第十九話 ラマー・ヘウリー
ワシは左耳から溢れ出る血を指で止める。
流石に、これ以上の戦いは余力を失うハメになる。
こんな化け物とこれ以上やり合えば、ワシの身が保たない。
「残念ね。
でも、潮時かもしれないわ。
あなたの実力は大まかには測れたし、私としてもあなたのことを知れてよかった。
じゃ、片付けしましょ」
深層の書神はテキパキと闘技場内に散らばった瓦礫やごみを片付け、破損した部位を修理していく。
どうやら、深層の書神というのはかなりの綺麗好きのようだ。
「手際がいいのう。
神気による細やかな物質操作、これほどまでに見事なものは正直初めて見たわい」
「仮にも私は書神なのよ?
書棚の掃除や整理整頓は基本中の基本でしょ?
人間や馬鹿な神々は疎かにしがちだけど、適度な掃除は心のゆとりを作るの。
風通しもよくするから運気の流れもできる。
こう見えて一石二鳥なの。
気が向いたらこうして掃除でもしてみるといいわ」
「風通し、のう。
ワシゃあ粗雑じゃから、そこまで細かなことは考えられんわい」
「あなたも掃除屋くらいは雇いなさい?
できなければこまめな掃除を自分でやるとか。
それができて人は初めて普通になるのよ」
「耳が痛いわい。
ま、気が向いたらのう」
「さて、雑談は置いておいて、片付けも終わったから早速約束の恐怖の怪物の攻略の術を教えましょう。
知識は最大の頭脳なり。
知恵は知識の背骨なり。
心は知恵の心臓なり、ってね......!」
「なんじゃ、それは?」
「つまり、こういうことよ↓」
ーーー
知恵は心を取り入れてより豊かになる。
つまり、心という軸がなければ豊かにはならない。
知識は知恵を取り入れてより意味のあるものへと変貌する。
つまり、知恵という背骨があって初めて知識は活きてくる。
そして知識こそが人間最大の頭脳となりうるものであり、それらの根幹が出来上がってはじめて、最大限に機能を発揮できるものとなる、ということを表している。
ーーー
「へえ、はじめて知ったわい」
「ま、知識だけじゃ足りないものもあるけどね。
それを補うための教訓だったり、心だったり。
人はね、自分を成長させるために頭を使わないといけないの。
何も考えずに成長なんてできない、頭を使って人は先に進めるのよ」
「知識、ねえ......。
たしかに、ワシは無鉄砲な男じゃとよく言われるから、少しは参考にすべきかもしれんのう」
その後、ワシらは恐怖の怪物ことモリド・バークとやらのことについて話した。
互いの情報を共有した。
その結果、深層の話す怪物の詳細、そしてワシの話す怪物の目撃情報がほぼほぼ一致するだろうという結論に至った。
「あの怪物は人間からしてみれば恐ろしい獣よ。
肉食で、時に人間でさえ捕食してしまう。
ま、あなたなら問題なく対処できる実力はあるけど」
「教えてくれ、深層の書神.......!
どうすれば、あやつへの恐怖を対策できる?」
「方法なら一つ、あるわよ。
理性結界と呼ばれる、理性や感情に干渉する力を遮断する能力が」
「理性、結界じゃと......?」
「別名『資質の守護者』。
神気や闘気を使い、自身の理性の補強を行うの。
できれば神気による補強が一番いいんだけど、あなたは神気使えないわよね?」
「たしかに、ワシの体内には生まれつき神気が宿っておらんかった。
それを恨んだこともあった。
じゃが、別に神気などなくてもワシは戦えるわい!!!
神気は闘気で圧倒する......!」
「意固地ねえ。
でも、その意固地さがあなたの良いところでもある。
信念を貫き通すその強さ、ある意味感情の補強になっているわよね。
そのイメージよ、理性の補強に使えるのは」
「イメージを、使うのか?」
「補強とはすなわち、自身の感情の強度を上げること。
恨み、妬み、理性、喜び......基本、負の感情になるほど補強が簡単になってくる。
逆に怒りや欲望みたいな解放することで作られる感情には感情の補強が極めて難しいけど、あなたならいずれそのどれもができるようになるかもしれないわね」
「随分高く買ってくれるのう。
ワシはそこまで高いポテンシャルを持っておる人間ではないというのに」
「いいえ、怠慢のないあなたに精神面の強さで敵う人間なんてそうそう出てこないわ。
慢心を決して抱かないという利点はね、精神の無限大の成長に貢献するのよ。
あなたにはそれができる資質がある。
その能力はね、肉体的なポテンシャルを有する子供なんかより極めて優れているものよ」
「話が難しいわい。
とにかく、ワシは少年を取り戻しに行く。
だからその精神補強のやり方を教えてくれ......!
ワシは、立ち止まったままなど絶対に嫌じゃからな?」
そしてワシは理性結界のやり方を深層の書神から教わることになった。




