第7話
真里は、詳しいことは言おうとしなかった。
ただ電話口の向こう側で黙っていた。
私はその沈黙の中で、これ以上問いただす隙間を見失った。
真里が唯一私に告げたのは、美咲が亡くなった日のことについてだった。それは私が下北沢の街で偶然美咲と出会った三日後だった。そして私は、なぜ美咲が私のメッセージに返事をくれなかったかを知った。美咲は私ともう一度会うという約束を忘れていたのではなく、美咲にとってその約束はもはや意味をなさないものになってしまっていたのだ。その約束を忘れてしまっていたのは、美咲ではなく私の方だったのだ。
「美咲ね、最後にあのカフェに行ってたみたいよ」
真里は囁くように言った。
「由貴のこと、ずっと気にしていたって」
私はその言葉に動揺する。
そして「あの日」のことを思い出す。
あの小さなカフェで私と向かい合った彼女は、「実は……」と言って口を噤んだ。
彼女があの日、私に伝えたかったことはなんだったのだろうか。
電話を強く握りしめながら、そんなことを一人考えていた。あの時の美咲のどこか思い詰めた表情。その顔が、今、自分のすぐ目の前にゆらゆらと浮かんでいた。
どうして聞かなかったのだろう。
どうして、美咲からその沈黙の先の言葉を聞こうとしなかったのだろう。
どうしてあの静寂は、私と美咲に安らぎを与えてくれなかったのだろう。どうして私たちを守ってくれなかったのだろう。
私の頭の中を様々な言葉がぐるぐると巡る。
だけどその言葉のどれ一つも、私は両手で掴むことはできなかった。
ただ私は、電話口の向こう側にいる真里に「ありがとう……」と呟いていた。
「え?」
「ありがとう……。そのことを私に教えてくれて、本当にありがとう」
「うん……」
私たちにそれ以上何も話すことはなくて、どちらともなく電話を切った。




