第30話
というわけで、翌朝から俺は、女神様の依頼で動くことになった。
ロスベリア盆地を取り巻く峰々の要所にあるという社は全部で五つ。
盆地に内接する五芒星を描くと、その頂点の位置に社があり、その中の北の頂点は霊峰サンセレストの頂上だ。
出発前に、公爵にも事情を説明した。
神様からのお告げがあったといきなり聞かされても信じてもらえないか。
そう思ってたんだが、公爵は俺が嘘をつくはずがないと言って信じてくれた。
オボロが口添えしてくれたのも大きいだろう。
考えてみれば、ロスベリア公爵家には百年前に巫女姫がいたわけだしな。
「そういう事情なら、これは君が持っていてくれ」
と言って公爵は、俺に浄化の指輪を渡してくれた。
たしかに、万一悪しき竜の封印が解けるようなことがあった場合には、この指輪は役に立つ。
百年前の伝承では、霊峰サンセレストの頂上にある祭壇に指輪を供えるべしとあるらしい。
この浄化の指輪には配達クエストも発生した。
『配達クエスト 浄化の指輪を霊峰サンセレストの祭壇に配達しよう!』
報酬の配達ポイントは破格の1000万ポイントだ。
あんな話を聞かされると焦ってしまうが、女神様からは急ぐ必要はないと言われている。
封印が解けそうと言っても、それは年単位の話だ。
他の仕事も引き受けながら、無理なく同時並行で進めてくれればそれでいいらしい。
とはいえ、放ったらかしにしておくのも怖いよな。
「最初にサンセレストの状態を見たいんだよね」
「賛成ですわ。そのほうが安心して動けますものね」
とエリーゼが賛成してくれる。
「その上で、サンセレストから峰々の稜線を伝って、盆地の周りをぐるっと回りながら社巡りをしていこうかなと」
「『整地』しながらですの?」
「まずいかな?」
「いえ、道を整備していただけるのは私たちとしてはありがたいですわ。むしろ報酬を払わなくていいのかしら」
「本気で報酬を設定しようとしたら、すごい額になっちゃうよ? 僕としてはクルマで気持ちよく走れるスカイラインがあったら楽しそうだってだけなんだけど」
前世でも、霧ヶ峰のような、高原を走る気持ちのいいドライブウェイは人気の観光スポットだった。
この世界に自動車はないが、峰の上に馬車の停留所を作って、盆地の外縁を一周するツアーなんかを企画したら、貴族や富裕な商人にはウケるんじゃないか。
五つあるお社は寂れてしまってるらしいが、一周ツアーをやるなら高速道路のパーキングエリアのようにして、お参りと買い物ができるようにしたらおもしろい。
というようなことを語ってみると、
「スカイライン……峰の稜線を繋ぐ天空道路ですか。ノエルの発想はやっぱりすごいですわ。いったいどこからそんな発想が出てくるのです?」
リーシュカはともかく、エリーゼはさすがに俺の知識や発想を怪しみだしてるみたいだな。
霊峰サンセレストの麓まで、クルマで「整地」しながら進むこと半日弱。
サンセレストの麓には、季節を問わず桜に似たセレスローズの花が咲いている。
一年中咲く桜の花――前世では考えられない植物だ。
たぶん女神様の言ってた汚染された魔力の影響なんだろうな。
『この花は汚染された魔力を地中から吸い上げ、浄化しているようだな。その過程で花が咲く』
とオボロ。
街の外ではあるが、今は狛犬形態でクルマの中だ。
斜面を登ってる時の荷台は乗り心地が悪いということで、珍しく車内で大人しくしている。
「近づいても危なくないってこと?」
『浄化された魔力によって体調が良くなるくらいだろう』
と、俺とオボロが色気のない話をしているのに対し、
「ふわぁ……きれいですねぇ」
「上から見下ろすともっとすごいですわよ」
リーシュカとエリーゼはセレスローズの美しさに目を細めている。
麓から中腹の社にかけては、そこそこ幅の広いつづら折りの登山道ができている。
ハイルークの車幅はギリギリだ。
「整地」も慎重に行う必要があり、進むペースは遅くなる。
「悪しき竜が封印されているのは山頂なんだっけ。さすがにクルマでは行けそうにないね」
山をぐるぐる回りながら上っていけばいけるかもしれないが、さすがに時間がかかりすぎる。
昔は聖地だったという山に「整地」で渦巻き模様をつけるのもどうかと思うしな。
「となると、山登りが必要かな」
トレッキングもまあ、悪くはない。
サンセレストはなだらかな山で、子どもの足でも登ることができるらしい。
登山用具は「置き配」で地球のものが購入できる。
「でも、もう暗くなってきちゃいましたね。山登りは明日にしたほうがよさそうですよ」
と、ハンドルを握るリーシュカが言う。
クルマのライトを点けるかどうか微妙な時間だ。
「中腹に巡礼者用の宿営地がありますわ」
「じゃあ今日はキャンプだね」
やったー!とリーシュカが喜んで、クルマのアクセルを踏み込んだ。




