第37話
本当は峰の上を走って四つ目の社に向かう予定だったのだが、思わぬ捕虜ができたせいで、一度ロスベリアに戻ることになった。
さすがにニコルやその手下を放置しておくわけにはいかないからな。
ハイルークの荷台に載せて連行したニコルたちを公爵に引き渡す。
公爵邸の食堂で事情を聞き終えた公爵は、
「まったく、呆れ果ててものも言えん。我が領内で無法を働いたのだ。この落とし前はきっちりつけさせる」
「彼も貴族なのが厄介ですが、ロスベリア公爵領内で暴行事件を起こしたとなれば、攻め方はいくらでもありますわ」
公爵とエリーゼがそう言ってくれる。
ニコルは仮にも貴族だからな。
平民ならば領主による裁判だが、貴族の犯罪は取り扱いに政治がからむ。
俺はそういう面倒なことに関わりたくないので、公爵たちの厚意に甘えておく。
ちなみに、リーシュカは買い出し中で、この場にはいない。
「ご迷惑をおかけしてすみませんが、よろしくお願いします」
「ノエル君が謝ることはない。それより、魔術師たちの集合状況だが――」
公爵が話し始めたところで、公爵邸がみしり、と揺れた。
続いてパラパラと天井の埃が落ちてくる。
「む? なんだ……?」
みしみしという嫌な揺れはなおも続く。
その揺れに、俺は心当たりがあった。
この国では滅多に起こらないらしいが、前世の日本ではしょっちゅうあったこと。
「――地震です。気をつけてください、これから大きな揺れが来るかも……」
「うおっ!」
「きゃあ!」
ドン、と突き上げるような揺れに、悲鳴を上げる公爵とエリーゼ。
激しい揺れはなおも続く。
シャンデリアが揺れ、棚の扉が開いて中のグラスが床に落ちる。
揺れは、数十秒は続いただろうか。
「お、終わりましたの?」
さすがに青い顔で、エリーゼが言った。
「ご、ご無事ですか!?」
と、公爵の家臣が食堂に飛び込んでくる。
「うむ、我々は問題ない。だが、近隣の状況が気になる。すぐに被害状況を報告させろ!」
「予震から本震まで時間差があったので、震源地はちょっと離れた場所だと思います」
俺がそう付け加えると、
「そうなのか? では、『伝声』も使って、各地の魔術師にも報告を求めろ!」
公爵の命令を受けて、家臣が慌てて飛び出していく。
「予震と本震の時間差で震源地との距離がわかるのですか?」
と訊いてくるエリーゼに、おぼつかない科学知識で説明をしているうちに、さっきの家臣が戻ってきた。
「ほ、報告します! 被害はロスベリア盆地の北側に集中しており、震源地は霊峰サンセレストの近くと思われます。北東のエルカナト伯爵領で地滑りが発生し、大きな被害が出ているようです」
俺たちはおもわず顔を見合わせた。
「まさか……」
とうめく公爵に、
「いえ、サンセレストを監視している魔術師の報告によると、悪しき竜復活の様子はまだないとのことでした」
「ふむ……偶然か、それとも予兆か。だが、まだ復活しておらぬのならば、まずは地滑りのことが気になるな」
「詳細な被害報告はまだですが、小さな集落が呑まれたとのこと。生き埋めになっている者がいるかもしれません」
と言って、家臣が食卓に公爵領の地図を広げる。
報告にあったエルカナト伯爵領は、公爵領の北東、盆地の縁のすぐそばにある山がちの領地だ。
俺たちが目指していた四つ目の社からもほど近い。
「公爵、僕が行きます」
「ノエル君が?」
「僕は『整地』の魔法が使えますし、クルマもあります。僕なら生き埋めになった人たちの救助が間に合うかもしれない」
「……わかった。よろしく頼む、ノエル君」
「それならば、支援物資を積んでいってもらえませんか? 領内での災害に備えて公爵家で備蓄しているものがあります」
とエリーゼが付け加える。
そこへ、
「ノエル様ぁ! ただいま戻りました!」
「リーシュカ。ちょうどよかった。すぐに出るよ」
「今の地震ですかぁ?」
「詳しくはクルマの中で説明するよ」
「私もご一緒しますわ。エルカナトは道がわかりづらいですので」
エリーゼの案内で公爵家の倉庫にクルマを回す。
備蓄品用の大きな倉庫には、袋や木箱や樽や壺が並んでいる。
見ただけだと何に何が入ってるかわからないな。
だが、よく見ると、そのうちの三割ぐらいに半透明のウインドウがポップアップしている。
配達クエストだ。
『配達クエスト エルカナトに救援物資を届けよう!』
つまり、配達クエストが設定されているものが、救援物資として必要なものだってことだな。
「助かるよ、女神様!」
俺は配達クエストの設定されたものだけを「収納」に放り込む。
かなりの量が必要らしく、ハイルークの荷台では収まらない。
逆に言えば、それだけ大きな被害が発生しているということだ。
「収納」を終えて、俺とリーシュカ、エリーゼがハイルークに乗り込んだ。
「リーシュカ、頼む」
「任されましたぁ!」
リーシュカがおもいきりアクセルを踏み込んだ。




