第28話
農村への配達の仕事を終え、ロスベリアの宿に戻ってきた。
普通の配達人なら二泊、三泊の仕事を日帰りで終え、ギルドの受付嬢に驚かれた。
旅先でのキャンプもいいが、宿でくつろぐひとときも捨てがたい。
「浄化の指輪の500万、何に使うかな……」
宿ではリーシュカとは別の部屋だ。
リーシュカは同じ部屋でいいと言うんだが、そうするとリーシュカは一日中俺の世話を焼くばかりになってしまう。
ロスベリアにいるあいだにリーシュカに休暇を与えようかと提案しても、べつにいらないですの一言だった。
っていうか、よくよく考えてみると、リーシュカに対してメイドとしての給料をどう支払うかも曖昧なままなんだよな……。
リーシュカは水くさいと言うかもしれないけど、前世で社会人だった身としては、報酬はちゃんと取り決めておかないと落ち着かない。
「旅先でのキャンプは楽しいけど、毎回のことだとさすがに疲れてくるかもしれないよね」
そういえばリーシュカは、ちゃんとしたキッチンで料理をしたいと言っていた。
配達ポイントをリーシュカに分け与えることはできないが、リーシュカのためになるものを購入してあげることはできる。
「コンテナハウスとか買えないかな?」
コンテナハウスくらいの大きさなら、俺の「収納」でなんとかしまえる。
俺は宿のベッドに横になったまま、BANBTSUでコンテナハウスを探してみるが、
「ちょっと予算が足りないか……」
安いものなら買えなくもないが、自分が住む空間は妥協したくないよな。
そんなことを考えるうちに、俺はいつのまにか眠気に襲われていた。
気づけば、俺は真っ白な空間にいた。
この世界を知った今では、この空間に聖気が満ちていることがわかる。
目の前には青い髪の優しげな美女――女神様がいる。
「ノエル。ひさしぶり……というほどでもありませんね」
「いろいろあったからひさしぶりな気もするけど、祝福の儀からまだそんなに経ってませんね」
俺がそんな挨拶を女神様と交わしていると、
『こ、ここは……神の至聖所ではないか! そこにおわすは愛と絆の神エルフィアナ様!?』
後ろからした聞き覚えのある声に振り返ると、そこには本来の姿のオボロがいた。
「オボロ? どうしてここに?」
『どうしてはこちらのせりふだ! どうしておまえがこんな場所におる?』
「さあ、僕にも心当たりがないんだけど。女神様、今日はいったいどのような用件で?」
「本当はノエルだけを呼ぶつもりだったのですが、近くにあなたと縁のある守護者がいたので、一緒に来てもらいました。何分、夢の中での接触ですので、目が覚めると記憶が薄らいでしまうことがあるのです」
「そういえば、タブレットを見てるうちに寝落ちしたような……」
『おい、ノエル! おまえはエルフィアナ様と知り合いだったのか!? まさか、エルフィアナ様の使徒だったのか!?』
「使徒といえば使徒ですが、お友だちのような関係ですね」
『と、友だち……』
女神様の答えに絶句するオボロ。
「ノエル、第二の人生は楽しめていますか? ごめんなさいね、よい環境に生まれるよう取り計らったはずだったのですが、あのようなことになってしまいました」
「いえ、十分いい環境だったと思いますよ。もし僕が生まれる代わりに別の子が僕の環境に生まれていたら、ちょっと大変だったろうとは思うけど」
「あなたが『よい環境』と思うはずの環境を自動で検索して転生先に選ぶ形だったのです」
「ああ……たしかに、親とは少し距離があるくらいのほうが転生者だとバレにくいとは思ってましたね。でも、家族以外の人間関係には恵まれてますし、よい環境だったと思います」
「それならよかったです。前世で人間関係に恵まれなかったあなたには、よい家族にも恵まれてほしかったのですが」
「もういい歳ですからね。そのお気持ちは有り難くいただいておきます」
『なっ……ノエル、おまえまさか……』
俺と女神様の会話に、オボロが何かに気づいた顔をする。
「うん、僕はこれが二度目の人生なんだ。でも、このことはまだリーシュカたちには秘密にしてもらえないかな? いつか頃合いを見て話すから」
『それはよいが……』
「それより女神様。こうして呼び出したってことは、何かあったということですか?」
俺が訊くと、
「察しが良くて助かります、ノエル。まずは、エルンストの件ではありがとう」
「エルンスト?」
「あなたが街道で遭遇したデュラハンの生前の名前です」
「ああ……」
「天変地異への対応は神も力を貸すのですが、あの時は不運が重なってしまいました。エルンストがああなってしまったのは神々としても無念でした」
「俺としても浄化の指輪をあるべきところに届けられてよかったです」
「実は、それとも関連する話なのです」
女神様は言葉を切って、オボロに目を向けた。
「オボロは身をもって知っていると思いますが、この星では時折、地殻の奥から汚染された魔力が噴き出します。その魔力にあてられると……」
『うむ。守護者の端くれである我であっても、理性を失い、破壊衝動に取り憑かれる。我がデュラハンめに使役されておったのは、ちょうど我が汚染され、自我を失っていたからだ』
「そもそも、エルンストがデュラハンと化したのも、彼の無念と汚染された魔力が結びついたからです。人間が無念を抱えて死んだだけでは、ふつうはあそこまで強力な怨霊にはなりません」
「それはそうか」
エルンストが無念だったのはわかる。
でも、無念を抱えて死ぬ人間なんてたくさんいるともいえる。
そのすべてが怨霊になっていたら、この世界は怨霊だらけになってしまう。
「って、オボロはデュラハンに取り込まれる前から汚染されていたんだよな? 今は大丈夫なのか?」
『ああ。どうやらあのデュラハンが天に昇る際に我の汚染をも引き受けていってくれたらしい。あのデュラハンに取り込まれていなければ、我は今こうしていられなかったであろうな。なんとも皮肉なことよ』
「あのデュラハンが成仏する時にオボロの汚染も一緒に持ってってくれたってことか」
そりゃ、オボロが複雑な顔をするわけだよな。
タイトル模索中で、わかりにくくですみませんm(_ _)m
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