第二十話 補強能力、失敗の天才
「いい、理性結界の基本は脳に気を送り脳そのものを補強することから始まる。
でも、そうなると次は欠陥系、そして臓器や筋肉、全身に至るまで様々な弊害が生まれてくる。
これらの弊害はね、一度引き起こしてしまうと悪循環の火種になる。
そこで重要になってくるのが、肉体の全身補強こと肉体補強よ。
肉体補強はね、全ての補強の基礎。
武人であるあなたなら知ってるでしょうけど、この肉体補強の本来の使い道は精神補強なのよ?」
「なるほど、精神補強は肉体補強の延長線上にあるのじゃな?
それで精神補強は弊害が出やすいから、それを対策するために肉体補強を使うのが本来の目的......なんとなく、そんな気がするわい......!」
「気による補強全般を人は『補強能力』と呼ぶ。
そしてあなたが今最も必要としているのが、そのうちの理性補強、その理性結界よ。
アイツはね、動物の理性を破壊して恐怖を刷り込む超音波を発する性質がある。
私としては音の遮断という手も考えたんだけど、こと地底において周囲の音を聞き逃したら命取りになる。
もし頭上の岩が崩れる音が聞こえなかった場合、そのまま即死するからね」
「そういうことか。
たしかに音を無力化するより、恐怖を刷り込まれるという致命的なダメージを無力化する方が今後のためには良いわけか」
「じゃあ、次のフェーズに進むわ。
肉体補強、そして精神補強を繋ぐ『補強能力』の結び方よ」
「補強能力の、結び方?」
「肉体補強と精神補強の説明はしたわ。
次は実践編。
基礎から叩き込む。
まずは全身に気を流して肉体補強。
これは武人たちがよく教える寸法だから、あなたもできるんじゃない?」
ワシは深層の書神の言った通り、肉体補強を発動する。
全身に適度な気が流れ、気が肉体内で暴走しないよう上手く調節し、全身に揺らぎと熱を与える。
「こうじゃな?」
「次に肉体補強を維持したまま、それらの熱を脳に集中させてみて」
ワシは言われた通り肉体補強を維持した状態でそれらの熱を脳へ流そうと試みる。
よくよく思うと、肉体補強の使用は三年くらいやってなかった気がする。
と、その時、ワシの脳に異常な熱が宿り、焼き切れそうと思えんばかりの痛みが脳内を走ったのである。
ワシは頭痛に目が眩む。
だが、なんとなく感覚は覚えた。
次は、トライアンドエラーだ。
「大丈夫?
下手に負担をかけると、あなたの脳が壊れるわよ?」
「心配無用じゃ。
ワシを誰だと思っとる?
天下無双の、盾使い......モンズじゃぞ......!
必ず、会得してみせるわい......!」
「......やってみて」
ワシはひたすらに脳への熱を届ける練習を繰り返す。
途中、何度も何度も倒れそうになりながらも、立ち上がり、
脳に気を流し続ける。
こういうことは基本、時間をかけてやるものだが、ワシの場合はなぜか本能的に急ピッチでやってしまう。
なぜなら、ワシは誰よりも落ちこぼれだったから。
誰もが簡単に会得できる武術も、ワシは会得するまでに時間がかかった。
かかりすぎた。
ワシは誰よりも自分の体質、『失敗の天才』としての体質に苦汁を嘗めさせられた。
だから、だから......。
「ワシは、負けん......!
負けんぞ.......!」
時間にして約一時間。
ワシからしてみれば体感時間二時間半はかかったような感じがする。
そんな時だった。
ワシの脳が気に順応してきたのは。
ワシは次第に肉体補強から脳に負荷をかける精神補強を成功させていく。
そして......理性と思しき脳の管理部位に直接、自ら辿り着き、自力で理性結界を発動するまでに至った。




