第二十一話 深層の盾ファルアド
「もしや、これが理性結界かのう?」
「凄い集中力ね.......。
脳の痛みに無縁で短期でクリアした天才も中にはいたわ。
けど、痛みがあるタイプが痛みに耐えながらやり終えるなんてね。
一体、何があなたをそこまでさせたのかしら?」
脳がズキズキする。
だが、ワシは不思議と自らが高揚しているのを感じる。
「ワシには、今まで歩んできた道のりがある。
決して楽な道のりではなかったが、ワシより強い男たちを超える上で決して近道など通ることはできなかった.......!
ワシより凄いヤツ、ワシよりポテンシャルのあるヤツはいくらでもいる。
だが、ワシ以上に挫折を乗り越えられる男はどこにもおらん。
それが、今のワシの誇りなんじゃ」
「武人としての境地......興味深いわね。
しかもその若さでしょ?
ますますあなたに興味が湧いたわ」
「ハァ、ハァ......久々にこれだけ疲れたわい。
とりあえず、ワシゃあ少年を助けに行ってくる......!
その後のことは、頼んでも良いかの?」
「待ちなさい......!
たしかに石化は解くけど、せっかちは体に毒よ。
せめて回復はしておきなさい」
「回復って、どうやってやるんじゃ?」
「私がやるわ。
神気を使って、肉体と精神に溜まったダメージを中和するの」
ワシの体に光の粒子らしきものが流れ込む。
粒子はワシの体に少しずつ順応していくと、次第にワシの体に蓄積されたダメージを徐々に回復していく。
こんなに心地良い気分になったのは生まれて初めてだ。
「神気回復。
神気の中和回復粒子よ。
とりあえず、これでまた全開で戦えるんじゃない?」
「お前さん、やっぱり手加減しておったじゃろ?」
「今更かしら?
ま、私を倒すなんて試練は課してないから、気にするまでもないでしょ?」
「むぅ......ワシは割と凹むぞ、手加減されてたなら尚更のう」
「じゃ、気分直しにこれでどう?」
深層の書神は自身の持つ書物のページを破り、その紙切れを一瞬で燃やす。
その瞬間、まるで等価交換でも起きたかのように、深層の書神の手の上に神気を帯びた漆黒の盾が現れた。
「こ、これは!?」
「深層の盾『ファルアド』よ。
あなたならきっと使いこなせるだろうと。
面倒な試練に付き合わせたんだもの。
特別なご褒美。
あなただけ、特別に」
ワシは漆黒の盾を深層の書神から貰い受ける。
その瞬間、全身に神気が流れ込んでくる。
どこかほっとする熱を帯びているようにも感じる。
「ありがとう!!!
恩にきるわい!!!
これ、かなり性能の良い盾じゃよな!?
良いのか、こんなものを受け取ってしまって!!!」
「いいから、あなたは例の石化少年を回収しにいきなさい。
早くしないと、何が起きるか分からないわよ?」
深層の書神はプイッと顔を背ける。
ワシは一通り黒い盾を抱きしめた後、ぐいっと全身をストレッチで伸ばしてひょいひょいと闘技場の壁を飛び越える。
そして地底領の地面に急降下すると、動脈坑道の元いた道に戻り、例の石化した少年を発見する。
「よかった......外傷はないようじゃな。
傷もない......して、例のヤツは......」
ワシは血液坑道の奥を見つめる。
奥からは先ほどの三魔耀の一種、恐怖の怪物が姿を現す。
やはり見た目だけで言えば、もっとグロテスクで生理的にキツいものは他にいる。
まだまだ許容範囲内の見た目だ。
「理性結界」
ワシは肉体と精神の補強能力を同時に発動する。
どうやら、精神補強の弱点は内臓への負荷らしく、肉体補強を解いた瞬間内臓の激痛と強烈な吐き気、そして頭痛に襲われた。
つまり、肉体補強は必然的に内臓の補強も行なっているといえる。
肉体補強の強みは筋肉や骨格だけではないのだ。
「ワゥアァアアアアアアア!!!!」
「もうお前さんの声は届かんぞ.......!
モリド・バーク......リベンジじゃ......!」
恐怖の怪物は唸る。
先ほどと同様に超音波を発し、ワシを恐れ慄かせようとしてくる。
だが、ワシには何の効果もない。
なるほど、これが理性結界の力か.......!
ワシは強く拳を握る。
漆黒の盾ファルアドを握り、闘気の籠った盾を思い切り恐怖の怪物に叩き込む。
肉体補強の補正もあって、地上の時とは比べ物にならない身体能力に切り替わっている。
「ぐぇあっあああああああっ!!!」
「盾直拳!!!」
その極限の身体能力の詰まった一撃は、恐怖の怪物を一撃で地に沈め、そして血液坑道を陥没させた。




