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第3話

 

 私は椅子に座り、しばらく窓の外を眺めていた。

 ジャズなのか、私が知らない音楽が店には流されている。その音はとても小さく、耳を済ませていないとカフェの中の雑音に紛れてしまいそうだった。私から少し離れた席に座っている若い女性二人組は、声を潜めて何かを話している。その話の途中途中でカップを持ってはまた皿の上に戻す。カップの触れ合う音が、小さく流されている音楽と妙に合っていて、一つの音楽のように店には流れていた。

 その一つ一つが、「あの日」の午後の記憶を私の中に呼び覚ましていく。

 私はポケットからスマホを取り出した。

 ホームボタンを押して、画面を表示させる。

 スマホの上に設けられた小さな黒いレンズが私の顔を写し取り、顔認証を終えると、待受画面は一瞬でホーム画面に切り替わった。

 右上にはメッセージアプリのアイコンが配置されている。一番使うアプリだから、親指ですぐに押しやすい位置に置いている。私の親指は、無意識の中でその緑色のアイコンをタップしていた。そしてその親指は、私の意志なんて気にすることもなく、美咲とのトーク画面をそのままタップする。過去に美咲と交換したトーク内容が画面に表示される。

 美咲から届いた最後のメッセージは、一ヶ月前の日付になっていた。そう、「あの日」だ。あの日の夜、美咲はそのメッセージを私に送ってきた。そしてそのメッセージが美咲から届いた最後のメッセージだった。

 そこには次のように書かれていた。

「今日は楽しかったね。また、今度、会おうね」



 あの日、私と美咲は偶然街で出会った。

 大学を卒業して三年の月日が流れていた。

 大学在学時は毎日のように会っていたし、毎日のように一緒に街を歩いていたし、毎日のように小さなカフェに行っていたのに、その約束の時間が切れてしまったかのように、社会人になった私たちは会わなくなっていった。あんなにも一緒に進んできた道のはずだったのに、卒業の日を境にして、私が進む道と、美咲が進む道は全く別の道になっていた。

 社会人になった私には私の世界が、そしてきっと美咲にも美咲の世界ができあがっていて、私たちの世界はいつの間にか交わらなくなっていた。だけど、大学の友だちなんてそういうものなのだと私は思っていた。時々思い出したように美咲とメッセージアプリで近況を報告し合っていても、その頻度も徐々に減っていった。

 私が街で美咲と偶然会ったのは、そんなある日だった。



挿絵(By みてみん)


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