第三十三話 ポロピラス
「モンズ!!!
婆さんからその男を遠ざけろ!!!」
「分かった!!!」
ワシは盾を構え、全身の膂力で巧みに遠心力を作り出すと、盾の横薙ぎを繰り出した。
「大独楽」
男はワシの思いもよらぬ速度に驚き、紙一重で回避。
その場から大きく後退する。
「......危ない、何だ今の攻撃は......?」
ワシは目の前の男に最大限の警戒をしながらルマの方に目を配る。
ルマの方はというと見たこともない焦りの表情を見せた後、冷静な顔に戻し婆さんの容態を確認する。
脈を測り、そして呼吸を確認するが、ルマは目を瞑り強く歯噛みする。
「即死だ......ミヨ婆さんは、もう死んでる......完全に、僕らの油断が招いたミスだ......!」
ルマは自身の迂闊さ、そして敵の襲来を見抜けなかったことを悔やむ。
「しかし不可思議じゃ。
ワシらが敵の気配に気づけないとは.......!
一体どういう絡繰じゃ......?」
「闇の勢力だよ。
一つだけ、この武術を使うものに心当たりがある......!
『闇の武術』だ.......!
太陽軍とは別に武人連合と鎬を削っていた裏の勢力......!
闇のギャング『ポロピラス』......!」
「ポロピラス.....あの黒蛇のか.....?」
「御明察......!
ご存知、武人連合と唯一肩を並べる裏の勢力、そして世界を統べる者。
そして我が兄様を讃えるために作られた組織、それがポロピラスだ!!!
お前たちなど恐るるに足らんわ!!!」
なんだ、コイツ?
急に溌剌と喋り出して、しかもどこか自慢げだ。
そしてよく見るとワシの方をチラチラと見つめ足元を震わせている。
一体、どういう情緒だ?
外ヅラだけで内心ブルブルにしか見えん。
気のせいか?
「モンズ、気を抜くな。
あれはおそらく暗殺部隊の人間だ。
察するにあれは闇の武術『透明化』だ。
なんらかの武術で透明になってるに違いない......!」
「透明化!?
透明化って、武術で会得できるのか!?」
「えっ、できないの?
武術ってほら、熱くなったり、硬くなったり、割と色々できるんじゃないのかい?」
「そんな便利なモンがあるならワシは真っ先に会得しとるわい!!
一体どこの流派じゃ!?」
「流派?
それは勘違いだ。
この透明化は兄様の能力。
決して武術などで補えるものではない......!」
「......ルマ、武術の経験は?」
「え?
ええ〜っと、どうだったかな〜.......よく覚えてないなあ」
「つまり経歴はほぼなし。
完全な素人ということか?」
「ぐっ......えっと、何が言いたいのかな?」
「ルマ、武術は魔法ではない。
体の仕組みを使った護身術だ。
もう少し、冷静になったらどうじゃ?」
「意外だ。
まさか、君に諭されるとは思わなかったな」
ワシはここでルマのウィークポイントに気づく。
今まで思い至らなかったが、もしやと思った。
彼はおそらく、独学の武人だ。
出会うと思わなかった。
独学でありながら、ここまで完成度の高い人間に......!
局所局所でどこか動きがぎこちないと思ってはいたが、彼は磨けば光る一種の到達者の原石なのかもしれない。
「ワシも元は独学だ。
ワシらはもしかしたら似たような境遇を経てきたのかもしれんな」
恐ろしい。
それと同時に同じ武人として誇らしい。
そんな感情がワシの中に芽生えていた。
「君に悟られるなんて、なんだか少し悔しくなるよ」
その時、ワシが最大級の警戒心を向けている男が突如動き出す。
「ルマよ、ユメール王の様子が急変しておる。
あれは、放置できんじゃろ?」
「モンズ、ポロピラスの彼の動きをマークしておいてくれ。
僕はあの男、ユメール王ラウムを処理する......!」
「俺を処理だと?
ハーッハッハッハ!!!!
もう遅い.......!」
「しまった......!
宝飾の回収がまだだ.......!
またうっかりしていたよ」
ポロピラス所属の暗殺者は思い出したかのようにラウム王に近づき宝飾の回収に向かう。
ワシから見て、ネックレス、王冠、指輪、そのどれもが異様な何かを宿しているように感じた。
その時だった。
ルマは突如ラウム王に近づくその男に危険を伝え叫んだ。
「近づくな!!!
アイツは魔だ!!!
触ればタダじゃ済まない!!!」
「え......?」
しかし時すでに遅し。
ポロピラスの暗殺者はラウム王の背後から現れる闇の腕に捕えられ、なすすべなく意識を絡め取られる。




