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少年貴族に転生して、メイドと一緒にクルマ旅。~超快適ギフト「置き配」で旅から旅へのまったりスローライフを満喫します~  作者: 天宮暁


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第33話

『お、おい、離さぬか! そこを掴まれると動けぬのじゃ!』


 ここを掴まれると猫は反射で力が抜けるんだよな。

 猫を飼ったことがないやつでも、母猫が子猫の首元を咥えて運んでる姿を動画なんかで見たことがあるかもしれない。


「ちょっと待ってよ、猫さん」


『な、なんじゃあ!?』


「汚染されたら戻らないのだとしたら、これはどうなるの?」


 俺は「収納」から浄化の指輪を取り出した。

 浄化の指輪を祭壇に捧げれば悪しき竜を封じられるという話だった。


「なっ、それは浄化の指輪か!? 百年前に失われたはずの幻想遺物がなぜここに!?」


「これを使えば悪しき竜の復活を防げる?」


『……無理じゃ。百年前ならば可能性はあったが、この百年のあいだ、中途半端な封印の中で、悪しき竜はその力を大きく増している。地中からは無尽蔵に魔力が溢れ出しているからの』


「それまではどうしていたの?」


『それまでは、その指輪が祭壇にあったのじゃ。百年前に盗賊によって盗み出されるまでは、の』


「……なるほど、人間の自業自得というわけですわね」


 と、複雑そうな顔でエリーゼがつぶやく。


「今から祭壇に指輪を戻しても遅いってこと?」


『いくらかは時を稼げるであろうが、無駄であろう』


 もし百年前にエルンストが指輪を持ち帰れていたら――いや、よそう。

 彼は精一杯がんばった。

 盗賊に盗み出された品物を取り返すのは簡単なことではなかったはずだ。


 その浄化の指輪が、今は俺の手の中にある。


「ノエル」


 俺の顔に何を見たのか、エリーゼが言った。


「事態があまりにも大きすぎます。ノエル一人で背負うことはありません」


「お姉様」


「ノエルが取るべき行動は、一刻も早くここから逃げることでしょう。さいわい、あなたには足の速いクルマがあります」


「ノエル様……」


 リーシュカが不安そうに俺を見る。


「あなたの目指すスローライフに、竜殺しは含まれていませんわ。これは領民の安寧を守るために、領主である我がロスベリア公爵家が対処すべきこと。貴族でなくなったあなたに対処の義務はありません」


「……そうだね」


 俺はうなずいてから、


「ありがとう、心配してくれて。でも、放っておけないよ」


「ノエル!」


「いくらスローライフが送りたいと言ったって、他の人が困ってるのを見て見ぬふりはしたくない。せめて僕の手の届く範囲だけでも、みんながゆっくり暮らせるようにしたいんだ」


 俺が「置き配」で便利で快適な現代の商品を利用できるのは誰のおかげか?


 ひとつには、ギフトをくれた女神様のおかげだな。


 でも、もし現代の地球の人たちが商品を開発・製造・流通してくれていなかったら?


 そう考えると、俺のスローライフはいろんな人たちの働きによって支えられている。


 世の中がうまく回ってくれていてこそのスローライフなのだ。


 スローライフだからって、なんでも自給自足できると思ったら大間違いだ。


 便利で快適な商品を生み出してくれる人たちに感謝しつつ、俺も俺なりに世の中に貢献しなくては、借りっぱなしのスローライフになってしまう。


 まったく。

 せっかくスローライフが始められると思ったのに、こんな重たい危機を持ち込まれてはたまらない。

 こんなのはさっさと解決してしまうに限るよな。


 俺はやるべきことを頭の中で整理する。


「女神様は言っていた。盆地の峰々の社を巡って、女神様の霊具を安置してほしいと。僕が浄化の指輪を持ってるのは公爵が託してくれたからで、女神様に言われたからじゃない。つまり、女神様は通常の封印なら社を使った結界だけで十分だと考えてたってことになる」


『ふむ……なるほど。その通りであろうな』


 とオボロがうなずく。オボロだけは俺と女神様の会話を聞いてたからな。


「だから、封印にはふたつの方法があるんだ。いや、三つかな。ひとつは、浄化の指輪を祭壇に捧げる方法。ふたつ目は、社に霊具を安置して結界を張る方法。もうひとつは、百年前、魔術師たちが集まってなんとか悪しき竜を封じ込めたという力技の方法。ああ、あと、猫さんが決死の覚悟で戦うっていうのも、封印はできないまでもいくらかの効果はあるんだったね」


「えっ、けっこういろんな方法があるんですね」


 と驚くリーシュカ。


「だよね。猫さんの話だと、今の悪しき竜は百年前より強くなってるんだったね。でも、この三つ四つすべてを同時に掛け合わせたら、さすがにどうにかできるんじゃないかな?」


「「『『…………』』」」


 俺の言葉に、俺以外のみんなが口をぽかんとあけて絶句した。

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