第五十話 密偵チームの問題
ウリムは驚愕する。
その赤き闘神の言葉によって。
「盾狂い!?
盾狂いって、ハットルン神話に関係してるっていう、あの!?」
「誰に話したか知らねえが、アンタの噂はどこへ行っても耳にする.......!
伝説の武人、最強と謳われた民族を倒し、数多くの伝説の武人と刃を交え、戦いの伝説を刻んだ男.......!
まさか、こんなところで出会えるとはな.......!」
「ワシこそ、お前さんのような武人に会えて光栄じゃ......!」
「まさか、本当にあのハットルンですか!?
盾を持って戦場に参戦する、人智を超えた狂戦士の元となった人物......!
そんな人が、本当に僕の目の前にいるなんて.......!
信じられません.......!
僕は今、二人の伝説を目撃してるのか.......!」
空想に浸り始めるウリム。
どうやら、ワシの戦いの逸話が元となった小説『ハットルン神話』についてかなりのファンであるようだ。
まったく、ワシの噂を好き勝手に物語にするあの馬鹿王には頭を悩ませる。
「まったく、あの馬鹿王め......!
あのクソ作家にとんでもないものを描かせよって......!
なーにがノンフィクションじゃ......!
ほとんどフィクションも同然じゃろうが......!」
「エリィ・スケラー.......話すって約束だったよな。
アンタなら、あの太陽軍だって敵じゃないかもしれないな」
「そうじゃな。
エリィ・スケラーという男について、お前さんの知る情報を教えてくれ」
「だがモンズ、アンタはエリィ・スケラーのことばかり知りたがるが、それよりもっと重大な秘密がゴイガックにはある。
俺としてはまずそっちを喋っておきたい」
「重大な、秘密じゃと......?」
「聞いて驚くといい。
太陽の王エリィ・スケラーのバックにいるのは偶像神『星の管理神ラムス』だ......!」
ーーー
こちら密偵チームサイド。
ルマは五つある密偵チームの一つに加入し、特別隊員として緊急時の戦闘をこなすことになったのだが......。
「なぜ俺たちがこんな部外者と
手を組まなきゃならないんだ......」
「仕方ないだろ、今ユメールは人手不足なんだ。
陛下も藁に縋る思いなんだろうさ」
「だけどよ......」
密偵隊に加わった他のメンバーは僕に対し大きな不信感を抱いている。
それも仕方ない、僕だってそもそも密偵に加わる気なんてなかったんだ。
それもこれも、ユメール王国現国王のラウム王が僕を直々に密偵隊に指名したのが原因だ。
なぜ僕が密偵に指名されたのか、その理由は至って単純だ。
密偵の人手不足と戦闘員の欠如だ。
現状、密偵として送り込むためのメンバーが致命的に欠けている。
それを補うための強力な助っ人として僕は密偵隊に加えられたのだ。
ま、僕を密偵に加えた理由はモンズと引き剥がすという目的もあるのだろうが、どちらにせよ僕も選択肢を選ぶ余裕がないのは確かだ。
「悪く思わないでくれ、君ら。
僕だって望んでここにいるわけじゃない。
陛下の指名を断れなかったのだって、とどのつまり僕らに選択権がなかったからだ。
僕とて、たった二人で無謀にゴイガックに乗り込むなんて真似はしたくなかった。
ユメール王国との共闘という条件と引き換えに僕はこの立ち位置に指名されただけ。
それ以上の理由なんてない」
「そんなのは分かってる。
だがな、それでも俺たちはユメールの密偵だ。
密偵のみの字も分からないヤツにこの仕事はできねえよ。
お前はせいぜい、邪魔にならないよう指を咥えて見てるんだな。
情報収集は俺たちがやる」
やれやれ、これじゃあ連携する気はゼロだな。
彼らの気持ちも分からなくはないが、エゴだけでやり通せる仕事には限度がある。
プロといえど、今回のゴイガック帝国への潜入は危険だ。
だからこそ、戦闘に長けた僕を保険として使いたいのだろう。
せめて、彼らを後ろから支援してやれれば変わるかもしれないが、かなり望み薄だ。
はてさてどうしたものか......」
五つの密偵チームは爆発物処理のスペシャリストの同行の元、それぞれ異なるルートからゴイガック帝国への潜入を試みる。
今回ルマたちが通るルートは西の防衛ラインの中央、西門の真正面にある位置だ。
他の密偵チームは防衛ラインに添い西門から上下に分散した後に迂回しながらゴイガック帝国を目指すことになる。
おそらく、最も早く着くと思われるのは僕らの密偵チームだ。
「たしかに見知らぬメンバーを迎えるのは反発したくてたまらないだろうけどさ、流石に蚊帳の外過ぎないかい?」
「余所者は信用できねえよ。
お前は黙って俺らに着いて来い。
逆らうならどうなるか、分かってるのか?」
密偵チームのリーダーは僕に対し脅しをかけてくる。
どうやら僕のことを本気でどうこうできると思っているらしい。
たしかに、密偵チームといえど、それなりにキャリアがあるし、一定の武術は身につけてはいるはずだ。
しかし、それでもこの男たちの判断は愚かとしか言いようがないものだ。
「君らさ、国を背負ってるっていう自覚はあるのかい?
僕を舐めるのはいいけどさ、
男なら腹を括れよ。
ここぞという時に連携が取れなきゃ、君らは必ず足元を掬われる。
後悔してからじゃ何もかもが遅いぞ」
「黙れ、余所者が.......!
貴様がいなければ、俺たちはもっと優遇されるはずなんだ.......!
お前さえ、いなければ.......!」
なるほど、この男たちは国民の命より名誉と金を優先するのか。
たしかに全ての人間が忠誠心を持つわけではないが、この班に僕が配属された理由が分かった気がする。
コイツらはユメールの懸念材料だ。
それを見抜いた上で、コイツらを
制御するのが僕の役目であると。
まったく、密偵だったら黙って仕事はこなせよ。
この状況で仲違いとか馬鹿にも程がある。
「これは、僕が何を言っても無駄みたいだね。
愚かな連中だ」




