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少年貴族に転生して、メイドと一緒にクルマ旅。~超快適ギフト「置き配」で旅から旅へのまったりスローライフを満喫します~  作者: 天宮暁


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第21話

 温泉を出た俺たちは、脱衣所のそばの休憩スペースで合流する。


 俺とリーシュカは浴衣姿だ。


 といっても、宿の備え付けではない。

 この世界には浴衣がないからな。

 温泉に入る前に「置き配」で注文してリーシュカに渡しておいたのだ。


「どう、ですかぁ?」


 少し落ち着かなそうにリーシュカが訊いてくる。


「似合ってるよ、リーシュカ」


「えへへ。よかったです」


『このあたりでは見かけぬ衣服だな。我にはないのか?』


「犬用の浴衣じゃ嫌だろ?」


 調べてみて驚いたんだが、世の中には犬用の浴衣もちゃんとある。


「今度アクセサリーでも探してみるよ」


『べ、別に着飾りたいとは言っておらん』


 俺はタブレットを取り出すと、大手カフェチェーンのアイスカフェラテを注文する。

 温泉といえばコーヒー牛乳だよな。

 ぽすん、と現れたクルルからテイクアウトの紙袋を受け取った。

 クルルを撫でたそうにしてるリーシュカを見て、クルルは慌てて消えていく。


「はい、リーシュカ」


 俺はアイスラテを取り出してリーシュカに渡す。


「これは……コーヒーですか? でも、冷やされてるんですね」


 デュラハンに遭遇する前にファストフードのホットコーヒーを飲んだからな。


「コーヒーを牛乳で割ったものだよ」


 好きな人には、コーヒーではなくエスプレッソだ、と言われるだろうか。


「オボロの分もあるよ」


 注文の時に一緒に頼んでおいたストローを挿して、オボロの前にアイスラテを置く。

 袋に入ってた紙製の転倒防止用ドリンクホルダーと一緒に置いたので、倒れにくくはなってると思う。


 温泉上がりのコーヒー牛乳は腰に手を当ててぐいっと、が作法だろうか?

 でも、カフェのお高めラテを一気飲みするのはもったいないよな。


「冷たくておいしいです」


『温泉で熱くなった身体が冷やされて気持ちがよいな』


「それはよかった」


 しばし二人と一匹でアイスラテをゆっくり楽しむ。


 温泉でかいた汗が風に冷やされ引いていく。

 休憩スペースは中庭に面していて、爽やかな風が火照った身体に気持ちいい。


 こういうのもすごく贅沢な時間だな。


「あら、お客様。そのお召し物、素敵ですわね」


 中庭を通りがかった女将さんが声をかけてきた。

 俺とリーシュカの浴衣を食い入るように見つめている。


「見たことのないデザインですが、とても涼しそうで、湯上がりにぴったりのように見受けられます。どちらで手に入れられたものなのですか?」


 おっと、そう聞かれると答えづらいな。


「遠い異国の衣服で、浴衣といいます。女将さんの言うように、湯上がりに着るための服ですね」


「ユカタ……神秘的な響きですね」


「よかったら一着差し上げましょうか? あとで荷物から出しておきますよ」


「よ、よろしいのですか!? もちろん、対価のほうはお支払いいたしますので……」


「いや、タダで泊めてもらってる身ですからね。これくらいのお礼はさせてください」


「大変恐縮ですが、それは助かります。見ての通り、最近は閑古鳥が鳴いておりまして」


 そう言って、ため息を漏らす女将さん。


「こんなに立派な湯宿なのに。峠の崖崩れがなかったとしても、ですか?」


「温泉には自信がありますが、温泉だけでは、やはり若い人にとっては退屈でしょう? 大きな街のように娯楽がたくさんあるわけではありませんから」


「なるほど……ちょっと失礼しますね」


 俺は女将さんから離れて、自室に戻る。


 タブレットをささっと操作して……と。


 俺は追加注文した浴衣とあるものを脇に挟み、もうひとつ注文したものを押して、リーシュカと女将さんのいる休憩スペースに戻る。


「まずはこちらを」


 と言って浴衣を渡す。


「まあ、ありがとうございます! これを参考にしてユカタを作らせていただいてもいいのでしょうか?」


「僕が発明したわけじゃないですからね」


「その……そちらの卓のようなものは一体?」


 女将さんが、俺の押してきたものに目を向ける。


 俺はここまで押してきたそれを開く。

 青地に白いラインの引かれた折りたたみ式のテーブルで、中央には端から端までネットがかかってる。


「これは卓球台です」


「タッキュウ……とは?」


「簡単なので、やってみましょう」


 俺は、一緒に注文しておいた卓球のラケットをリーシュカに渡す。

 ピンポンとラケットを持った俺は、リーシュカの反対側に立つ。


「サーブはこうやって二回バウンドさせてね。それ以降は一回でいいから。行くよ、リーシュカ」


「わっ、えいっ! ああっ!?」


 リーシュカの打ち返した球は、俺側のコートには当たらずすっ飛んでいった。


「こんな感じで打ち合ってポイントを競うゲームなんだ」


 何回かサーブをしてみると、リーシュカの球が返ってくるようになった。


 そこから俺とリーシュカの試合が始まった。


 さすがに初回ということもあって、11―3で俺の勝ちだ。


『ほう! 面白い遊戯だな。我にもやらせろ』


「えっ、どうやって?」


『ふっ、この板で球を打ち返せばよいのであろう?』


 オボロはラケットを口で挟み、前脚を卓に載せて球を待ち構える。

 俺が打ったサーブをオボロが器用にも打ち返してくる。

 動体視力がいいのかもしれないな。


「うわっ、いい勝負ですね!」


『我にかかれば当然だ。仮にも神の末席に身を置く我が人間ごときに負けるわけがあるまい』


「じゃあこれはどうだ!」


 俺はピンポン玉の下側を切るようにサーブする。

 下回転がかかった球が、オボロ側のコートに入ってから、ネット側に戻るようにバウンドする。


『ぬおっ!? おのれ、面妖な手管を使いよって……!』


「ふっふっふ。オボロの弱点はわかったよ」


『なんだと!?』


「オボロは卓に前脚をかけてるから、それ以上身を乗り出せない。手前に戻る下回転サーブが返せないってことだよね?」


『ぐっ、ぬうう! ずるいぞ、これでは人間に有利なルールではないか!』


「あれれ? おかしいね、人間ごときに負けないんじゃなかったの?」


『おのれ、こうなっては許さぬ! 我が真の姿を解放して――』


「わわ、ストップストップ! こんなところで大きくなるな!」


 唸り声を上げて元の姿に戻ろうとするオボロを慌てて止める。


「うふふ、仲良しさんですねえ」


「なるほど、これは名物になりますね! タッキュウで一汗かいた後に温泉、というのは若い人にもウケると思います!」


 リーシュカと女将さんがそれぞれつぶやいてるのを尻目に、俺とオボロは卓球勝負に熱中するのだった。

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