第24話
ジュナから峠道を「整地」しながら進むこと一日。
夜、山の峰の上に出た俺たちは、峰にあった小屋を使わせてもらって一泊した。
その翌朝。
「うわぁ……きれいです!」
「これはすごいね」
俺はリーシュカと一緒に、峰の上から日の出を拝む。
朝日に映える遠い山並みと、豊かな穀倉地帯、そして領都ロスベリア。
峰の上からは、ロスベリア公爵領の全貌が見下ろせる。
公爵領は山に囲まれた盆地だ。
前世の日本で言うなら甲府や岐阜だろうか。
向かって奥に見えるのは霊峰サンセレスト。
左右対称で富士山に似ていなくもないが、富士山よりはなだらかで低い。
「見てください、あの山のふもとがピンク色です!」
「ああ、サンセレスト名物のセレスローズだね」
サンセレストはセレスローズと呼ばれる山桜の一種が群生していることでも知られ、かつては聖地でもあったと聞いている。
朝日の中、遮るもののない大パノラマ。
まちがいなく絶景だ。
「せっかくだから、朝日を眺めながら朝ご飯にしようか」
「はいっ!」
初日はレトルト中心で済ませたし、二日目は旅館だった。
配達クエストの達成で配達ポイントも貯まったから、ちょっと手をかけてもいいだろう。
まあ、あくまで俺基準の「手をかける」だから、だいぶ手抜きなんだけどな。
「サラダをお願いしてもいいかな? 僕はおかずとスープを作るから」
「もちろんです! やっとお仕事ができるんですね!」
……たしかに、メイドとしてついてきたリーシュカに、これまでメイドらしい仕事をしてもらってなかったな。
いや、ハイルークの運転役としては大活躍だったんだけど。
俺は「収納」から冷蔵庫を取り出す。
この冷蔵庫はジュナにいるうちに「置き配」しておいたものだ。
ジュナで新鮮な野菜を買って放り込み、冷蔵庫ごと「しまって」おいた。
リーシュカが作業するためのテーブルと、食事のためのテーブルも出しておく。
リーシュカは冷蔵庫の扉を開けて野菜を取り出し、鼻歌まじりでサラダ作りに取り掛かる。
そのあいだに俺は、これまた「置き配」で買っておいた電気ケトルにミネラルウォーターを注いでスイッチを入れる。
次に冷蔵庫の上のレンジで二人分のパックご飯をチン。
お椀にフリーズドライの味噌汁の素をあけ、沸いたお湯で溶いて味噌汁を作る。
最後にこれまた二人分の焼き鮭をチン。
海苔も添えてテーブルへ。
そのあいだにリーシュカは美味しそうなサラダを作ってくれている。
「うん、できたね!」
これで朝の和定食の完成だ。
……えっ、手抜きじゃないかって?
いや、本当の手抜きっていうのはこんなもんじゃない。
俺が前世でいちばんヤバかった時には、カップラーメンだけとか、プロテインバーとエナドリだけとか日常茶飯事だったからな。
本当はご飯くらいちゃんと炊きたいんだが、今回は早朝だからということで見逃してもらおう。
「「いたただきます!」」
「うん、おいしい」
「おいひいれふ!」
山の上でご来光を迎えながらの朝飯……控えめに言って最高だ!
『ふわむ……おぬしら、ずいぶんと早いな』
と言って起き出してきたのはオボロだ。
「オボロは朝が弱いのか?」
『我にかかれば朝ごとき、なんの恐れることがあろう! と言いたいのやまやまなのだがな。どちらかといえば夜型であろうな』
「遅くまで漫画読んでるからだよ」
『しかたがなかろう。こんなにおもしろいものがこの世にあろうとは思わなんだ。おかげで昨夜は明け方になってからようやく微睡んだ程度だ』
夜のキャンプはやることがなくて時間を持て余し気味だったので、「置き配」でお気に入りの少年漫画を一シリーズポチったんだよな。
秒でオボロに奪われてしまったが。
『それより腹が減った。フライドポテトはないのか?』
「あればっか食ってると身体に悪いぞ?」
『我は食物から栄養を取っているわけではない。そこに込められた作り手の精神力を取り込んでおるのだ』
「ファストフードにそんなに精神力がこもってるものかな?」
『そんなことはないぞ。芋を作り、運び、切り、揚げ、塩を振る。このさりげない料理の中に、数え切れないほど多くの人間の手が入っておる。いわば、この料理は長き旅をしてきたのだ』
「なるほど。そういう見方もあるね」
この店のフライドポテトのじゃがいもはアメリカ産だったか。
それが日本に運ばれてきてセントラルキッチンで調理され、各店舗で揚げられる。
たしかに、この世界では考えられないことだ。
俺は「置き配」でフライドポテトを注文し、オボロ用に買った特大の木皿に盛り付けた。




