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「……というようなことがあって」


 ソフィア様付きの側仕えとしてデビューしたあの夜会から数日後。

 久しぶりに会ったソルに私はその時のことを語っていた。


「ソフィア様が外国に嫁がれることになったら私もついていくことになるみたいだから、その場合って何かしら準備が絶対必要よね。言語とか文化の勉強とか……ソルは何か思いつくことある?」


 と、話を振ると、彼はただ言葉に詰まったように固まっていた。


「ソル?」


 黙したまま動かないソルに私が訝しげに問えば、彼は困ったように視線を落とすばかりだ。


 私は思わず首を傾ぐ。

 何か変なことでも言ってしまっただろうか。


「…………いや、すまない。その……そうだね。でもまだソフィーがどこに嫁ぐかは未定だから、勉強するのは決まってからでいいんじゃないかな」

「そうかなぁ」

「そうだよ」


 眉をひそめてぼやく私へ何故か食い気味にソルが言う。

 どこか焦っているようなソルの様子に私はますます訝しむ。


 前回、ソフィア様と三人で初めて顔を合わせた時もそうだったが、どうにもソルの様子はおかしい。

 何がどう、と言われると言葉にするのは難しいが、いつもは詐欺師かと思うくらいに会話のテンポを取るのが上手いソルが突如言葉に詰まったり、綺麗すぎて胡散臭いニコニコした笑顔の裏側の感情が透けるのが奇妙というか。


「…………ソル、何か悩んでたりするの?」

「え?」

「ガラス工房が実は上手くいっていないとか……また家族に何か言われたことを気にしているとか」


 あまりの様子のおかしさにそう問えば、彼は戸惑うように目をぱっちりと開いた。

 それからすぐに彼は歯切れ悪く唸りながら視線を落とす。


 どうやら図星らしい。


「力になれるかわからないけれど、話くらいなら聞くわよ」

「それは、ああ、うん……頼もしいけれど」

「私には話せないこと?」


 問えば彼は視線を落としたまま曖昧に唸って言葉を濁しかけ、やがて力なく首を振った。


「いや、カノンには少し話しておこう。詳細は話しにくいのだけれど、実は、その……今、恋をしていて」

「恋」


 思わぬ言葉に私は目を見張る。


「…………あなたが?」

「……そう。笑ってくれていいんだよ」

「笑わないわよ」


 自虐的に言うソルに私はそう答える。

 でも驚いた。

 よもや彼が恋をさせる側ではなく、恋をする側になるとは。


「それで、相手は?」

「名前は……話しにくいから伏せさせてほしい。でもその人は、その……なんだ。こんな女たらしの僕でもごく普通の友人として付き合ってくれるような変わった女性でね。普通の淑女とはまるで変わっているんだけれど、とても強くて格好良い魅力的な人なんだ。でも甘いものを食べた時とかに見せる笑顔が無邪気で無防備で、そのギャップがたまらなく可愛くて」


 ほうほう、と私は相槌を打ちながら手元のたっぷりのフルーツで飾られたパフェを口に運ぶ。


 気恥ずかしそうに頬を赤くし、初めはたどたどしく、でも話すうちに饒舌にその人の良いところを語るソルは確かに恋をしている顔だった。

 いつも完璧すぎて胡散臭い笑顔が嘘のように、好きの感情が溢るる人間くさい表情を浮かべる様はうっかり見惚れてしまうほどの愛らしさと美しさがあった。


「その人を口説こうとは思わないの? ソルならきっと口説き落とせると思うな」

「…………口説いてるつもりではあるんだけどね。プロポーズだってしたんだ。でも本気と思ってもらえなくて……」

「ああ……」


 今までの女の子と遊び歩いていた行いが返ってきているのか。

 確かにソルから口説かれたのなら私も何かの冗談と思ってハイハイと流してしまうだろう。


「でも諦めないで頑張って伝え続ければいつかちゃんと伝わると思う。恋しているソルの顔、とても魅力的だし」

「……………」


 私がそう告げるとソルは何とも言えない顔で私を見た。


 どことなく恨みがましそうな眼差しに私は何か変なことを言ったのかと戸惑う。

 なんとなくビクビクしながらソルを見返せば、彼はやがて深く、深海に沈みそうなくらいに深いため息をついた後にこう言った。


「…………脈がなさすぎるんだよなあ」

「そこはモテ男の腕の見せ所だと思うわ、ファイト!」

「…………………」


 ソルがぽそりと小さく呟く。

 口の形が“鈍感”と動いたように見えたけれど、声が聞こえなかったのではっきりと確証は得られなかった。

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