第三話 精神傑越
「馬鹿げているな。
誰がそんな提案に付き合うと思う?」
「怖いか?
ワシ如きに負けるのが.......!」
「ふっ、抜かせ。
お前なんぞに負けるほど、我らは落ちぶれではいないわ!!!」
六人のアメトスは一斉に神気の集中砲火をワシに浴びせる。
これほどの密度の神気を未だかつて浴びたことはない。
未知の領域だ。
「アメトスとの戦いは気が抜けんな。
流石は下界最高峰と謳われる者なだけはある」
「......効いていないのか?
偶像神に並ぶ我らの神気が.......!」
「気の操作は不得手じゃが、対策がないわけではない。
ワシら人間は来る日も来る日も鍛錬を積み重ね自分の弱さと向き合ってきた。
お前さんらのような生まれつきの強者には決して分からぬ境地じゃろう」
「何が言いたい?」
「お前さんらでは力不足ということじゃ。
ワシの本気、力なきものの最強の切り札をここで見せよう.......!」
無論、勝算はある。
地上最強の座に位置する『霊陽神』を討ち取る秘策。
これまで培った技術と土壇場での経験値がワシに最高の答えを教えてくれる。
「なんだ、全身から神気が満ちてきている.......!
この男、まさか......!」
膨大な気が練り上げられ、神気となり全身に馴染んでいく。
そう、この感じ.......本当の窮地でしか使わない、ワシが武術を好きになったきっかけの力だ。
『精神傑越』.......。
『神気』を操る秘伝の力、それをお前さんらに見せてやるとしよう.......!」
アメトスらはどよめき、明らかに常識から逸脱した存在に冷や汗をかく。
「精神傑越、だと.......?
その年齢で、武の極致に達しているのか、お前は.......!」
「通常、一般常識からしてみても武術の最高峰と言われるこの『精神傑越』には少なく見積もって三十年の月日はかかる。
無論、ワシはまだ十代じゃが、それでもこの力を得るための道のりは決して楽ではなかった。
辿り着いたのも偶然。
ワシもこの力が特別なものだと知った時にはたいそう驚いたものじゃ」
「当然だ。
精神傑越は精神的な消耗があまりにも大きいため、人間の精神力を加味すれば数十年、下手をすれば数百年かかろうと辿り着けないものさえいる、そんな次元の能力なのだ。
それを、お前はたった十年の月日で辿り着いたというのか.......!?
馬鹿な.......!」
「ワシより強い存在はまだまだいるだろう。
この道はまだ通過点に過ぎん。
じゃが、お前さんらという強敵に敬意を表して潮目の変わり目であるこの時を全力で我が物にしてやる.......!
アメトス、地上の王者、お前さんらと正真正銘の最強対決じゃ.......!」
「この勝負に勝った方が、地上の覇権を握る大きな躍進を遂げると?
面白い........!
こういう日を、我々アメトスは待っていたのだ........!」
ワシは手に持っている太陽兵の剣に神気を流す。
神気により切れ味が向上した剣を振ると、足元の地面がまるで果物のようにサクッと割れる。
最後に剣を握ったのは三年、いや五年ほど前だっただろうか?
「剣を振れるのか、お前?」
「ワシは武人じゃ。
武人として一通りのことなら、一応のう?」
真価が問われるこのひととき、こういう時が一番戦いとしては盛り上がるものだ。
「正気か?
霊陽神に剣で挑むと?
よりにもよって最も無謀な戦いに身を投じるとは........!」
アメトスは闇の剣を創造し、握り込む。
どうやら、悪魔の長たちは並々ならぬ剣の腕を有しているらしい。
「剣から邪気を感じるのう。
お前さんら、闇に通じているようじゃな」
「知恵は闇より来たるもの。
人も同じだ。
人の本来の在るべき場所は闇の中心、狂気の理だ。
この世界は人間などにはもったいない」
「それがお前さんらの本性じゃな?
くだらん思想に染まった、身勝手な選別思想じゃ.......!」
「どちらがくだらないか、その目で見てみるか、人間.......!」
かまいたちの如く可視化できない強力な斬撃の数々がワシを襲う。
その数十、数百にも及ぶ空飛ぶ剣撃はワシの逃げ場を無くすかのように広範囲に向けて解き放たれる。
ワシはすかさず神気のこもった剣で数々の斬撃を受ける。
一つ一つが強力で素の剣で受ければ剣がボロボロになるであろう衝撃だ。
「まだまだ、想定の範疇だな」
「我らを侮るとは。
だが、所詮は人間.......!
六対一を覆せるほどの力などあるものか........!」
霊陽神が六人がかりでワシに近接、遠距離、その全てで攻撃を仕掛けてくる。
一つ一つの攻撃がワシの行動を抑制する「先読みの剣」で構成されており、ワシはそれらの攻防に思わず攻めの姿勢を自ら閉ざしてしまう。
「手がつけられんか.......!
我らアメトスは偶像神の中でも上位に位置していた元上位神.......!
お前なんぞが勝てるほど甘くはねえんだ.......!」
六対一、卓越した剣の使い手がワシを本気で殺しにくるその姿は、まるで弱い者いじめのよう。
ワシは彼らの剣技に押し込められ、徐々に手数を減らしていく。
「現実を知れ、人間.......!
お前たちは偶像神にも悪魔にも敵いはしねえんだ.......!
昔からの劣等種がこの世の支配者に逆らうもんじゃねえよ.......!」
「お前ら武人がチヤホヤされる時代は、
もう終わりなんだ........!
さあ、くたばれよ.......卑しい人間が........!」
彼らの剣には私情が混じっている。
なるほど、悪魔の長というのはこれほどまでに小物だったのか。
「少し、がっかりだよ。
これで地上最強とは、笑わせる........!」
ワシは剣の構えを一瞬変える。
その常識を遥かに超えた速度の動きに霊陽神はたじろぐ。
そしてワシは、その一瞬の隙を縫うように致命的な一撃を彼らに刻みつけた。
「ぐあっはっ!!!」
霊陽神六人が一斉に葬り去られる。
これはワシが昔に会得した、剣の真髄だ。
「仙人剣。
六人もろとも、あの世へ行け.......!」
退屈な戦いだった。
ワシは切り捨てた六人をその場に放置すると、悪魔たちの追跡を警戒しルマの石像を担ぎ智慧の神窟へと向かっていった。
唖然とする悪魔騎士らをその場に残して。




