第四十話 遊撃大剣-アブラドーズ
ユメール王国西部では、ゴイガック帝国に来訪する太陽軍の新王『エリィ・スケラー』を警戒してか、侵攻に備えて極度の厳戒態勢が敷かれている。
当然だ。
これまで太陽軍と戦ってきた勢力や国家は太陽軍に辛酸を舐めさせられ続けてきた。
今度もまた同じ目に遭わないとは限らない。
ワシは値札に目をやる。
正直、武器の性能を抜きにしてもこれほど安くこのクオリティーの武器を買える場所はそう多くはない。
ついでに試し切りや手に取った時の感触などを確かめるが、重量・硬度・実際の威力などなど、そのどれをとっても悪い印象はほとんど見当たらない。
唯一難点があるとすればその耐久性かもしれないが、それは使ってみるまでは分からないし、何よりこのクオリティーと値段で提供されるのなら買い物としては悪くない。
むしろありがたいのレベルだ。
「この国の職人はレベルが高いんじゃな、おじさんよ」
「その口調でおじさんか?
若そうなのに、随分とじじくさい言葉遣いだな」
「うるさいわい。
それより、この店で一番良い武器を見せい。
少し、興味が湧いたわい」
「はいはい、今持ってくるから待ってな」
店主は店の奥から分厚い刃を持つ大剣を担いでくる。
どうやら、この剣が店主の言う店一番の武器ということらしい。
どれどれ、実際の質感は......?
ワシはその大剣を手に取ろうと試みる。
それを見た店主は思わず「やめろ、持つな!」と叫ぶが、ワシはそれを片手で持ち上げてしまった。
「え.....?」
店主はワシが大剣を持った姿を見て絶句する。
ワシはその大剣を振り回し、剣の具合を肌で感じる。
どうやら、この剣はただの大剣とは一味も二味も違うようだ。
「業物だな?
この大剣、重量はあるが使い込めば切れ味が増す、熟練の大剣使いに持ってこいの剣だ」
「見る目があるな、兄ちゃん。
その通り、その剣は『遊撃大剣』。
鉱物から滲み出る油の影響で、使い込めば使い込むほど滑りと切れ味を増す名剣だ。
その代わり、その類の武器は滅多に市場には出回らねえ」
「作り手がいないんじゃろ?
その油の出る鉱石とやらを扱える職人が少なすぎて、のう?」
「その剣は重すぎて余程の剣豪じゃなければ操れねえ。
せっかくだ、兄ちゃん。
これ、貰っていきな......!」
「ちなみに、値段はいくらじゃ?」
「モディヌ金貨五枚(※)だ」
(※この世界の通貨。
金貨一枚=銀貨十枚=銅貨千枚。
銀貨一枚あたり銅貨百枚。
ちなみに、一般に売られている野菜の平均が銅貨十枚ほどで、最高級の宝石が金貨五枚からと言われている)
「金貨五枚か......すまぬ、足りん」
「手持ちはいくらだ?」
「金貨三枚じゃ」
「なら、今回は特別に金貨三枚で譲ってやる。
特別サービスだ。
コイツは腐らせるより、誰かの剣として役に立ってくれた方がいい」
「ほんとか!?
その言葉、嘘じゃあないよな、店主!!!」
「俺は嘘はつかねえ!!!
ドンと持っていけ!!!
この剣はお前を選んだんだ」
「恩に着るわい、おじさんよ!!!」
ワシは会計を済ませ、大剣を背負い外に出る。
これで背に背負う武器の一つから二つに増えた。
深層の盾ファルアドに、業物の大剣『遊撃大剣』。
これだけの武器だ、きっとこの先で活躍してくれるはずだ。
「久々の大剣じゃ。
大剣の勘も鈍っておるじゃろうし、こりゃあ素振りじゃな」
この時のワシは、ひたすらに基礎を修練していたあの時を思い出し、懐かしむ。
独学で始めた武術が通用しなくなった時、自分の根本を最も支えてくれたのが基礎の習得であり、基礎の土台だ。
そう断言してもいいくらいに、ワシは基礎の重要性を過去に思い知らされていた。
「基礎を思い出せば、少しは勘も戻る。
まずは素振り、そして角度の調節、技。
一つ一つ、思い出す作業が必要じゃ」
ワシは早速宿屋に戻り、裏庭を使う許可を貰ったので大剣の素振りを開始する。
この感じ、この新たな試みに取り組む感覚、全てが懐かしく、心地良い。
ワシはこのまま一時間ほど裏庭で素振りを継続した。
少年の頃を思い出し、ひたすらに夢中になりながら。
そんな時、買い出しを済ませたルマが裏庭にやってきていた。
「精が出るね、モンズ......!」
「ルマ.....来てたのか?」
「その剣技、君はやっぱりただの盾使いじゃなかったようだね?」
「ま、過去の話じゃよ。
ワシは盾を扱う前、剣、槍、大剣、ありとあらゆる武器を極めておった時期があったのじゃ」
「知ってるよ。
噂になってるからね、ありとあらゆる分野で武芸の逸話を残した男。
正直想像以上だよ」
「......戦争への備えは済んだのか?」
「まああらかたね。
今後はユメールの情勢とゴイガック帝国の動き、他国の干渉も踏まえた上で細心の注意を払う必要が出てくる。
モンズ、僕らも戦争に加わるぞ......!」
「本来ワシは組織の許諾なしに単独で戦いに加わることはできんのじゃが......。
太陽の王者が政権を譲り渡した今、攻め時じゃろな。
仕方ない。
この勝機、掴みに行く他あるまいな......!」
ワシは決断を下す。
組織に報告せぬまま、単独でユメール軍に参戦する意思を。




