ……本当に大丈夫でしょうか? やるからには全力を尽くさせていただきますが、武闘大会には名だたる戦士が集まるのでしょう? 優勝までできるかどうか……」

「あら、弱気はよくないわ、カノン。アタクシはカノンなら絶対にできると信じているわ」

「ヒューベルト子爵令嬢ならトラブルさえなければ大丈夫だと俺も思うよ。いや……本当、君が優勝じゃなかったら誰がって感じ」


 バーナード様、なぜそこまで実感を込めるのか。

 私は釈然としないまま、首を傾ぐことしかできなかった。

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