第四十五話 兵士のウリム
こうしてルマとワシは各々の役割をこなすべくその場で別れると、ワシは引き続きこのユメール王国西部の街にとどまることとなった。
「モンズさん、この度はユメール王国とラウム陛下をお救いいただき、ありがとうございます。
兵士のウリムです」
「ウリムか、よろしくのう」
そこにやってきたのはワシと同じく西部地方の防衛ラインに加わった兵士の一人、ウリム。
どうやらワシのもとにわざわざ足を運んでくれたらしい。
「モンズさん、今回の件、ハクウさんの非礼をお許しください。
彼はああ見えて、ユメールの民のことが心配なのです。
それできっと、あなたにキツく当たったんです」
「ほう、お前さんもあの会議に参加しておったのか!」
「はい、二人とも理知的で、英雄と呼ばれるような強い気迫を感じていました。
どうか、我々と共に太陽軍と戦ってはくれませんか?
この国は、本当にかけがえのない人たちがたくさんいるんです。
僕は、彼らを失いたくないからここにいます」
「心配せんでもええよ。
ワシは戦うと決めたらとことんまで付き合うつもりじゃ。
さて、ウリムよ、お前さん暇か?」
「暇ではないですが、昼夜交代制なので、僕の見張りは夜になると思いますよ」
「よかった。
それならば、ワシと訓練せんか?」
「訓練、ですか?」
ウリムは戸惑った表情でワシの顔を見つめる。
どうもワシの発言の意図が読めなくて困っているらしい。
「実は、新調した武器で肩慣らしをしたくてのう。最近大剣を振るってないから、少し感覚を取り戻しておきたいんじゃ」
「モンズさんって、大剣使いなんですね......!」
「いや、今は盾使いじゃよ?
ただ、武器屋の店主から良いものを譲り受けたから、それを無駄にしたくないのじゃ」
ウリムはまたもやワシの顔を見ながら困惑する。
当然じゃ、ワシも自分の経歴は常識とは違うことくらい認識している。
こうやって困惑させたことが何度あっただろうか。
「大剣を持ってるのに、盾使い?
珍しいですね、盾をメインに使うなんて」
「そうじゃろ?
最近になって盾の魅力に気づいたのじゃが、昔は剣、槍、大剣、斧、とりあえず色々と試していた時期もあったんじゃよ?
武術も独学で始めたし、とにかくあの頃は強いヤツに追いつきたくて必死にやってたわ」
「ちなみにモンズさんって、一体おいくつなんですか?」
「ワシか?
ワシは十九じゃよ?」
「十九!?
僕の二歳上なんですか!?
口調がまるでお爺さんですよ!」
「師匠の影響じゃろうな。
昔はこんな感じじゃなかったがな」
ウリムは目を見開き、ワシの顔をさらに凝視する。
そういえばユメール王国に入る前もルマと同じようなやり取りをやった記憶がある。
だが、今はそんなことに気を取られている余裕はない。
「すまん、ウリム。
話したいのは山々じゃが、今は早々に切り上げさせてくれ。
事態は一刻を争うほど緊迫しておる」
「そ、そうですね。
訓練、でしたよね?」
「さっきの会議で使った宿屋に用がある。
着いてきてくれ」
「宿屋に、行くんですか?」
「裏庭を借りるんじゃよ。
訓練と言っても技の訓練、戦場で使える必殺技を作るためのものじゃよ。
ついでじゃし、一緒に来い、ウリム」
「切り札......?
それって、ホントですか!?
是非見たいです、モンズさんの技!!!」
「おう。
お前さんの期待を上回る武技の極意を見せてやるわい......!」
モンズとウリムは宿屋に戻ると、再度宿屋の主人から裏庭使用の許可を貰う。
そして個室から深層の盾ファルアドと遊撃大剣を持ち込んだところ、裏庭で妙な敵意がワシに向けられていることに気づいた。
ワシの背後、影に隠れるように宿屋の壁に背を向けていたのは、ルマに助けられた男『赤き戦士』エウロンその人だった。
「眠りにつけなくてな、気晴らしになればと思って裏庭で休んでた」
「突然なんじゃ、お前さん?」
「敵意を向けたことは謝る。
興味本位だったんだ。
だが、少し想定外の反応だ。
俺の敵意に気付きながらまったく動じぬそのメンタル、そして全身から滲み出る闘気の質、間違いなく腕が立つだろ、アンタ」
「安静にしなくてよいのか?」
「生まれつき、回復は早いんだ。
それより、鍛えるんだろ、それ?
俺のことは構わないから、無視して始めてくれ」
「まったく、やりにくいのう」
「モンズさん、いいんですか?
彼、スパイかどうかもまだ定かではないですよね?
もし敵だったとしたら.......ちょっと怖いです」
「心配するな。
もし何かしてこようものならワシが対応する。
たとえ実力者でも、手負いの相手に出遅れるほどヤワじゃないしの」
「ヤワじゃない、ねえ?
ま、自信があるのは結構だが、俺より強い戦士はそうそういやしないから安心しろ。
なんたって、俺は元武人連合一位だからな」
男は自慢げにそう話す。
どうやら、概ねの見立て通り武人連合所属の武人だったようだ。




