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失敗作Ⅱ  作者: 一鸞一
第一章〜地底領の魔物
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第五話 自責の念に駆られる


ワシはその異様とも言える全身を漆黒の毛に覆う怪物を見上げる。


赤く光る目、それ以外のパーツが一切見当たらない毛むくじゃらの大型魔獣は、ワシを見てニヤリと笑う。


「なんじゃ、このバケモンは.......!」


ワシは戦闘態勢に入る。

これほど不気味なやつは見たことがない。


おそらく『魔』の類、この世界における魔獣や魔物と呼ばれる間に魅入られた生物たちの一種だろう。

しかし、なぜこんなところに.......?


「ハァ、ハァ、太陽軍、悪魔騎士の次はこれか.......!

まったく、厄介ごとはタイミングがよく重なるのう.......!」


しかも、致命的になっているのがこの地形だ。

血液坑道と呼ばれるこの道はある程度の広さはあれど、目の前の怪物の体格がギリギリ許容されるくらいの大きさだ。


つまり、血液坑道が一本道だった場合、奴を避けて目的の地底領に行くことは極めて難しい、いや不可能と言える事態なのだ。


コイツは避けて通れない敵.......。

だとしたらかなり面倒だ。


【ヘッハッハッハ.......ガララララララララ】

 

笑っている?

なんじゃ、こやつは何を考えておる?

いや、魔物の思考を読もうとしても無駄じゃ。


ヤツの狙い、それがワシか、はたまたこの石像ルマか、見極ねばならない。

その時、ヤツの全身から紫色のガスが噴出される。


ガスは坑道中を埋め尽くすと、ワシの本能にとある感情を呼び起こす。

これは、なんだ.......?


どす黒い、嫌なものが頭によぎる。

まさか、これは........!

ワシは再度、漆黒の毛に覆われた獣を見上げる。


その瞬間、ワシの脳は凍りつく。

恐怖だ。

恐怖そのものが目の前に立っている。


なんだ、ワシは幻覚でも見ているのか?

目の前のコイツが、悍ましく、恐ろしい.......!

こんな経験、初めてだ。


「ワシに何をした、このバケモンが.......!」


体が勝手に後退りする。

まるで脊髄が勝手に魔から反発するかのように。


ふざけるな、ワシはこんな怪物如きで引くような雑魚ではない。


弱腰で逃げるくらいなら、最初からこんな道には来てはいないのだ.......!

目の前の魔物は吠える。


ぬおおおおおと雄叫びを上げるとともに、ワシは全身が拒絶反応に包まれていることに気づく。

この怪物、何か能力のようなものを使いよった.......!


「言い訳などせん........!

じゃが、ここで引けんのじゃ、ワシゃあ!!!」


ワシは全身に闘気を張り巡らせる。


そして闘気の弾丸を前方向に向かって投げると、漆黒の怪物はひらりと紙一重で躱しワシの背後を取りワシを吹き飛ばした。


「ぐあっ!」


そこまでの痛み、ダメージはない。

体を思い切り吹き飛ばされただけで、致命傷となるパンチではない。


しかし、体がどうしても言うことを聞かない。

なぜだ、なぜワシの体はワシのやりたいことの逆をやろうとしているのだ.......!?


ワシは必死に体の不自由に抵抗し、ルマを落とした坑道の方へ戻ろうと試みる次の瞬間、漆黒の獣は更に低い唸り声をあげワシに恐怖の感情を抱かせた。


「ちょっ、待て!!!」


ワシの体は勝手に動く。


まるで漆黒の獣に反発する斥力せきりょくのように。

磁石の如く脊髄や脳がワシの体に逃げろと命令を下すのだ。


ワシは、これがどのような状態なのか、まったく検討がつかなかった。

考える気にもなれなかった。


ワシはこの日、一人の男を置き去りにその場から逃げ去ってしまった。


「ハァ、ハァ.......

クソがッ.......何をしとるんじゃワシは.......!」


ワシは思わず暴言を吐き、悔しさを露わにする。

気がつくとワシは血液坑道を潜り抜け、地底領と思しき巨大な地下空間に辿り着いている。


だが、そんな事実をあっさりと上塗りするようにワシの中で悔しい思いが全身からだらりと滲み出ていた。


「こんな、無様にも逃げ仰るなど、ワシらしくもない.......!


あやつは、置いてきたルマはどうするつもりなんじゃ.......!」


ワシは頭を抱え後悔の念に溺れる。

悔しくて、自身への憤りで爆発しそうな感情がヒリヒリと喉を温めている。


こんなに、こんなに屈辱的で不快感極まることなどない。

ワシは、こんなことのために、自分を磨いてきたわけではない.......!


「へへ、みっともない.......何をしとるんじゃよ、ワシは」


ワシは昔、幼少期の自分が折れていたことを思い出す。

苦く辛い、挫折の経験。

ワシの成長のきっかけとなった、大きな挫折。


「あの挫折が、ワシを強くしたはず.......。

なのにワシは、逃げ出すのか.......?

こんなにも呆気なく、惨めに.......?


ふざけるな、ふざけるな.......!

ワシは、あんな怪物如きにやられるほど、軟弱なメンタルを持っているわけがない.......!


臆病は、すでに克服したはずなんじゃ........!」

 

不可解、あまりにも不可解だ.......!

ワシは、これまで数多くの恐怖と向き合ってきた。


ワシを恐れに導く自らの声と向き合い、自分がなぜ恐れ、なぜ立ち上がるのかを何度も試されてきた。

それを、こんな形でまだ踏み躙られるのか?


恐怖への勇気はこんな呆気なく壊れるものなのか?

ワシの中で数々の葛藤が生まれ、自身への猜疑心を作り出す。


「許さん.......!

ワシを引かせよって、あの化け物........!

絶対にリベンジしてやる........!」


強烈なプライド、ワシ自身の中にある決して引くことのできない戦士としての魂が燃え上がる。


そして怪物ヤツへのリベンジを心に固く誓ったところでワシの予想だにしなかった者がワシのもとへ現れた。


「苦戦してるようね、あの怪物に」


「.......!

誰じゃ!?」


ワシは上を見上げる。

そこにいたのは大量の書物とともに地面へとゆらゆらと浮遊するように地面に降りてきた、黒髪長髪の美女だった。


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