第四十六話 エウロンのメリット
「驚いた......!
では、赤き戦士というのは、赤の闘神のことか......!
道理で聞き覚えのある名前だと思ったわい......!」
「エウロンって、まさか.......!
ゴイガックの赤き闘神、エウロン・ウィーボ!?
そんな伝説の大物が一体どうしてこんなところに!?」
「規格外の怪物に負けたのさ。
ま、その話は追々してやる。
その前に、今は鍛錬を見せてくれ。
そこの男、名をなんという?」
「モンズじゃ」
「モンズか、覚えた。
是非アンタの武技を見せてくれ。
アンタからは少し、異様な武人の臭いを感じてる」
「ワシ、そんなに臭うか?
宿屋で臭いは入念に消したと思ったのじゃが.......」
「違う、そうじゃない。
臭いというのは強者特有の臭いという意味だ。
アンタ、相当強いだろ?
どんなに取り繕っても無駄だ。
俺の目は誤魔化せない......!」
「分かります!?
そうなんですよ......!
モンズさんからはなんというか、強者の中でも更に選りすぐりの何か、みたいなものを感じてならないんです......!
初めて見た時から、なんとなくそんな気がしていて......!」
そこで会話に飛びついたのはウリムだった。
ウリムはワシのことをまるで自分のことであるかのように嬉しそうに話した。
「ウリム、お前さんワシのことをそんなふうに見ておったのか!?」
「はい!!!」
うーむ、どうもやりにくい。
観衆込みで最初は武技の会得をやろうと考えていたが、よくよく考えればこれは悪手とも言える選択だ。
どうする?
大見栄を張ってしまった手前だが、戦争前である以上はやむを得ない。
仕方ない、断るか.......。
ワシは自分の発言を撤回するように、ウリムに対して自身の要望を打ち明けた。
「ウリム、お前さんには悪いがやはり一人でやってもよいか?
裏庭とはいえど、二人の視線に晒されながらではやるべきことに集中できん」
「ええ〜!?
見せてくれるって言ったじゃないですか!!
どうして急にまた.......」
「止めてやるな、少年。
そいつは手の内を明かしたがらない。
武人ってのは基本、自分の手の内を人には見せないものだからな」
「そ、そうなんですか.......!?」
「なぜか分かるか、少年?
理由は単純だ。
武人の手の内というのは武人にとっての最大の生命線、絶対に崩されてはならない砦のようなものだからだ」
「砦、ですか......?」
「武人は戦う際、それらの手の内を読み合い、命のやり取りをする。
だが、たった一つのミスが自分の死に直結することだって少なくない。
そういう機会を極力なくすために強い武人はいざって時のための必殺技を有しているんだ。
分かるか?
それらを晒すことのデメリットは、敵にナイフを手渡すことと同じ意味を持つ。
だからこそ、晒すことが憚られるものなんだよ」
「そ、そんな......」
「そうじゃのう。
ワシとしては戦闘前に手の内を晒すというのはできれば避けたいことなんじゃ。
お前さんにああ言ってしまってなんじゃが、武人としてはこの行為は致命的じゃ。
あの時は見栄を張ってしまったが、この街中じゃあ人目につく可能性も高まる。
あまり得策な行為とは言えんくてのう」
「ただし、アンタにとってのメリットがあるならまた話は別だよな?」
「メリット?」
「俺と手合わせするんだ。
お前の手の内を晒す代わりに俺の手の内をアンタに見せてやる。
どうだ?
それなら納得の条件だろ?」
ワシはエウロンの不意の提案に内心少し狼狽える。
しかし冷静に持ち直し、エウロンの提案に耳を貸す。
「納得とはいうが、お前さんに何のメリットがある?
見ず知らずのお前さんが、ワシの前でわざわざ手の内を晒すことのメリットが......」
「いいんだ。
俺はアンタに興味があってこの提案をした。
俺のメリットは一つ、アンタの強さを知れることだ。
逆にアンタは武人連合第一位を自負しているこの俺の実力を知ることができる。
どうだ、あまり悪くない話だろ?」
ワシはこの時、ルマの言葉が頭に浮かぶ。
『ラウム王はおそらく、太陽の王の暗殺も狙っているはずだ』
そういや、太陽の王エリィ・スケラーは一体どれほどの強さだったかのう?
ワシはうんと考える。
そして考えた末、一つの結論に辿り着き、それらを提案することにした。
「そうじゃな、少し条件をつけるなら考えてやらんでもないぞ?」
「条件?」
「エリィ・スケラーの話をしてくれ。
ヤツ、現太陽の王に君臨している男が一体どのような男なのか、お前さんの知る限りの情報を教えてくれ。
それがまず一つ目じゃ」
「一つ目?
条件はいくつあるんだ?」
「二つだけじゃ。
ワシの要望はもう一つ、ユメール王国外でかつ人目につかない場所での手合わせにするというのが二つ目じゃ。
お前さん、赤の闘神と呼ばれる傑物なんじゃろ?
だとしたら下手に街中で手合わせなどできはせん。
この街が破壊されてしまうわい」
「なるほど、町への被害の考慮か。
だが意外だ。
街を破壊できる、それだけの自信がアンタにあると?」
「悪いのう。
ワシは本気で心配しておる。
何と言われようと、この条件は呑んでもらう.......!」
「......いいだろう。
その条件で呑んでやる。
その代わり、俺にももう一つだけ条件を追加させてくれ」
「なんじゃい、次から次へと.......」
「そこの少年を連れて行け。
彼はきっと、この国の未来を担う重要な人物となる。
それに彼ならば、アンタから盗んだ技術を悪用するような真似はしないだろう」
「なぜ分かる?
そう言い切れる?
初対面じゃろ、お前さんらは」
「直感だ。
生憎、この手の目利きには自信があってね。
意外と外れないんだ。
それに、彼からリスペクトを受けることはきっとアンタの助けにもなるはずだ」
「ワシの助けに?
何を血迷い事を.......意味が分からんわい」
「さ、話は決まったんだ。
早速移動を開始しよう。
時間が惜しい、さっさと済ませるぞ、モンズ.......!」




