第四十七話 鈍る腕、不十分な手応え
ここはユメール王国西部、王国の外。
ユメールの領土に隣接する巨大な森林地域は、通称『モヨヨの森』と呼ばれている。
モンズとエウロン、そしてウリムはユメールの外壁をひょいと飛び越えると、ユメール王国をこっそり出国した。
「やっぱりダメですよ、モンズさん、エウロンさん......!
この状況で無断出国はまずいですって.......!
見つかったら何を言われるか.......!」
「大丈夫、その時は俺が責任を取るよ。
どっちみち、監視に手は出しちまってるしな」
「お前さん、結構無茶苦茶やるタイプじゃのう」
「人生は一度きりなんだぜ?
軟禁されてる暇があるならもっと時間は有意義に使えるはずなんだよ。
俺はそうやって生きてきた」
「倫理的にアウトですよ、兵士を気絶させるのって......!」
「そうじゃのう、お前さんのそれ、完全に拉致にしか見えんしのう」
肝心のウリムはというと、エウロンに無理矢理抱えられ、抵抗も虚しく強制的にモヨヨの森へと連れて来られていた。
これは、口裏を合わせてエウロンを追いかけたということにした方が良さそうだ。
実際似たようなものだし。
「俺はいいんだ。
アンタの実力を見た後はそのままゴイガックに帰るつもりだからな。
こんなところで監視されるよりかは幾分かはマシだ」
「やってることが完全にユメール王国の賊じゃな。
拉致犯じゃし。
そんなことをしていれば、ユメール王国から本当に犯罪者認定されるぞ?」
「いいんだよ。
太陽軍を倒すのならそれくらいのリスクは背負うべきだぜ?
人間ってのはリスクなしで前に進めるほどあまいもんじゃねえのさ」
モンズたちはモヨヨの森の最奥までやってくる。
ここはユメールの民のそのほとんどが恐れ慄くほどの危険地帯。
危険な獣が多く蔓延り、実力ある騎士以外はまず近づくことすらないとされている獣の魔境である。
「よし、この辺りなら十分だろ。
森の中、薄暗くて戦うスペースもある」
「獣もいっぱいおるようじゃしのう。
こんな危険地帯にウリムを連れ込むとは、正気の沙汰とは思えん」
「心配するな。
この森の獣に俺が遅れを取るかよ。
ここは以前、俺が修行場にしていた場所なんだ」
「修行場、のう?
たしかに、素人段階の修行場と考えるならこの森はうってつけかもしれんな」
「素人が?
変なことを言うやつだな?
フフ.....」
ワシは遊撃大剣アブラドーズを構える。
漆黒の盾は背中に背負ったまま、エウロンと対面する。
「始めようか。
お望み通り、手合わせを」
「俺の要望に付き合わせて悪いな。
だが、遠慮は要らねえ。
こっちも胸を借りるつもりで戦うからよ.......!」
「お前さんは下がってろよ、ウリム。
今からこの森は、ワシらの独壇場となる.......!」
エウロンは素早く刀を鞘から抜き取る。
その手捌きはまさしく熟練の剣豪そのものの振る舞いをしている。
その時だった。
ワシの首筋に強烈な殺気と予感が走ったのは。
ワシは鋭く飛んでくる斬撃を遊撃大剣で防ぐ。
この男、やはりそこらの剣士とは一味も二味も違うようだ。
「この剣撃の強さ、まるで石の剣王とやり合っている時のようじゃ......!」
「ダイドロットと闘ったのか......!
やはり、強者は強者を引き寄せるようだな.......!」
「お前さんが強者かどうかは、まだ分からんぞ?」
「たわけッ!!!」
赤き闘神は容赦なく刀から斬撃を振るってくる。
洗礼の雨、生半可な者を篩にかけるようなその攻撃は、ワシが越えてきた試練そのものを想起させてくれる。
「肩慣らしにはちょうどいいわい.......!
もってくれよ、業物アブラドーズ.......!
ワシの攻撃は荒いぞ.......?」
ワシは大剣を斜めに構えその重量感のある刀身を遠心力で振り回す。
そして斬撃の雨を容易に凌ぐと、その剣撃からはワシの本性が顔を出した。
肩慣らしの一撃、重剣特有の重量がエウロンの剣に強くのしかかる。
「うがっ!?」
うむ、手応えはまだまだ不十分だな。
敵の芯に衝撃が辿り着いてない。
やはり久々の大剣は腕が鈍っているな。
盾に専念しすぎた弊害が出ている。
「追撃、しないのか?」
「大剣は久々なんじゃよ。
今は思い出しがてら剣を振るっておる。
安心せい、心配せずとも感覚は取り戻すつもりじゃ.......」
「余裕がないのか.......なら......!」
エウロンは足のつま先をトントンと地面に叩き、一段とギアを上げる準備を整える。
一方のワシはというと、まるで大道芸のように大剣アブラドーズを遠心力で自在に回転させていた。
その様子を見たウリムはワシに感嘆の声を思わず溢した。




