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夢ドリーム

作者: カケル

 ある朝に覚ますと、部屋の机の上に爆弾が置かれていた。

 おもちゃかとボーっと見つめていたが、カウントが減っていることに気づいて本物であると理解した。

 言葉を失いながらも、勉強机の引き出しからハサミを取り出し、爆弾と向き合う。

 あからさまに剥き出しになった赤と青と緑の配線。

 その三本を凝視し、普通は二本だろッ、と心の中で突っ込む。

 テンパっている間にもカウントはどんどん進み、残り十秒を切ろうとしていた。

「ふ、ふざけんなっ」

 残り八秒。

「えっと、えっと……」

 残り五秒。

「ど、どっちだよっ」

 残り二秒。

「ままよっ」

 勢いに任せて赤を切った。

 ピーッ。

 大きな音を立てて、爆弾はコンマ一秒を残して停止した。

「た、助かったああ~」

 床に両手を広げて寝そべった。

 早鐘のようになる心臓がまだ耳に響いていた。

「……なんで?」

 一息ついていると、唐突に思い立つ疑問。

 戸締りはしっかりとしている。チェーンだってかけている。

 なのに、湧いたように置かれた爆弾。

 しかも目を覚まして残り三十秒というギリギリの数字。

 意図を感じる。

 瞬間移動と未来予知がなければできない芸当だ。

 ピンポーンッ。

 インターホンが鳴り、身体がビクッと震えた。

 立ち上がり画面をのぞくと、そこには恋人の沙羅。

『おはようっ、気持ちの良い朝だねっ』

 元気よく挨拶する沙羅。

 時計を見る。

 八時前。

 大学の一限にはまだまだ早い。

「待ってて」

 玄関へ向かいカギとチェーンを外す。

 扉を開けると、敬礼をして笑顔の彼女が立っていた。

「おじゃましまーす」

「颯爽と入るな、つか靴を脱げっ」

 オシャレに身を包んだ彼女は、上機嫌に靴のまま廊下を歩いて。

「うっかり♪」

 と、自分の頭をコツンとつついて、舌を小さく出す。

 靴を脱いで下駄箱へと片付ける彼女。

「下駄箱……?」

 ついさっきはなかったはずなのに、気のせいか。

 僕はスリッパを履き直して、廊下を歩いて彼女の後に続く。

「朝ごはんは?」

 と、周囲を見渡し、冷蔵庫へと向かう彼女。

「まだだけど」

「カレーが食べたいな」

 朝からいきなりそれとは恐れ入る。しかも白いスカートを着ているのに。

「作るから待ってて」

「ラッキー」

 そう言って、リビングに正座する彼女。

 僕は鍋と食材を色々準備して、五分もしない内にカレーを完成させた。

「どうぞ」

 緑色のカレー。

「おいしそー」

 と、棒読みで、ニコニコ笑っていた。

 スプーンで一口。

「うんこの味~」

 ベーと舌を見せて、緑色に染まったそれを見た。

 二又に分かれた舌先だった。

 その舌が、唐突に蛇の形をした。

「ちょ、なにして」

「あっかんべー」

 その蛇が巨大化して僕に襲い掛かった。

 身体をグルグルにして、締め上げてくる。

「く、くるし」

「えい」

 ぐちゃり、と。

 リビングを真っ赤に染めた。


 ある朝に目を覚ます。

「うう……」

 変な夢を見た。

 彼女なんていない僕が『彼女』と交際し、蛇に絞殺される夢。

 訳が分からないそれに、頭痛がする。

「水……」

 喉が渇き、ベッドから降りてキッチンへ。

 高価なマグカップを手に取り、そこへ水道水を注ぐ。

 流れ出て来たオレンジジュース。

 それをグイっとマグカップで飲み干した。

「ステーキみたいな味だなあ……」

 ボーっとする頭でそう口にした。

 頭痛がどんどんひどくなり、立っていられなくなる。

 膝と手をついて、頭を押さえる。

 吐き気を催し、血を吐いた。

 その血の中に、うねうねと動く灰色の幼虫。

「きっしょ……」

 倒れ込んで気絶した。


 ある朝に目を覚ます。

「なんだよさっきから……」

 いないはずの彼女の夢、血と虫を吐いて倒れる夢。

 変な夢ばかりだ。

