第8話
昼すぎの配達人ギルドはガラガラだった。
仕事柄、早朝や夜に人が集中するんだろう。
「すみません」
カウンターで少し暇そうにしてるお姉さんに声をかけると、
「あら、かわいいお客様ね」
最初、大人の頭くらいのところに目をやった受付嬢は、視線を下に落とし、俺を見つけて微笑んだ。
「紹介状です」
俺はニコルから受け取った書状をカウンターに置く。
その瞬間に半透明のウインドウが浮かんできて、その上に大きなスタンプが捺印された。
これで配達ポイントがもらえたんだと思うが、ここでタブレットを召喚して確認するわけにはいかないな。
受付嬢は紹介状の宛名を確認すると、
「少々お待ちください」
と言って、紹介状を支部長に見せに行った。
俺はそのあいだに、ギルド内部を眺め回す。
「配達人ギルド……か」
配達人ギルドという組織については説明が必要だろう。
異世界転生ものによくある冒険者ギルドは、この世界にも存在する。
冒険者ギルドが魔物の討伐を含むさまざまな依頼を請け負うのに対し、配達人ギルドは配達依頼専門だ。
「なんでも配達してくれるんですよね?」
そう訊いてくるリーシュカに、
「そうだね。個人間の手紙の配送から引っ越しの手配、商人の仕入れ品の輸送まで、幅広くやってるらしいね」
「お屋敷でもよくお世話になってましたぁ」
前世の郵便や宅配便と比べると正直割高ではあるんだが、この世界では貴重な輸送手段である。
前世で近いものを探すなら、江戸時代の飛脚だろうか。
飛脚と違うのは、重量があったりかさばったりする荷物であっても、荷馬車を手配して配達してくれるところだな。
一部の依頼では冒険者と競合するが、他の街への配達の際には冒険者を護衛に雇うこともある。
そのため、冒険者ギルドとは持ちつ持たれつの関係にあるらしい。
そこで、受付嬢が戻ってくる。
「支部長から許可が下りました。ノエル様を配達人として登録することができます。すぐに登録なさいますか?」
「ええ、お願いします」
配達人は、ギルドの従業員というわけではない。
ギルドにあらかじめ登録しておき、好きな依頼を選んで引き受けるというシステムだ。
けっこう不安定な立場だと思うんだが、俺にとっては都合がいい。
受付嬢からひと通りのガイダンスを受けて、俺の登録は完了した。
試験とかはなかったが、元々ないのか、それともニコルの紹介状が効いたのか。
なお、受付嬢はシエンタさんというらしい。
「壁に貼られている中から、引き受けたい依頼を選んでください。冒険者ギルドとは違って、複数の依頼をまとめて受けていただいても結構です」
「え? どうしてですかぁ?」
と首を傾げるリーシュカに、
「一度にまとめて運んだほうが時間の節約になるからだね」
「なるほどぉ。って、どうしてノエル様はそんなことをご存知なんです?」
「いや、まあ、常識で考えて、かな」
前世のネット通販でも、バラバラに注文した商品がひとつのパッケージにまとめられて送られてくることは多かった。
「ノエル様はしっかりしていらっしゃいますね」
と、シエンタが褒めてくれる。微笑ましいものを見るような目をしてるな。
「いや、家は追い出されたので、様はつけなくていいですよ。新米の配達人として扱ってください」
「……本当にしっかりしていらっしゃいます」




