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少年貴族に転生して、メイドと一緒にクルマ旅。~超快適ギフト「置き配」で旅から旅へのまったりスローライフを満喫します~  作者: 天宮暁


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第1話

 前世での俺は三十代半ば。

 激務のシステムエンジニアから独立してフリーランスのウェブデザイナーになった。

 前職の経験を活かして、小規模事業者のオンラインショップ制作などを請け負った。


 独立して少しは余裕が持てるかと期待したが、収入が厳しく、自宅兼オフィスにはエナドリの空き缶ばかりが増えていく。

 学生時代の趣味だった旅行にももう何年も行けていない……。


 唯一の楽しみはネット通販で届くいろいろな商品だった。


 とくに食べ物だよな。

 都会にいると口にする機会のない地方のおいしい料理や食材がクリック数回で取り寄せられる。


 自分がオンラインショップの制作を通してその流通の一端を担っているという自負もあって、そんなちょっとした贅沢が忙しい日常のささやかな癒やしになっていた。


 だが、そうして仕事に追われる夜中、俺は突然胸が苦しくなって倒れてしまった。


 助けを求められる相手もおらず、救急車を呼ぶこともできなかった。


 俺はエナドリの空き缶の山に頭から突っ込んで意識を失った――はずだった。


 ところが。


「あれ?」


 気づくと俺は真っ白な空間の中にいた。

 白一色の部屋、とかそんなもんじゃない。

 壁も天井も、床すらも見当たらず、ただひたすら白が続いている摩訶不思議な空間だ。


 そんな空間に、優しそうな美女が立っている。


 二十代くらいに見える綺麗すぎる女性だ。

 つややかなロングヘアは、深みのある青色。

 澄んだ蒼の瞳は青空をその中に宿しているかのようだ。

 白を基調とした服は金で縁取られた神々しいものだが、神々しさでは服より彼女自身のほうが勝ってる。


 女神様、という言葉が自然に浮かんだ。


 その女神様?が優しく俺に微笑みかける。


「おひさしぶりですね、敬」


「なんで俺の名前を……」


 こんな美人の知り合いがいたら忘れないぞ。


「以前お仕事を依頼しました。『異世界の神様向け・なんでも買える地球のネット通販用アプリ作成』という依頼です」


「ああ、あの!」


 ネット経由で持ち込まれたその依頼のことは覚えてる。

 っていうか、あの内容で忘れるほうが難しい。


 ネットに馴染みのない異世界の神様にも扱いやすい、地球のネット通販をワンストップでまとめて注文できるようなアプリを開発してほしい――


 なかなかとんでもない依頼だよな。


 もちろん、なにかの冗談かいたずらだと思ったんだが、どういうわけか気を惹かれて、ふらふらとその依頼を受けてしまった。


 向こうの担当者がネットにかなり不慣れで、仕様を決めるだけでも大変だったんだよな。


 でも、メール越しにもあまり嫌な感じを受けない不思議な相手だった。


 そのせいもあって、俺も悪ノリして最初の仕様にはない機能まで実装したり。

 クライアントの顧客が異世界の神様なんて存在だったとして、どんな機能が嬉しいだろうかと考えて、俺なりに真剣に仕上げたっけ。


 報酬も相場よりかなり多めに払ってくれて、おかげでその時は経営的に一息つけて助かった。


 もっとも、終わってからあの仕事はなんだったのか、俺の幻覚だったんじゃないかと自分を疑ってしまったんだが、銀行口座の残高が嘘を付くはずがないからな。


 ものすごく手の込んだいたずらだったのか、あるいは本当に異世界からの依頼だったのか……。


「それじゃあ、あなたは本当に神様……なんですか?」


「ええ。なんでも通販アプリのときはお世話になりました。それなのにこうしたお知らせで残念なのですが……あなたは心臓発作で亡くなりました」


「たしかに、胸に痛みが走って倒れたのは覚えてます」


 俺は自分の胸をぺたぺたと触って確かめる。

 人生でいちばん苦しかったあの痛みがなくなっている。


 というか、身体が透けている。


「あなたの心臓発作の原因は、心臓にできた魔力の結晶です。私の仕事を受けてくれたときのプログラミングによって、魔力に不慣れなあなたの心臓に結晶ができてしまったのです」


「ち、ちょっと待ってください。魔力とか結晶とか、わけがわからないですよ」


「元はといえば、私のせいなのです。私はアプリの開発にあたって、地球側で協力してくれる人を探しました。私と魔力の波長が合う人にしか、あの依頼メールは届きません」


「そういう仕組みだったんですか。でも、俺は魔法使いでもなんでもないんですが」


「物質文明の栄えた地球に本当の意味で魔法使いと呼べるものはほとんどいません。ですが、人々の営為の中に魔力が宿ることはあります。芸術家の作品やアスリートのパフォーマンス、職人の手仕事など。あなたの仕事にも、あなたが気づかないままに強力な魔力が籠もっていたのです」


「そうなんですか」


 とは言ったものの、急にそんなことを言われてもな。


「そんなあなたに私がこっそり力を貸して、あのアプリを作ってもらいました。あのアプリは表面的にはプログラミング言語で構築されたものですが、『プログラムされた魔力の(システム)』でもあるのです。その魔力の系を私の世界に持ち帰り、世界を構築するシステムの中にインストールしました」


「じゃあ、あのアプリは異世界で本当に神様に使ってもらってるわけですか……」


 なんとまあ、すごい話もあったものだ。


「しかし、私があなたに貸した力のせいで、あなたに予期せぬ結果をもたらすことになってしまいました」


「俺の心臓にできたっていう魔力の結晶、ですか?」


「ええ。あなたの世界の住人が魔力に不慣れなことを甘く見ていたのです。それでも、あなたが健康であれば、魔力の結晶は大きくならず、血液に溶けて消えるはずでした。しかし……」


「ああ、俺の不摂生のせいでもあるのか」


 エナドリばっか飲んで命を前借りする勢いで働いてたからな……。


「そのお詫びになるかはわかりませんが、もしよろしければ私の世界にあなたを転生させることができます」


「うわお」


 まさかとは思ったが、本当に異世界転生だったのか。

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