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「まあ、あなたがアタクシの護衛になってくださるカノン・ヒューベルト子爵令嬢?」

「はい。ソフィア王女殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう……」

「ああ、いいのよ、そういうの。気軽にソフィアって呼んでちょうだい」


 話を受けて初めて王宮に参内した日、私はソフィア王女殿下にお目にかかった。

 今年十四の歳になるこの国の末姫は、姫の名をそのまま体現した可愛らしい姫君だった。


「それでは……ソフィア様」

「ええ、上出来よ。よろしくね、カノン」


 彼女がにっこりと微笑めば、それだけで女性の私も心臓が高鳴るくらいに彼女は可憐だ。


「ところでカノン、あなたはあのバーガンディのところの廃嫡されたうつけを下したんですってね。素晴らしいことだわ。どこでそんな武術を身につけたの?」

「お恥ずかしい話ではありますが……父が三つになる頃の私の太刀筋を見て“これは”と思ったようで、それからしごかれるようになりまして……」

「まあ、まあまあまあ! そのお話、詳しく聞かせてちょうだいな!」


 上機嫌に笑うソフィア様に、私は身の上を丸裸にされるのではないかと思うくらいに根掘り葉掘り聞かれた。


 辺境伯に仕える辺境地近くの騎士の家系である父が剣術バカであること。

 そんな父に見込まれたせいで、十代になるまで剣を振るわされていたこと。

 さすがに淑女教育を始める頃には母が父を叱りつけて止めさせようとしたが、父は護身術だなんだと屁理屈をこねて私に武術を仕込み続けたこと。

 私もなんだかんだ体を動かす方が性に合っていたために、貴族学園に入ってからもこっそりと憂さ晴らしに木剣を振るったり体術の型を練習していたこと。

 父に何度もお前が男であったらなあと嘆かれたこと。


 私はソフィア様にねだられるまま、ものの見事に全てを吐いたのだ。


 と、恐れ多くもソフィア様とのお喋りに興じていた時だ。


「…………くらえっ!」


 不意に感じた殺気と共にソフィア様に向かって何かが飛来した。


 私はとっさにソフィア様の肩を押して飛来物の軌道から外すと同時に手近にあったテーブルクロスを素早く抜き取って飛来物の遮蔽にした。

 ぽすりという手応えと共にテーブルクロスは滑り落とし、私は飛来物の飛んできた方へと駆ける。


「わ、うわ……!」


 迫る私に飛来物を飛ばした下手人が目を白黒させる。

 私は彼の足を払うようにローキックを加えて膝を突かせ、その腕を後ろ手に捩じり上げた。


「何者です!」

「いだだだだ! 痛い! 待って、ギブギブ! 姫様、ちょっと、止めて……!」

「キャハハハハ! すごい、すごいわ、カノン! あなたって最高!」

「姫様、笑ってないで早く助けて!」


 私が捉えた下手人が情けない声を上げる。


 彼が捻り上げられた腕から取り落としたのはスリングで、飛ばしたのは……柔らかい子供用のボール?


 よくよく見れば下手人は近衛騎士の制服をまとっており、情けない顔で腹を抱えるソフィア様に助けを求めていた。

 私が彼の腕を捩じり上げたまま眉をひそめていれば、ようやく大笑いを落ち着かせたソフィア様が私に向かって「大丈夫、離してあげて」と声をかけてきた。


「ごめんなさいね、あなたの実力を実際に見てみたかったの。これほどまでとは思わなかったわ。一流の近衛騎士とも遜色ないわ。素敵」

「は、はあ……」


 ソフィア様の絶賛に私はいまいち実感がわかずに戸惑ってしまう。

 女の私は武術を誰かと比べる機会などそうなかったが、ひっそりと趣味程度のことしかしていなかった私と本職が遜色ないと言われるのは不思議な感じだ。


 彼女の称賛が本気かお世辞かの区別もつかず、困っていればソフィア様は私が離した下手人に笑って声をかけた。


「バーナード、あなた、クビが近いかもしれないわね」

「そんなあ! 待ってくださいよ、姫様! 俺、せっかく家族に宮仕えになれたって自慢してたのに、そんなことになったらいい笑いものじゃないですかあ!」

「ふふふ、ならそうならないように研鑽なさいな」


 ソフィア様の私の力量を見たかったの言葉と二人の親密なやりとりからして、この下手人はソフィア様の近衛騎士らしいことが伺えた。


「失礼いたしました。近衛の方とは知らずに」

「いやいや、いいんだ。不躾なことをしたのはこっちだからね。それに共にソフィア様の護衛につく人がこれほど腕の確かな人だってわかって安心したよ。さすがウェリントン次期侯爵の目に留まっただけあるね」


 私が深く頭を下げれば、彼は鷹揚に笑ってくれた。


「俺はバーナード・セントロード。察しの通り、姫様の近衛騎士だ。君とはこれから連携を取ることも多くなると思う。よろしくね」

「カノン・ヒューベルトです。よろしくお願いいたします、バーナード様」


 手を差し出すバーナード様に、私も手を差し出してその手を握る。

 厚く節くれ立つ大きな手のひらは彼の研鑽を物語っていた。


「さて、じゃあバーナードの紹介が終わったところで、二人ともついてきなさい。アタクシ、これから商人と会う約束があるの」

「商人ですか?」

「ええ、そうなの。アタクシの幼馴染で前々から面白いものを持ってくる男なんだけれど、カノン、あなたもきっと気にいるわ」


 ソフィア様がにっこりと笑う。

 無邪気そうな笑顔で不思議な言い回しをするソフィア様に首を傾いだが、この時の私には彼女の言葉の意味はまるでさっぱりわからなかった。

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