第12話
お風呂を入れる――そう宣言した俺に対し、
「ええっ、無理ですよぉ、こんなところで!」
リーシュカが驚いて否定する。
「まあ、見ててよ」
俺もちょっと難しいかと思ってたんだが、やりようはある。
まず、バスタブを買う。
今はポイントがないので立派なものは買えないが、調べてみると折り畳めるポータブルのバスタブがあった。
バスタブに水を注ぐのは魔法でいい。
俺は水魔法が使えないが、リーシュカは水魔法を得意としてる。
その水をどう沸かすか?
異世界転生ものでありがちなのは、水魔法と火魔法をブレンドしてお湯を出すってやつだが、これは案外難しい。
火力の調整ができず、ほどよい湯加減にできないのだ。
そもそも相反する属性である水魔法と火魔法を両方使えるやつは滅多にいないしな。
貴族や富裕な商人の家で風呂を沸かすのに使われているのは、魔法ではなく薪である。
だが、これも調べてみると、投げ込みヒーターというものがあった。
電源はBANBTSUの保証のおかげで必要ない。
このヒーターを湯船に投げ込んで二十分も待てば適温だ。
たぶんポイントさえかければ大きなバスタブと全自動湯沸かし器を揃えることもできるんだろうが、今はまだポイントを節約しておきたい。
思ったより安かったので、ポータブルシャワーも買ってみた。
湯船の湯を汲み上げてシャワーにするだけだからちょっと不衛生かもしれないが、今はこれで我慢しておこう。
あとは、シャンプー、コンディショナー、ボディソープを用意してっと。
「わわ、ほんとにお風呂ができちゃいました」
湯気を昇らせる湯船を見て、リーシュカが目を丸くした。
「屋根がなくて悪いけど、これで汗は流せるね」
俺を見込んでついてきてくれたのに、ろくに風呂にも入れないんじゃかわいそうだからな。
やり遂げた顔で言う俺に、
「じゃあ、一緒に入りましょうか」
リーシュカが爆弾発言をぶち込んでくる。
「…………え?」
「沸かすのも大変ですから、一緒に入ったほうが早いですよ。ひさしぶりにお身体を洗ってさしあげます」
「い、いいって……」
「遠慮なさらずに」
ちなみに、ひさしぶりに、っていうのは本当にひさしぶりで、たぶん五年ぶりくらいだ。
五年前はリーシュカもまだ幼かったから俺もあまり気にしないようにできた。
でも、今は……
俺はリーシュカの豊かな胸元をそっと見た。
背は低めだが、どういうわけかそれ以外の発育はすこぶるいい。
今のリーシュカと密着して湯船に浸かるのはさすがにマズい。
「や、やめておこう。ほら、このシャワーは浴槽の湯を使ってるから、二人で使い回すと不衛生だし。お湯は一人入ったら捨てて、もう一回入れ直したほうがいい」
「むう……残念です」
ぷくっとふくれてリーシュカが言う。
うん、俺も残念だが、紳士として一線は守らないとな。
これでも前世で三十年+α生きてるわけだし。
いくら見た目にはかわいらしい光景であっても、な。
その後も、リーシュカと俺でどちらが先に入るかを譲り合ってもめた末、じゃんけんで負けた俺が先に入ることになった。
風呂上がりに牛乳を飲み、風呂から流れてくるリーシュカの鼻歌を聴きながら、タブレットでほしかったものを物色する。
「ふう……いいお風呂でした、ノエル様。あれ、今度は何をされているんですか?」
「ああ、映画を見ようと思って」
リーシュカが風呂に入っているあいだにセッティングは終わった。
七〇インチのスクリーンを設置し、木のテーブルの上にプロジェクター。
電子レンジは「収納」にしまった。
スクリーンの前に、キャンプ用の二人用ソファチェアを置いている。
「リーシュカも座ってよ。一緒に見よう」
言って、タブレットから映画を再生する。
このタブレットもBANBTSU同様の保証があるようで、基地局なんてないこの世界でも通信環境に問題はない。
タブレットと無線接続されたプロジェクターが、スクリーンに映画を映し出す。
選んだのは、以前女神様に感想を漏らしたことがある、お気に入りのロードムービーだ。
「ふわわ、遠くの景色が見えてるんですかぁ?」
「いや、これは芝居……のようなものを撮影したものなんだ。映画っていう」
この世界にも、魔法で短時間の映像を記録する水晶があるらしいが、ものすごく貴重な上に、記録できる時間もごく短いと聞いている。
映画は、パノラマの荒野の中を、一台のクルマがまっすぐ走っていくシーンだ。
何かが起こるシーンではないのに、ずっと見ていたくなる魅力がある。
「すごい……壮大な光景です。ノエル様の旅もきっとこうなっていくんでしょうね」
「だといいよね」