「仕事のし過ぎかなあ……?」

 ベッドから降りてノートPCが置かれたデスクへと足を向ける。

 デスクトップには首を斬られた猫ちゃんのイラスト。

「仕事しないとな」

 アプリを開き、会社の同僚や上司とのチャット会議を始める。

 同僚はバンダナと重火器を手に持ち、上司は上半身裸で画面に映っていた。

「少佐、報告させていただきます」

 同僚が敬礼をして、上司に向かってそう告げた。

「うるさい、黙ってろ変態ッ。その銃で今すぐ自害しろッ」

 労基も真っ青な理不尽に、しかし同僚は笑顔で銃を頭に付きつけ。

「イエッサーッ!」

 発砲音と共に血飛沫と脳漿が画面に映り、同僚が画面からフェードアウトした。

「田中、仕事は終わったか」

「はい。極秘ミッション、完了しております」

 暗殺に成功し、今しがた小休憩として寝ていたのだ。

 ホテルの外では、建物を工事する音が響いている。

「よくやった。これが報酬だ」

 そう言って、画面から手を伸ばしてくる上司。

 その手には、核爆弾。

「これでしばらく眠ってくれ」

「イエッサ―」

 手りゅう弾のピンが抜かれ、部屋に投げられる。

 内部の原子核が核分裂を起こし、それがさらに連鎖する。

 カッと光り輝いたかと思うと、意識がTPS視点になり、全てを見通せる場所へと移動。

 日本国の一部が、いや、日本全土が火の海と化した。

 その余波は周辺国へと至り、全てを破壊していく。

「ああ、綺麗だ」

 そう呟きながら、さらなる爆発、つまりビッグバンに呑まれ。

 僕の意識は真っ黒になった。


 ある朝に目を覚ます。

「変な夢……」

 俺、中学生。

 仕事とか、大学生とか、彼女なんて一度としてできたことはない。

「ねむ……」

 布団を被って再び寝ようとすると、大音量のアラームが鼓膜を破った。

 無音。

 何度も瞬きして、布団を外して、耳から流れる青い血を確認して、アラームを止めた。

 止めた。

 聞こえないはずの音がなぜか解り、それが止まったと認識した。

「……また夢?」

 これが明晰夢と言うやつか。

 だったら今、何でもできるんじゃね?

「空飛びたいっ」

 子供じみた感想を胸に、部屋のベランドへと出た。

 二階建ての一軒家。

 外は住宅街。

 けれど空は赤紫色。

「いっくぞお~」

 身体が小学生みたいに縮んでいたが気にしない。

 手すりに上り、スーパーマンみたいに両手を上げて、手すりを蹴った。

「あれ?」

 けれどイメージした内容は夢に反映されることなく。

 私は地面へと重力落下して。

 目を覚ます。


「おやおや……」

 目の前に、見たことのない人型の生物がいた。

「被検体が目を覚ましてしまいましたよ」

「仕方ありませんよ。何度も何度も夢を繰り返すとこうなるのは知っていたことでしょう」

「まだまだサンプルが足りません。他の被検体たちは?」

「良好ですね。千体の人間を、さまざな人種を連れ出して行っている研究ですから」

「ええ、失敗は許されません」

 二人の宇宙人がそう話していた。

「また彼には眠ってもらいましょう」

「ええ、そうですね。そういえば、負荷のかかり過ぎた被検体はどこへ移動させましたか?」

「ああ、それなら破棄しましたよ。今頃宇宙のごみになっているかと」

「何をしているのですっ。死体もまた研究対象になっていることを忘れたのですかっ」

「何ですって? ……わたしが報告しておきます」

「ご武運を」

「大丈夫ですよ。我々研究員をそう易々と切り捨てるほど、我々のトップはそう馬鹿ではない」

 これも夢……か。

 だよな。彼らの言葉を理解できるなんてこと、ありえないし。

 眠い……。

「投与した薬が効き目を表しました」

「ではそれも記録しておきましょう。よい夢を、青年の人間」

 僕は目を瞑った。

 目を瞑ったのかどうかも解らない。

 けれど僕はまた眠った。

 心地よい意識の消失と共に。

 僕はまた夢を見た。

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