第1話
人はみな、誰にも言うことができない秘密を抱えて生きている。
どうすればいいのか分からなくて、それでも時間が止まってくれるわけもなくて、だからなんでもない顔を作りながら日々を生きている。
私もそうだった。
そしてきっと、美咲もそうだったのだと思う。
ゴールデンウィークの午後、街は多くの人で溢れかえっている。
私は彼らの間を縫うようにして歩いていた。どこに向かっているのか、私にも分からなかった。ただ、自分の足が向くままに歩き続けていた。そして私は、自分の足が私をどこに連れて行こうとしているのかを知った。
私は、以前よく通っていた下北沢のカフェに向かって歩いていた。
そのカフェは、大学時代、美咲とよく通っていた場所だった。
美咲とは大学の授業で知り合った。
英文学の授業が始まるのを、私は窓際の席に座って待っていた。そこに、どこか寂しそうな笑顔を浮かべた女性が私の隣りに立った。
「隣、空いていますか?」
それが、私が初めて聞いた美咲の声だった。
とても静かで、それでいて儚くて、すぐに空気の中に霧散してしまいそうな声だった。だけどその声は私の心の奥深い部分に響いた。
「はい」
私の声は、自分でも驚くくらい小さかった。
大学の授業で偶然隣りに座った二人。
それが美咲との出会いだった。
私は美咲の、この世界の中をさまよい続けているかのようなどこか儚い感じに惹かれた。美咲が私のどこに惹かれたのかは分からない。結局、美咲本人から聞くことはなかった。とにかく、私たちは授業が終わるとどこか離れがたくて、自己紹介をして、お互いの連絡先を交換した。
「私、杉原由貴って言います」
私の言葉に、美咲はかすかに微笑み、「私は高橋美咲」と答えた。
私たちはすぐに仲良くなり、授業の合間に二人でキャンパスを抜け出した。大学の近くの下北沢の街は私たちを優しく包んでくれたし、美咲は「なんか、冒険みたいだね」といたずらっぽく笑って、私の手を引っ張っていった。
古着屋を回って歩き疲れると、私たちは小さなカフェに行った。始めに気まぐれで入ったカフェだったけど、どこかその店の中の雰囲気が気に入って、私たちはその小さなカフェによく行った。




