第4話
久しぶりに見た美咲は、少し痩せていた。
顔もどこかやつれているように見えた。
だけどその時の私は、「きっと、仕事が忙しくて疲れているんだ」という言葉に、目の前の美咲の姿を結びつけていた。その言葉の中に逃げ込んでいた。
「久しぶり」
私は美咲に向かって右手を小さく上げる。
美咲も「久しぶり」と返し、そしてかすかに微笑んだ。その微笑みはどこか悲しげで、私にはまるで泣いているみたいに見えた。久しぶりに聞く美咲の声はとても懐かしくて、逆に私のほうが思わず泣きそうになった。だけど街中で泣くわけにいかなくて、私はその気持を押し隠して美咲の前に立っていた。
私たちはどこかその場を去りがたくて、街の雑踏の中をしばらくだまって立ち尽くしていた。そしてすでに他人のような顔になってしまったお互いの顔を見つめていた。
始めにその沈黙を破ったのは美咲だった。
「少し、話をしない?」
その言葉に、特に急ぎの用事もなかった私は、「いいよ」と答えた。
私と美咲は二人並んでゆっくりと街の中を歩いた。どこに行こうかなんて一言も喋らなかった。二人が話をするために行く場所は決まっていた。学生時代、二人で数え切れないくらい行った、あの小さなカフェだ。
私がそのカフェのドアを開くと、懐かしい顔のマスターがカウンターの向こう側に立っていた。私と美咲の姿をドアの向こうに見つけたマスターは、低くて小さな声で、「いらっしゃいませ」と言う。そしてその言葉につなげるように、「久しぶりだね」と呟くように言った。三年もこのカフェには行っていないはずなのに、マスターは私達のことを憶えていた。
私はマスターに小さく頭を下げてから、店の中を見回す。
私と美咲がいつも座っていた一番奥の席が空いていた。私はその席に向かって歩き出す。後ろで、美咲の靴音がこつ、こつと聞こえていた。
座席に座り、マスターに「レギュラーコーヒーを二つお願いします」と注文をする。私と美咲が頼むものはいつも決まっていて、そしてその注文を私がまとめてするということもいつの間にか暗黙のルールのようになっていた。
マスターがテーブルの横から歩き去ると、途端に私と美咲は静寂の中に包まれた。私は改めて目の前に座る美咲のことを見る。目の下にはくまのようなものが透けて見えていた。
「最近、ちゃんと眠れている?」
私は美咲に尋ねる。
美咲は、先ほども見せた、泣き顔のような微笑みを顔に浮かべながら、「うん……まあ、ぼちぼちかな」と囁くように呟いた。




